徳永圭
5/8発売『ボナペティ! 臆病なシェフと運命のボルシチ』(文春文庫)の試し読みです。 ★★美味しい店がないなら作ればいいじゃない! ビストロ開店奮戦記★★ 会社員の佳恵は、シェフ見習いの青年・健司をスカウトし、念願のビストロを開店するが。難問つづきの日々を無事乗り越えられるのか?
←第1回に戻る ←前回に戻る おまかせで作るというだけあって、“けーくんスペシャル”が出てくるまでにはしばらくあった。下ごしらえゼロの状態から始めているのだろ…
←第1回に戻る ←前回に戻る アンティーク調のドアを開けると、中は雰囲気の良さそうなオーセンティックバーだった。先客がすでに数組、思い思いに過ごしている。四人…
←第1回に戻る ←前回に戻る 昼休みを迎え、沈んだ気分をどうにかしたくなった佳恵は、久々に本社ビルの隣の研究棟へ行ってみることにした。 三階へ上がると、そこ…
←第1回に戻る ←前回に戻る 由布子から猛反対を食らった数日後、仕事を終えた佳恵は、田町のひょろ長いビルを見上げていた。 今夜ここで、“失敗しない飲食店開業セ…
←第1回に戻る ←前回に戻る * * * 日曜日。佳恵はすっかり馴染んだ由布子宅にて、ケーキをつついていた。 東急溝の口駅から由布子一家の住むこの…
←第1回に戻る ←前回に戻る * * * 午後十一時半。西田健司は自宅アパートに帰り着くなり、疲労のこびりついた身体をベッドに投げ出した。 ぼふんと…
←前回に戻る 「……何か?」 「何か、じゃないわよ」 佳恵は開き直って肩をすくめた。「作ったものを粗末にされる悔しさっていうのは、私にもよくわかります。学生の…
1章 ―― Entrée(アントレ) ガタン、と軋んだ音がして、身構える間もなく重心を持っていかれた。 一瞬遅れて、背中に別の誰かの重みがのしかかる。とっさに右足…
※刊行年月日が新しい順です。 <単行本>★は文庫化済 『カーネーション』(KADOKAWA) ★『XY』(KADOKAWA) 『その名もエスペランサ』(新潮社) ★『片桐酒店の…
2020年5月6日 10:00
←第1回に戻る←前回に戻る おまかせで作るというだけあって、“けーくんスペシャル”が出てくるまでにはしばらくあった。下ごしらえゼロの状態から始めているのだろう。 よほど空腹なのか、マダムはグラスを傾けながらそわそわと身体を揺らしている。そのさまは料理を待つというより、贔屓のアイドルの出待ちか何かのようだった。真っ赤に塗った唇にグラスをつけては、ろくに呑みもせず戻している。 佳恵もはじ
2020年5月5日 10:00
←第1回に戻る←前回に戻る アンティーク調のドアを開けると、中は雰囲気の良さそうなオーセンティックバーだった。先客がすでに数組、思い思いに過ごしている。四人掛けのボックス席が壁際に三つ。残りはカウンター席だ。 細長いLの字になったカウンターの、短いほうの辺に佳恵は落ち着くことにする。 スツールに腰かけ、ひと息つくと、「EXI○Eのメンバーにいませんでしたっけ?」という感じの渋いマスタ
2020年5月4日 10:00
←第1回に戻る←前回に戻る 昼休みを迎え、沈んだ気分をどうにかしたくなった佳恵は、久々に本社ビルの隣の研究棟へ行ってみることにした。 三階へ上がると、そこには敷地内唯一の社員食堂がある。中庭を回り込んできたぶん、後れを取ったようで、ブルーの作業着と白衣の社員たちがすでに列を作り始めている。 佳恵はトレーを取って、本日のA定食の列の最後尾についた。配膳カウンターから親子丼と味噌汁を受け
2020年5月3日 10:00
←第1回に戻る←前回に戻る 由布子から猛反対を食らった数日後、仕事を終えた佳恵は、田町のひょろ長いビルを見上げていた。 今夜ここで、“失敗しない飲食店開業セミナー・入門編”が開かれるという。 ざっと探してみたところ、この手のセミナーは昼間の開催が大半で、平日の夜に寄れるのはここくらいしか見つからなかった。脱サラを狙ってる人も多そうなのに、とも思うのだけど、ないのだからやむを得ない。
2020年5月2日 10:00
←第1回に戻る←前回に戻る * * * 日曜日。佳恵はすっかり馴染んだ由布子宅にて、ケーキをつついていた。 東急溝の口駅から由布子一家の住むこのマンションまで、歩いて十五分。高校時代からの友人である彼女が結婚し、娘を産み、ここへ移り住んでからもう三年になる。 今日は手土産を買い忘れてしまったので、駅からの途中にある洋菓子店に立ち寄った。買ったのは彼女が好きそうなイチゴタル
2020年5月1日 10:00
←第1回に戻る←前回に戻る * * * 午後十一時半。西田健司は自宅アパートに帰り着くなり、疲労のこびりついた身体をベッドに投げ出した。 ぼふんと音を立て、ワンルームの壁に向き直る。 疲れた……とにかく疲れた……。 もはや頭に回る糖分もないのか、そんな考えしか浮かんでこない。体力的に楽な仕事ではないが、今日はことさら辛かった。 ――あの女性客。 ワイングラスがひ
2020年4月30日 10:00
←前回に戻る「……何か?」「何か、じゃないわよ」 佳恵は開き直って肩をすくめた。「作ったものを粗末にされる悔しさっていうのは、私にもよくわかります。学生のころですけど、飲食店で働いたこともありますしね。でも、それをそのままお客にぶつけるってどうなんですか」 突然割り込んできた女に、シェフは戸惑っている。カップルはもちろん、壁際ではお菊さんまで腰を浮かせている。「なんなんだ、あんた
2020年4月29日 10:00
1章 ―― Entrée(アントレ) ガタン、と軋んだ音がして、身構える間もなく重心を持っていかれた。 一瞬遅れて、背中に別の誰かの重みがのしかかる。とっさに右足を半歩出し、奥歯を噛み締めて踏ん張った。ひとかたまりの乗客が右へ左へ揺さぶられるさまは、まるで棹の寒天がふるえるみたいだ、と意識を逃がすように佳恵は思う。 午後六時過ぎ、乗車率百五十パーセント超えの京王線。 彼女・長谷川佳恵
2019年3月25日 16:38
※刊行年月日が新しい順です。<単行本>★は文庫化済 『カーネーション』(KADOKAWA)★『XY』(KADOKAWA) 『その名もエスペランサ』(新潮社)★『片桐酒店の副業』(新潮社) 『をとめ模様、スパイ日和』(産業編集センター)<文庫> 『ボナペティ! 秘密の恋とブイヤベース』(文春文庫) 『帝都上野のトリックスタア』(講談社タイガ) 『ボナペティ! 臆病なシェフと運