たかはしともこ

ねくすぽすとというミュージカル団体で、都内を中心にオリジナルミュージカルの脚本・演出を…

たかはしともこ

ねくすぽすとというミュージカル団体で、都内を中心にオリジナルミュージカルの脚本・演出をしています。 日本大学芸術学部劇作コース卒。 4月は毎日短編投稿チャレンジ! 投稿した短編を朗読する企画『春の毎日朗読会』も開催中です! 詳しくはTwitterをご覧ください。

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「春の毎日朗読会」アーカイブまとめ

🌸春の毎日朗読会とは?ねくすぽすと代表たかはしともこ(@tomocolonpost)が2020年4月中毎日 「しがつちゃれんじとしてnoteに投稿した書き下ろした短編を、役者・鳥谷部城さん(@masakimi_castle)がその日のうちにLINE LIVE「#とりっぴらいぶ」にて朗読する企画。 4月30日に終了した朗読会のアーカイブを一覧にいたしました! タイトルをクリックすると投稿されたnoteへ、URLからはLINE LIVEへ飛びます。朗読開始時間の目安も記載してお

    • 小さな森のパーティ

      小さな木立の小さな森は、いつも静かな場所でした。川はせせらぎ風がそよそよと鳴るほかは、時々誰かの笑い声が遠くに聞こえるだけの、そんな静かな森でした。 でも今日は朝から様子が違っていました。朝早く、太陽が昇るのと同じくらい、聞いたことのないようなするどい声が響いたのです。 コケコッコー! その声を聞いた森中の動物たちが、眠たい目をこすりながら小さな原っぱに集まってきました。みんな口々に、なんだなんだと言っています。 原っぱではにわとりの一家が、新しく越してきた家を片

      有料
      300
      • 『遠い日の望遠鏡』

        久しぶりに実家に帰ったある日、部屋の奥からほこりの被った望遠鏡を見つけた。ねだってねだって、やっとの思いで買ってもらった望遠鏡だ。その話を父にすると、小さく笑いながら「高かったんだぞ」と言った。 どうして望遠鏡なんて不釣り合いなものを欲しがったのかといえば、大好きなみちるくんが大の宇宙好きだったからだ。ああ、そうだ、みちるくんのことが大好きだったことも、今思い出した。 幼馴染のみちるくんは宇宙が大好きで、月の満ち欠けとか、星のことにも詳しかった。よく二人で、夜空を眺めて過ご

        • わかめ

          何でもない朝のことである。早起きが得意な自分は、いつも6時には目を覚ます。季節によってはまだ日が昇り切らない時間。夜の残り香が心地よいのだ。 その日もまた、いつも通りの時間に布団を出た。白んだ空を眺めた後、朝食の支度をする。白米と、味噌汁、それから納豆。これもいつものメニューだ。6時に炊き上がるようセットした炊飯器から炊き立てのご飯をよそう。味噌汁は、手軽にインスタントのものだ。今日はわかめの味噌汁にしよう。お湯を注ぐと、味噌の香りが立ち込めた。それから、小粒の納豆を手早くか

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        「春の毎日朗読会」アーカイブまとめ

          神様の言う通り

          僕が神様に会ったのは、なんてことのないありふれた夏の午後のことだった。日差しはジリジリと容赦なく照り付け、汗が静かに滴るような、そんな午後だ。  とは言っても、僕は涼しい部屋の中で、昨日の幸せな一日のことを思い出しながら休日を持て余し過ごしていただけなのだが。 幸せな一日とはつまり、2か月ほど前に婚約したばかりの君との、何度目かもわからないデートのことだ。別に何か特別なことをしたわけではない。ただ待ち合わせをして、適当に買い物をして、どんな家に住もうかなんて話しながら食事を

          神様の言う通り

          神様の言う通り

          僕が神様に会ったのは、なんてことのないありふれた夏の午後のことだった。日差しはジリジリと容赦なく照り付け、汗が静かに滴るような、そんな午後だ。  とは言っても、僕は涼しい部屋の中で、昨日の幸せな一日のことを思い出しながら休日を持て余し過ごしていただけなのだが。 幸せな一日とはつまり、2か月ほど前に婚約したばかりの君との、何度目かもわからないデートのことだ。別に何か特別なことをしたわけではない。ただ待ち合わせをして、適当に買い物をして、どんな家に住もうかなんて話しながら食事を

          神様の言う通り

          「お前にはわかるまい。父の躯に添えた俺の手から徐々に熱を奪われていくあの微かな時間が、お前にはわかるまい。世界の中心であった父が固く目を閉じ寸分も動かなくなり、永続的に続くと思った日々が突如として様相を変えたことを受け入れるにかかった時間が、お前にはわかるまい。 父が帰ってきた時、つまり冷たい躯が家に運び込まれた時、ずいぶん綺麗になったものだと俺は安堵した。路上で何か所も刃物で刺され、体中血まみれになって事切れた父のあの姿は、とてもじゃないが女子供に見せられるものじゃなかった

          嫌われ者の愛した本

           村で一番嫌われ者のその少女は、村の奥の奥にある汚い小屋に、たった一人きりで暮らしていました。伸び放題の髪はあちこちに跳ね、絡まり、汚れ、長い前髪は少女の顔を覆い隠していました。かすかに見える顔は、薄汚れているように見えます。暑い日も寒い日も体に不釣り合いな大きなマントをすっぽり被り、やせているのか太っているのかもよくわからないようでした。  少女が暮らしている小屋の隣には、村の墓地がありました。汚い小屋とは対照的に、墓地はいつも綺麗でした。草木はきちんと切りそろえられ、季

          嫌われ者の愛した本

          雨の日コーヒー

          「【夕方限定】雨の日コーヒーあります」 その言葉に引き寄せられるように、もしくは突然の雨から逃げるように、僕は古びた喫茶店へ足を踏み入れた。カランカランと小気味よいドアベルの音と共に、香ばしい匂いを全身に浴びた。 少し薄暗い店内に灯るランプの光は温かくて、それに照らされた木目調のカウンターテーブルには、赤いクッションのついた丸椅子が8つばかり添えられているだけの、小さな店だった。 「いらっしゃいませ」と低い声がした。白髪(しらが)と髭の良く似合うマスターがカウンターの向

          雨の日コーヒー

          母の言いつけ

          人のためになることをしなさいと、母はいつも口にしていた。 山奥の閉鎖的な村で暮らす私にとって、その言葉が絶対であり、当然の如く守るべき戒めでもあった。 困っている人を見かければすぐに手を差し伸べたし、寒い冬には自分の空腹を我慢して弟に少ない食料を分け与えた。 母は、弟には優しかった。父もまた、弟を良くかわいがっていた。でも確かに、年の離れた弟は可愛かったし、自分がひどい仕打ちを受けるわけでもなく、強いて言うならば私には優しくないというだけであったから、あまり気には留めなか

          母の言いつけ

          秋の週末朗読会・冬の週末朗読会アーカイブまとめ

          🍁秋/冬の週末朗読会とは?❄ 毎週土曜日22時より、ねくすぽすと代表たかはしともこ(@tomocolonpost)と、役者・鳥谷部城さん(@masakimi_castle)がLINE LIVE「#とりっぴらいぶ」にて、本noteに投稿された短編を朗読する企画。 12月5日に終了した朗読会のアーカイブを一覧にいたしました! タイトルをクリックすると投稿されたnoteへ、URLからはLINE LIVEへ飛びます。朗読開始時間の目安も記載しております。 4月~6月には、「春の毎

          秋の週末朗読会・冬の週末朗読会アーカイブまとめ

          あの冬の風に刺されて

          どれだけ深く息を吸い込んでも、酸素は回ってこなかった。冬の冷たい風はまるで針のように肺を刺し、肌を刺す。リズミカルに繰り返されていたはずの呼吸は、もうずっと不規則に乱れ続けている。 息が苦しい。出来ることなら足を止め、息を整え、この場に座り込んでしまいたい。 それでも、走り続けるのだ。急がなければならない。このタスキを届けなければ、繋がなければならないのだ。 芯のぶれた体に鞭を打ち、一身に走り続ける。自分の荒く乱れた呼吸以外は、何も聞こえてこなかった。 もう間もなく、中

          あの冬の風に刺されて

          悪魔のクリスマス

          可愛い悪魔の坊やは、大人の悪魔たちにいつも口を酸っぱくして言われていることがありました。 「いいかい、クリスマスの夜だけは、決して表に出てはいけないよ」 坊やは良い子の悪魔でしたから、言いつけを破ることは決してありません。でもこの日に限って、ちっとも眠ることが出来ませんでした。 そして、しっかりとカーテンを閉められた窓の向こうがぼんやりと光っているのに気が付きました。 皆があれだけ厳しく言うってことは、クリスマスというものは怖いに違いない、と坊やは思っていました。 あの

          悪魔のクリスマス

          小さな村の口笛吹き

          もうずっとずっと昔のこと。小さな村の小さな広場に、愉快な口笛吹きがいた。 昼も過ぎた頃合いになると、口笛吹きはピューと高い音を出す。 その音を聞いた子供たちは、一目散に広場へと駆け出すのだ。 口笛吹きは集まった子供たちを舐めるように見回すと、もったいぶって話始める。 それは、ある時は勇ましい冒険活劇だったり、またある時は腹を抱えるような陽気な話だったり、またある時は思わず涙をぬぐうような別れの話であった。 とにかく、その口笛吹きが語る話は、平和な村の退屈にすら飽きていた子

          小さな村の口笛吹き

          窓辺にて

          生まれ変わったら鳥になりたい、と君は言った。 鳥になったら、猫に食われちまうよ、と僕は言った。 鳥は鳥でも大きな鳥よ。 猫なんかには、とても捕まえられはしないの。 君は笑って言った。 でも君はさ、と僕は負けじと言った。 小さなネズミを捕まえて食べるなんてできないだろう。 君はムッと顔をしかめた。 大丈夫よ。おなかが空いたら、何でも食べるわ。 君も意地を張っている。 鳥になって、大きな空を自由に飛び回るのよ。 海も超えて山も越えて、時々は木陰で休んだりするの。 で

          桃の森の魔術師見習いロメオ

          魔術師見習いのロメオは魔術師になるため修行中であった。 森の奥の大きい木に出来たウロが、ロメオの家だった。 この森には大きな桃の木があった。 森中のどの木よりも大きな桃の木は、魔術師たちの目印となっていた。 その桃の木が、一口食べればどんな病気でもたちどころによくなるといわれる桃の実をたわわに実らせ日、それが森で暮らす魔術師達の試験日であるからだ。 ロメオはそれはそれは焦っていた。桃の木は今やすっかり花を散らし、実を結ばんとし始めていたのだ。 しかしロメオはたった今、試験

          桃の森の魔術師見習いロメオ