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オンライン遺贈寄付について知っておくべき10のこと:オーストラリアのプラットフォームGathered Hereの取組み

2024年3月、オーストラリアの非営利団体Fundraising & Philanthropy(F&P)が開催したウェビナー「10 things you should know about online wills」に参加しました。

登壇者は、2017年に設立されたオーストラリア・ニュージーランド全域を対象に遺言を作成し、好きな非営利団体への遺贈を誓約し、葬儀ディレクターを見つけ、遺産管理を手配する等のエンドオブライフに関する包括的なサービスを提供するGathered HereのHead of Partner Successを務めるLucy McMorron氏。


Gathered Here上の遺贈寄付のトレンド

まず、2020年11月~2023年10月末までのGathered Here上でのオンラインで遺贈寄付が残されたデータ(36,274件の遺言、総額4億4200万オーストラリアドルの遺贈寄付)をもとに、Gifts in Wills Report 2024が発行されました。そのレポートの内容を踏まえて、McMorron氏から遺贈寄付の傾向が共有されました。

下記リンク先から名前やメールアドレスを登録すると、そのレポートを見ることができるようになります。

ちなみに、Gathered Hereのユーザーの居住地の内訳は、下記の通り。ニュージーランドも対象ではあるものの、遺言作成および遺贈寄付の割合は1%となっており、オーストラリアのユーザーが大半であることが伺えます。

遺言作成者および遺贈寄付者の居住地(Gifts in Wills Report 2024より)

その1:オンライン遺言には、従来の遺言に比べて寄付が含まれる可能性が2倍以上高い

オンライン遺言を通じて寄付する人々は、従来の遺言を通じて寄付する人々の2倍以上の確率で遺贈寄付を遺言の中に含めているという傾向が示されました。オーストラリアでは、従来の遺言での寄付の割合は約9%ですが、オンライン遺言では19%に達しているそうです。

(スライド資料より)

その2:オンライン遺言書作成者の平均年齢は、従来の遺言書作成者の平均年齢に近い層

Gathered Here上のオンライン遺言の多くは、45~54歳の年齢層によって書かれているそうです。この年齢層が全体の22%を占めていて、従来の遺言書作成者の平均年齢と近いということがシェアされました。ちなみに、最若齢は18歳で、最高齢は103歳だったそうです。

(スライド資料より)

その3:高齢層ほど多くの遺贈寄付を行う傾向がある

オンライン遺言に寄付を含めている人達の平均年齢は48歳で、Gathered Here全体の遺言作成者の平均年齢よりも高くなっています。Gathered Here上の遺贈寄付の3分の1が、55歳以上の層によるものだそうです。(そのうち、65歳以上が16%、55歳から64歳の層が17%)

また、2023年の直近の年だけを見ると、65歳以上の割合が増加していて、
オンラインで遺言書作成を完了する高齢層が増えていることは非常にポジティブな兆候だと言っていました。

(スライド資料より)

その4:オンラインでの遺贈寄付が年々増加

データのある2020年から2023年までで、421%の成長があったとのことです。平均の寄付価値は58,000ドル以上で、総額4億4200万ドルに達し、毎年一貫した成長をしていることが協調されていました。

(スライド資料より)

その5:一人当たりの遺贈寄付が増加

先述の成長の要因の一つとして、遺言に含まれる遺贈寄付の数が増えていることが挙げられていました。その1で言及されているように、オンライン遺言の19%が遺贈寄付だが、実際にはその多くに複数の遺贈寄付が含まれていると言います。下記の画像は、3年間の各期間における寄付者1人あたりの平均の遺贈寄付数を表しています。最初の年には1.4から始まり、直近では2.4に達しました。

(スライド資料より)

なお、割合としては多くないみたいですが、下記のような資産価値のある物品もGathered Here上の遺贈寄付で実際にあったとのことです。

Gathered Hereでの遺贈寄付の現物の例(Gifts in Wills Report 2024より)

その6:一人当たりの遺贈寄付の平均価値も増加

遺贈寄付1つあたりの平均価値が58,000ドルと言われているそうで、複数の遺贈寄付を遺す人が増えていることから、寄付者1人あたりの遺贈寄付の平均価値も増加していると述べられていました。下記の画像では、113,000ドルだった平均価値が、直近では120,000ドルにまで増加したことを表しています。

(スライド資料より)

その7:テクノロジーがポジティブな変化を促進している

これらの増加の要因として、テクノロジーの活用が理由の一つとして挙げられるとMcMorron氏は語ります。

Gathered Hereでオンライン遺言を作成する際にユーザーの寄付行動を促すことができた方法の一つが紹介されました。下記の画像には、Gathered Hereのプラットフォーム上のスナップショットが載せられていますが、ユーザーが遺言を作成した後に、遺産の分配方法について質問が表示されるようになっているそうです。そこで、家族や大切な人達に対してだけでなく、彼らが関心を持つ非営利活動や団体についての質問セクションも設けられているそうです。

一例として紹介されたのは、グループリスティングの仕組みです。これにより、動物保護、子ども支援、健康、研究などの分野ごとにサポートしたい非営利団体を検討することができます。遺言作成者は、分野ごとのボックスをクリックするだけで遺言作成時点ではOK。各分野のボックス内の非営利団体は、Gathered Here側で定期的にローテーションするそうで、複数団体に分割して遺贈寄付することも可能だそうです。

(スライド資料より)

その8:大半のユーザーは、直接Gathered Hereにアクセスしてきている

Gathered Hereは400以上の非営利団体のパートナーがいて、各々で遺贈寄付キャンペーンを実施しています。しかし、Gathered Hereの遺言作成者の大多数は、非営利団体のキャンペーン等を経由せずに直接アクセスしてきていると言います。ユーザーは、オンラインで遺言を作成したいと純粋に考えていて無料で遺言作成ができることが選ばれる理由だという見立てが共有されました。それと同時に、特定の非営利団体に対して親しみや密接な関係性を持っていない個人が辿り着いている可能性もあると、McMorron氏は仰っていました。

(スライド資料より)

その9:連絡先情報を寄付先団体にシェアする人が増加傾向

興味深いことに、Gathered Hereからの遺贈寄付者たちは、非営利団体側にとって新規支援者であることがほとんどですが、その遺贈寄付者たちの約半分は連絡先情報を共有しています。先述のグループリスティングを通じて遺贈寄付をするユーザーの約49%が連絡先情報を共有しているそうです。(上記その8の画像参照)
これは、これらの支援者がその組織に可能性を感じていたり、既存のつながりのある非営利団体に加えてサポートしたいと思っていることを示唆していると言われていました。

また、テクノロジーの進歩とユーザーエクスペリエンスの小まめな改善によって、最初の年には32%だった遺贈寄付者の連絡先情報の共有率が、直近では52%にまで上がったとのことです。

(スライド資料より)

その10:スチュワードシップは可能である

最後に、「スチュワードシップは可能である」という話がありました。英語圏のファンドレイジングでは、よくキーワードに挙げられる「スチュワードシップ(Stewardship)」という概念ですが、この言葉に馴染みのない方は多いかもしれません。

ファンドレイジング・ラボの徳永洋子さんの記事には、下記の説明が載っています。

「スチュワードシップ」という言葉の意味は、寄付者に感謝して、寄付者との約束を守って、寄付者の期待に応えるように寄付金を有効に使い、それをきちんと報告して、次の支援につながるようにするということ、しかもファンドレイジングを成功させるものという以上に、ファンドレイザーの寄付者に対する責務だと教わりました。

ファンドレイジング・ラボ「スチュワードシップという考え方」より

では、「スチュワードシップは可能である」とは、どういうことなのか。従来の遺贈寄付では、寄付者本人が亡くなってから遺言執行者から非営利団体に連絡があって遺贈寄付の受取り対応が突発的に発生していたり、生前に寄付者本人と十分なコミュニケーションができない等の課題があるようです。

(スライド資料より)

Gathered Hereでは、他のファンドレイジング・プラットフォーム同様に、非営利団体が普段使っているCRMに寄付者データをエクスポートして管理ができるようになっていると言います。これによって、寄付者に対してスチュワードシップにもとづいた対応ができるということのようです。

また、匿名の遺贈寄付者については、全ての識別情報が非営利団体に対して隠されますが、代わりに追跡ID(a unique tracking IDとウェビナーでは説明)が割り当てられるようです。Gathered Here側は、このIDを使用して、匿名の寄付者や遺言の内容への変更や更新を追跡することができるようです。

その10の余談:匿名の遺贈寄付の捉え方について

ここで、ファンドレイジングにおいてどのように対応すべきかがよく議論される匿名寄付について、このウェビナーで言及されていたことも挙げさせていただきます。

遺贈寄付を受ける団体側にとって、寄付者に自団体や活動の詳細を共有し、遺贈寄付者に自身の意図を明らかにしてもらい、非営利団体がその方々と生前から関係性を構築し、感謝などのコミュニケーションを重ねていくことが理想的であると考えられます。一方で、遺贈寄付者が自身の意図を団体側に共有するかどうかは、その方自身の意思決定によるところになります。

ただし、遺言作成者が非営利団体から連絡を受けたくないと決めた場合であっても、その遺贈寄付が将来的に実現する可能性が低くなるという意味でないです。Gathered Hereを利用している非営利団体からは、本人が亡くなった時に受け取る遺贈の40~50%は、データベースにさえ載っていない人々からのものであるという情報が共有されているそうです。一方で、データベースにある人達であっても、その方々が遺言に遺贈寄付を残すことを知らせていなかったケースもあるとのことです。

本人がハッキリと言っていたわけではありませんが、匿名寄付に関するMcMorron氏の話をまとめると、匿名寄付者の個人情報を明らかにして、団体側のデータベースに登録して、色々な機会に参加してもらったり、コミュニケーションを重ねていこうとすることよりも、Gathered Hereのようなオンライン遺言プラットフォームが遺言作成者の非営利団体への遺贈寄付の意思の有無を明らかにすることができることに意義がある、というのがMcMorron氏の言っていたことの根幹にある考え方だと私は解釈しました。個人的には、オンライン遺言プラットフォームの立場ならではの意見で、新鮮に感じました。


いかがだったでしょうか?

今回ご紹介したGathered Here以外にも、オーストラリア・ニュージーランドを対象にしたオンライン遺言プラットフォームが出てきています。別のプラットフォームについて、過去に記事にしてあるので、ご関心のある方はご一読ください。

遺言と遺贈寄付を遺すことができるオンライン・プラットフォームがあること自体が、日本のソーシャルセクターにとって先進的に見えるかもしれません。

ファンドレイジング分野に限らず、日本はあらゆる面でデジタル化が遅れているというレポートもあるくらいですから、遺贈寄付のオンライン・プラットフォームも早く出てきて欲しいものです。

Gathered Hereをはじめ、遺贈寄付のプラットフォームの取組みも今後ウォッチし続けていきたいと思います。

記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!