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捜査支援センターの女性刑事が県警の金庫から消えた一億円を追う 内部の疑惑に満ちたサスペンス/『月下のサクラ』(柚月裕子)


   〝県警自身の事件〟に挑むヒロインの再来
 
 多くの作家がユニークな役職に着目したことは、警察小説が発展した理由の一つだろう。柚月裕子の〈森口泉〉シリーズもその系譜の作品に違いない。
 柚月裕子は一九六八年岩手県生まれ。高校卒業後は山形県在住。子育てが一段落したことを機に「小説家になろう講座」(世話人=池上冬樹)で学び、二〇〇七年に「待ち人」で山形新聞社主催の山新文学賞に入選。〇八年に『臨床真理』で第七回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞してデビュー。一三年に『検事の本懐』で第十五回大藪春彦賞、一六年に『孤狼の血』で第六十九回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)に輝いた。
 そんな著者が『読楽』(一二年六月号~一四年三月号)に連載した『朽ちないサクラ』は、米崎県警広報広聴課職員・森口泉が奮闘する物語。ストーカー被害を訴えていた女子大生が殺され、地元紙・米崎新聞は生活安全課の慰安旅行のために被害届の受理が遅れたとスクープを報じた。広報広聴課に批判が殺到し、ほどなく泉の友人である米崎新聞記者・津村千佳の変死体が発見される。泉は生活安全課刑事・磯川俊一とともに真相を追い、県警の秘密を突き止める──というストーリーだ。同作は一五年に単行本化された後、一八年に徳間文庫に収められている。
 その続篇『月下のサクラ』は『アサヒ芸能』(一九年一月三日号~二〇年十月三十一日号)に連載された。広報広聴課を退職し、県警採用試験と警察学校を経て「三十一で有田署宮城野の交番勤務。三十二で有田署交通課」「三十三で刑事に登用」というキャリアを重ねた泉は、米崎県警捜査支援分析センターへの配属を志望していた。記憶力を評価された泉は面接試験に合格し、全六人からなるチームの一員に加わり、特別扱いのスペカン(スペシャル捜査官)と揶揄される。その矢先、会計課の金庫から約一億円が消えたことが発覚し、警察を辞めた前課長・保科賢吾が容疑者に浮上した。泉たちは保科の調査を始めるが、殺人事件によって事態は急展開を迎えていく。
 肩書きや職務は変わったものの、芯の通ったヒロインが警察内の疑惑を探り、黒幕に辿り着くプロットは前作と共通している。我が強い面々のチームに泉を投入し、パーソナリティを際立たせたのは本作の強化ポイントといえそうだ。
 著者はこれまでに二つのシリーズを手掛けていた。『最後の証人』『検事の本懐』『検事の死命』『検事の信義』の四冊が書かれた〈佐方貞人〉シリーズは、元検察官の刑事弁護士・佐方貞人の活躍を描く話。『孤狼の血』『凶犬の眼』『暴虎の牙』の三作からなる〈孤狼の血〉シリーズでは、一九八〇年代の広島県を舞台として、刑事や暴力団や愚連隊のドラマが綴られた。いずれも高い評価を受けているだけに、今後の〈森口泉〉シリーズにも注目したい。


福井健太◎ふくい・けんた
1972年京都府生まれ。書評系ライター。著書に『本格ミステリ鑑賞術』『本格ミステリ漫画ゼミ』『劇場版シティーハンター 公式ノベライズ』などがある。


捜査支援センターの女性刑事が
県警の金庫から消えた一億円を追う
内部の疑惑に満ちたサスペンス

月下のサクラ
柚月裕子
定価 本体1700円+税

ゆづき・ゆうこ◎1968年岩手県生まれ。山形県在住。2008年に『臨床真理』で第7回『このミステリーがすごい!』大賞を受けてデビュー。13年に『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年に『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞を受賞している。

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