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短編小説x写真【ブラックホールにも春が来る】渋谷のものがたり 6/3

公園の階段引きDSCF1855-1小

公園の階段upDSCF1863

足を伸ばして代々木公園まで来た。
桜が咲いているせいか人が多い。遠くでは犬たちが嬉しそうに走っている。

私はこの社会で……何がしたいんだろう。
頭の中を探っても何も見えない。

ざわざわとした人の声が、耳を滑っていくだけ―。

立ち上がり、パンに合うミルクティを買って喉を潤す。
ベンチに腰を下ろすと、前から見知った顔が歩いてきた。

「カナミちゃん、こんにちは。来てたんだ」
「あ、こんにちは」

彼女は、以前にこの公園で知り合った友人だ。
会えば挨拶をするようになり、連絡先を交換した。

「あ、そのパン屋知ってる。インスタで話題になってたよね」
「そうです。美味しかったですよ」
「私も今度買いに行こうかな。ねぇ、今日の格好可愛い。その服初めて見るけど、どこで買ったの?」

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しばらくはガールズトークに花が咲く。
まともに女友達を作れなかった自分が、こんな風に喋れる日が来るなんて思わなかった。

「今日は仕事お休み?」
「…はい」

彼女には私の仕事を「金融業」と言ってある。
真っ当な勤め先と思われているだろうけど、本当のことは言えない。

穴が広がる理由DSCF1268

この服も、趣味と言うよりはカモフラージュだ。

この街にはありとあらゆるものが揃っていて、どんな姿にも変身できた。
ここならきっと何でも手に入る。「生きる動機」以外は―。

物思いにふけっていると、聞き覚えのある下品な声が聞こえてきた。
げっ……先輩たちだ。
その途端、一気に空間が汚されていく。

輩に絡まれる引き

「あ?おい、カナミじゃねえか !奇遇だな」
「……お疲れ様です」
「ウッス!ていうか、あれ?いつもと格好全然違くないですか?」
「なぁ、オヤジ受け超良さそう。レンタル彼女のバイトでも始めたのか?」
「………」

……せっかくの休日になんで会っちゃうの!
聖域を侵された気がして、私は唇を噛みしめた。

「私、用事があるのでっ。失礼します」
「カナミ、レンタル彼女の客、借金まみれにしたらこっちに寄越せ。地獄の果てまで搾り取ってやるからよぉ」
「それいい!ウケるー」
「あはは…、考えておきます」

お前らが地獄に_小DSCF1474

お前らが地獄に堕ちろ!
毒づくと、またじわりと黒いモヤが広がっていく。

私はきっと、このまま変わらない。
どれだけ着飾っても、自分の中の闇が全てを消してしてしまうから。

広がっていくブラックホールの消し方を、私は知らない―。


続く


writer.   新田まゆ. https://note.com/nittamayu331

photography  江部公美
  https://vimeo.com/user20809234   
hair & makeup by Hinata Sakurai  https://www.instagram.com/h__ppppp/

featuring     山田佳奈実
  https://www.instagram.com/yamada_kanami
instagram     https://www.instagram.com/tokyo_girls_story

短編小説x写真【ブラックホールにも春は来る】渋谷のものがたり
第一話はこちら。
https://note.com/tokyogirlsstory/n/n2c96f16a8e5e
文章を考えてくれた新田さんが、制作裏話をこちらで紹介してくれています。本編の方で使わなかった写真などもこちらに掲載しているので、是非こちらもよろしくお願いします!
東京ガールズストーリーさんが公開中の短編小説×写真のショートストーリー「ブラックホールにも春が来る」のシナリオを書いたのでその裏話を語る。
https://note.com/nittamayu331/n/ne43940d71c9e


  

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