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著名人たちの最期を記した 山田風太郎の奇書を読み解く 異色コミック第二弾/『追読人間臨終図巻Ⅱ 文豪編』


   山田風太郎の名著を味わう副読本

 大衆小説界の巨匠・山田風太郎の来歴から話を始めよう。一九二二年に兵庫県で生まれた山田風太郎は、東京医学専門学校(後の東京医科大学)の学生として終戦を迎え、在学中の四六年に「達磨峠の事件」でデビューを遂げた。四九年に「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で第二回日本探偵作家クラブ賞を受賞。五九年刊の『甲賀忍法帖』に始まる伝奇アクション〈忍法帖〉シリーズでブームを起こし、明治期や室町時代を描く時代小説でも支持を得た。九七年に第四十五回菊池寛賞、二〇〇〇年に第四回日本ミステリー文学大賞に輝いている。〇一年没(享年七十九)。
 風太郎が一九七八年から八七年まで『問題小説』に連載した『人間臨終図巻』は、九百二十三人の著名人たちの死に際を綴ったノンフィクションだ。古今東西の多彩な人物を扱いながらも、享年順に淡々と項目を並べる構成は、風太郎らしい達観を感じさせるものだった。その愛読者である漫画家・サメマチオは「研ぎ澄まされた原作の風太郎節を再現できないなら」「いっそ真逆の解説本をやってみよう」と考え、漫画『追読 人間臨終図巻』を『読楽』(二〇一六年十一月号~一八年十月号)に発表した。「追読」は「『追って』読んでほしい」「『ついでに』読んでほしい」という著者の造語。一九年刊の単行本『追読 人間臨終図巻Ⅰ』には(あえて年代順に並べ替えた)百二十人分の紹介が収められている。
 原作の引用と要約を一ページに収めるのが同作のフォーマットだが、内容は引き写しに留まらない。短い文章で死に際だけを語り、人物像に筆を割かない原作では、読者の予備知識が前提になっている(名前しか知らない相手への興味を惹くことはある)。著者と編集者の会話スタイルで最低限の情報を挟み、理解を助けながら感想を共有する作りが「追読」たる所以だろう。
 その続篇として『読楽』(一八年十一月号~二〇年十一月号)に連載された『追読 人間臨終図巻Ⅱ 文豪編』では、百二十五人の日本の文豪たちが取り上げられている。江戸後期生まれから昭和初期生まれ(大槻文彦から寺山修司)まで、生年順に並ぶメンバーの顔ぶれは錚々たるものだ。超有名人たちが中心の前巻とは異なり、近代の文豪をピックアップすることで、本書は文学史テーマの読み物になり得ている。「○○主義や○○派に収まらない小説家が多く」「教科書的な文豪はごく一部」だからこそ、新たな知識を得られることも多いはず。このコンセプトは成功したといえそうだ。
 ちなみに『読楽』では古今東西の芸術家を扱った「追読 人間臨終図巻 シーズン3」(二〇年十一月号~)が連載中。これは同誌ですぐに読めるので、気に入った人には『追読 人間臨終図巻Ⅰ』『追読 人間臨終図巻Ⅱ』の通読をお勧めしたい。まだまだ先は長そうだが、ここまで来たら完走(残りは約六百五十人)して欲しいものである。


福井健太◎ふくい・けんた
1972年京都府生まれ。書評系ライター。著書に『本格ミステリ鑑賞術』『本格ミステリ漫画ゼミ』『劇場版シティーハンター 公式ノベライズ』などがある。


著名人たちの最期を記した
山田風太郎の奇書を読み解く
異色コミック第二弾

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追読人間臨終図巻Ⅱ 文豪編

山田風太郎(原作)/サメマチオ
定価 本体1500円+税

サメ・マチオ◎漫画家。第一回ネクスト大賞受賞作『マチキネマ』で2010年にデビュー。独特の表現センスは「新感覚派」と評された。著書に『きみの家族』『ホテルサラマンダー』『三分間のアニミズム』『はつみ道楽』などがある。

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▼山田風太郎さんの伝説的名著、紙の書籍の他、電子書籍も出しています


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