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階段マニアとの出逢いが
二人の高校生を結びつける
悩みと希望に満ちた物語

階段マニアとの出逢いが 二人の高校生を結びつける 悩みと希望に満ちた物語

   高校生が階段レースに挑む青春小説

 世の中にはユニークな趣味人が少なくない。各地の階段を訪ね歩き、書籍やブログで記事を公開する階段マニア(登段家)もその一つだ。吉野万理子の書き下ろし長篇『階段ランナー』は、二人の高校生のドラマに階段の面白さを絡(から)めた物語である。
 吉野万理子は神奈川県出身。上智大学文学部卒。新聞社と出版社に勤めた後、二〇〇二年に『葬式新聞』で「日本テレビシナリオ登龍

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二か月間のキャンプを通じて子供たちが吸血鬼に覚醒する
新機軸のSFファンタジー(『愚かな薔薇』/恩田陸)

二か月間のキャンプを通じて子供たちが吸血鬼に覚醒する 新機軸のSFファンタジー(『愚かな薔薇』/恩田陸)

   吸血鬼小説とSFのハイブリッド

 二〇一一年から一九年まで『小説 野性時代』に不定期連載された『ドミノin上海』、〇七年から二〇年まで『メフィスト』で続いた『薔薇のなかの蛇』など、恩田陸には時間をかけて紡がれた作品が多い。『SF Japan』(〇六年~一一年)と『読楽』(一二年~二〇年)で書き継がれた『愚かな薔薇』もその一つだ。
 叔父夫婦に育てられた少女・高田奈智は、母親の故郷である磐座

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江戸に染まらない下男が女を救うために行方を追う。心理の綾に彩られた時代小説/『底惚れ』(青山文平)

江戸に染まらない下男が女を救うために行方を追う。心理の綾に彩られた時代小説/『底惚れ』(青山文平)

   消えた女を捜すハードボイルド時代小説

 青山文平は一九四八年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。経済関係の出版社に勤めた後、九二年にライターに転身し、同年に「俺たちの水晶宮」(影山雄作名義)で第十八回中央公論新人賞を受賞。同作を含む短篇集は九四年に上梓された。一度は創作活動を離れたものの、二〇一一年に『白樫の樹の下で』で第十八回松本清張賞を受けて本格的にデビュー。一五年に『鬼はもとよ

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切れ味抜群の語り口に酔う! 青山文平さん新刊『底惚れ』刊行記念インタビュー

切れ味抜群の語り口に酔う! 青山文平さん新刊『底惚れ』刊行記念インタビュー

「大恩人」が姿を消した――。江戸染まぬ一季奉公の「俺」は捨て身の捜索活動を開始する。最底辺の切見世暮らしの男が、愛を力にして岡場所の顔に成り上がり……。青山文平さんの新刊『底惚れ』が2021年11月19日に発売になります。圧倒的な熱量が込められた江戸ハードボイルド長篇。物語はどうやって生まれたのか。創作の裏側をお聞きしました。

短編「江戸染まぬ」を長編にしたくなって

――冒頭の章は現在の246

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【『さみだれ』冒頭公開!】暴力描写の限界に挑んだ戦慄の任侠時代小説!

【『さみだれ』冒頭公開!】暴力描写の限界に挑んだ戦慄の任侠時代小説!

時代小説の旗手、矢野隆さん渾身のヴァイオレンス時代劇、『さみだれ』が8月27日に発売されます。「抜きたい、斬りたい、殺したい」。凶悪なる欲望を抱えた謎の博徒を主人公に据えた衝撃作。発売に先駆けて、冒頭を公開します。時代小説史上、もっとも残忍な男(!?)にご注目を!

  一

 何事もなく無人の野を行くかのように。
 歩む。
 眩いほどの月明かりを背に受けながら、男たちが立っている。
 誰にも気づ

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他人に興味のない女がお見舞い代行業に雇われる
シニカルな自己肯定小説/『雨夜の星たち』(寺地はるな)

他人に興味のない女がお見舞い代行業に雇われる シニカルな自己肯定小説/『雨夜の星たち』(寺地はるな)

   協調しない女の生活と仕事
 
 才能の持ち主が創作に目覚め、短期間で世に出るケースが稀にある。寺地はるなもその一人だ。寺地はるなは一九七七年佐賀県生まれ。大阪府在住。三十五歳で小説を書き始め、二〇一三年に「背中に乗りな」(晴名泉名義)で第二十九回太宰治賞の最終候補。一四年に第三十回の同賞と第十回日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞の最終候補(「こぐまビル」と『パールオパール』)に残り

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捜査支援センターの女性刑事が県警の金庫から消えた一億円を追う 内部の疑惑に満ちたサスペンス/『月下のサクラ』(柚月裕子)

捜査支援センターの女性刑事が県警の金庫から消えた一億円を追う 内部の疑惑に満ちたサスペンス/『月下のサクラ』(柚月裕子)

   〝県警自身の事件〟に挑むヒロインの再来
 
 多くの作家がユニークな役職に着目したことは、警察小説が発展した理由の一つだろう。柚月裕子の〈森口泉〉シリーズもその系譜の作品に違いない。
 柚月裕子は一九六八年岩手県生まれ。高校卒業後は山形県在住。子育てが一段落したことを機に「小説家になろう講座」(世話人=池上冬樹)で学び、二〇〇七年に「待ち人」で山形新聞社主催の山新文学賞に入選。〇八年に『臨床

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【『マルチの子』第一章全文公開】衝撃の超リアル「マルチ商法」サスペンス!

【『マルチの子』第一章全文公開】衝撃の超リアル「マルチ商法」サスペンス!

第二回大藪春彦新人賞受賞者、西尾潤さんの待望の新刊『マルチの子』が6月10日に発売されます。実体験をもとに、「マルチ商法」にハマった女性の乱高下人生を描いた震慄のサスペンス! 発売に先駆けて、第一章を全文公開します。知られざるマルチの世界、ぜひ覗いてみてください!

第一章 家族を助けたいと思って始めました1

「私たちのテーマは予防医学なんです。それは大きい意味で考えると、国や自分たちの医療費の

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裏社会の弁護人が弱者を喰う悪党を討つ 新機軸のアンチヒーロー譚/『非弁護人』月村了衛

裏社会の弁護人が弱者を喰う悪党を討つ 新機軸のアンチヒーロー譚/『非弁護人』月村了衛

   
   法曹界のアウトローが社会の闇を突く

 月村了衛は一九六三年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒。脚本家などを経て二〇一〇年に『機龍警察』で小説家デビュー。一二年に『機龍警察 自爆条項』で第三十三回日本SF大賞、一三年に『機龍警察 暗黒市場』で第三十四回吉川英治文学新人賞を受賞。一五年には『コルトM1851残月』で第十七回大藪春彦賞、『土漠の花』で第六十八回日本推理作家協会賞に輝いた

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著名人たちの最期を記した
山田風太郎の奇書を読み解く
異色コミック第二弾/『追読人間臨終図巻Ⅱ 文豪編』

著名人たちの最期を記した 山田風太郎の奇書を読み解く 異色コミック第二弾/『追読人間臨終図巻Ⅱ 文豪編』

   山田風太郎の名著を味わう副読本

 大衆小説界の巨匠・山田風太郎の来歴から話を始めよう。一九二二年に兵庫県で生まれた山田風太郎は、東京医学専門学校(後の東京医科大学)の学生として終戦を迎え、在学中の四六年に「達磨峠の事件」でデビューを遂げた。四九年に「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で第二回日本探偵作家クラブ賞を受賞。五九年刊の『甲賀忍法帖』に始まる伝奇アクション〈忍法帖〉シリーズでブームを起こし、

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