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餃子のように中身が詰まり過ぎている中国人とのルームシェア

「なんで中国人と一緒に住んでるの?」
「どこで出会ったの?」
「日本語?英語?中国語?」
「やっぱ餃子作りとかするの?」

こんな質問は、耳にタコができるほど何度も受けてきた。

私と彼女の出会いは、シェアハウス。
コロナ禍真っ只中、私たちは同じシェアハウスで共同生活を送っていた。
誰もリビングで過ごすことなく、各部屋へ黙って直行するハウスメイトたち。今思えばシュールな上に異様過ぎる光景。そんな中で、ある意味運命的な出会いを果たしたのが中国出身のこちらの彼女。

当時のことを少し思い返してみよう。
お風呂上がりにビールを飲みながら、のんびりとリビングで過ごしている私。そこへやってきたのは入居ほやほやの中国人。第一印象は元気でガリ勉そうな女の子。私が過去に想像していた中国人といえば、頭にお団子ヘアを作り、更に赤いド派手なチャイナドレスを着たイメージ。実際とは大きく異なっていた。
ちょっぴり酔っ払っている私の目の前に現れた彼女だが、5分後、この私から質問攻めに合うことになる。
私は昔から"この人面白そう!"と相手に興味を持つと、積極的に話しかけ友人関係を築いてきたタイプだ。私とは対象にこれを煙たがるタイプの人間もいるだろう。彼女に根掘り葉掘り質問しまくった結果、私たちはあっという間に仲良くなり意気投合。新たに中国人の友達ができたことが心から嬉しかった。そしてこの時の私は、餃子と肉まんのことで既に頭がいっぱいになっていた。

私たちはよくおつまみを作り、他のハウスメイトと夜を共にする時間も増えていた。仕事を終わらせて帰った後の私の唯一楽しみな時間。話題は決まって恋愛トーク。その頃はみんなフリーでいわゆる独身貴族。独身に貴族とつけるだけでなぜか自由で、勝ち誇った気持ちになれるから不思議だ。
彼女は歳も近く、名門大学院に通う超エリート中国人。日本の大学へ入るため、トイックスコア高得点を取得した優秀なトリリンガルなのだ。大学の本で学んだと思われる私ですら知らない難しい日本語を、彼女は日常的に使っていた。時には私の日本語の使い方を注意されることもあり、これではどちらが純日本人なのか、混乱を招くことも少なくなかった。彼女といるとなぜか私のバカが際立ってしまうのだ。
コロナウイルス流行真っ只中であったこの頃、彼女は大学院へも通えず、オンラインによる授業がメインだった。そのため大学院の友達づくりもオンライン。私は変わらず出社しており、家に帰ると時間を持て余した彼女が(この頃はまだ時間に余裕があった)得意の中国料理で晩ご飯をよくもてなしてくれた。私は正真正銘のストレートだが、自分にガールフレンドができたかのような気分になっていた。彼女の作ってくれた料理には、私の知らない謎のスパイスがいくつもあり、本場の中国の家庭料理を嗜む毎日。彼女が作る料理はどれも美味しく、そしていつもハイカロリーだった。今思えば、私が太る原因は彼女が編み出した罠だったのかもしれない。ここでなぜ私が先程から中華料理ではなく中国料理と述べているかというと、これも彼女からの教え。中華料理は日本風に味付けされた料理のことを指すらしく、彼女からすればこの二つの料理は全く別物とのこと。むしろ街中で中華料理屋を見つけ私が匂いに釣られていると、それは中国料理ではないとズバッと一言。私からすれば正直どちらでもよいが、中国の看板を背をった彼女からすれば、中国料理についてはなにか譲れないプライドがあったのだろう。

私の休日には決まって、お気に入りの田園調布にあるカフェへ。もちろん彼女も一緒。大きな窓から見える赤い屋根の駅、青い空に白い雲が窓から見える一角は、私のお気に入りの席だった。彼女と出会った頃は、多少なりとも彼女に気を遣いながら、ゆっくりとした日本語、わかりやすい単語とスピード、そしてボディランゲージを加えながら伝えることが多かったが、気づいた頃には普段職場や友達と話すような当たり前のペースで彼女と会話するようになっていた。一緒にいると不思議なもので、彼女の目の動き一つで、彼女が理解している日本語と、そうでない日本語がわかるようになっていた。
彼女は私のすることに何にでも興味を持つようになり、仕事の話、恋愛の話、家族の話、そしてなにかある毎に「なんでそう思ったの?」と、私の考えや価値観を確認するようになった。また、「◯◯は一般的な日本人の考え方と違うね」と言われたこともしばしばあり、どうやら私は世間と少しズレていることに気付く。果たして彼女は、こんな私から日本の文化をきちんと吸収できていたのだろうか・・・(ほら、私ふわっと生きてきた人間だから)。
この他にも、彼女と多摩川を一緒に早朝ランニングをしたり、カフェでブランチ、夜の散歩は欠かせなかった。毎晩のように、彼女の部屋でポテチをつまみながらプロジェクターで映画を観る恋人のような関係。いま考えれば、その辺のカップルより一緒にいる時間が長く、四六時中といってもおかしくはないほど私たちは同じ時間を共に過ごしてきた。夜の散歩中は、彼女に敬語の使い方やことわざ、四字熟語を教えながら、私の歴代彼氏の話をよくしていた。彼女は恋愛経験そのものが少なく、至って純粋。一方私はというと、純粋を通り越したゲス野郎だ。彼女にマッチングアプリをインストールさせたのもこのワタシ。それはさておき、こうして私たちは時間が経つにつれ信頼関係が徐々に深まっていった。

気付けば姉妹のような関係になっていたが、そんな矢先、シェアハウスを出なければならない事態が訪れた。私たちのオアシスだった女性限定のシェアハウスが、女性限定ではなくなってしまったのだ・・・mix型のシェアハウス、つまり男性も住めるシェアハウスに体制が変わってしまったということ。正直、男性と住むなどもってのほか(失礼)と思っていた私は、渋々退去申請を出すことに。理由はただ二つ。一つ目は男性特有のアノ臭いが苦手だから。家族と暮らしている男性なら100歩譲ってまだ許せるものの(何様)、一人暮らしの男性の臭いは私にとって強烈なのだ。生乾きの臭い、汗臭さ、そして体臭・・・。二つ目は、男性と共同生活をした場合、いちいちブラをしなければいけなくなること。家の中では基本ノーブラでいたい私。男性と住むとなれば、私の中の社会的常識が働き、今まで同様の私ではいられなくなるある意味ストレスだ。この二つの理由をどうしてもクリアできなかった。また、同じ理由で退去申込みをしたハウスメイトたちが後を立たなかった。私の知る限り居残り続けた女性は一人だけ。そしてもちろん、中国人の彼女も同じ理由で退去を選択することに。
久しぶり一人暮らし用の賃貸マンションを探すことにウキウキしていた私。しかしここでルームシェアの話を持ち掛けてきたのが彼女。
「○○と一緒に住んだら楽しいことしか想像できない」「○○となら、どんなことでも乗り越えていける自信がある」私はちょっとしたプロポーズを受けたような気分だった。考えに考えた末、彼女の熱い推しに負けた私は彼女とルームシェアすることを決意した。

これが私と中国出身の彼女との、出会いから現在に至るまで。
アラサーを迎えてからでも、青春は取り戻せるということをこの私が証明します。

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