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裏社会の弁護人が弱者を喰う悪党を討つ 新機軸のアンチヒーロー譚/『非弁護人』月村了衛

   
   法曹界のアウトローが社会の闇を突く

 月村了衛は一九六三年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒。脚本家などを経て二〇一〇年に『機龍警察』で小説家デビュー。一二年に『機龍警察 自爆条項』で第三十三回日本SF大賞、一三年に『機龍警察 暗黒市場』で第三十四回吉川英治文学新人賞を受賞。一五年には『コルトM1851残月』で第十七回大藪春彦賞、『土漠の花』で第六十八回日本推理作家協会賞に輝いた。一九年には『欺す衆生』が第十回山田風太郎賞に選ばれている。
 これらの作品を駆け足で紹介すると、近接戦闘兵器〝龍機兵〟を擁する警視庁特捜部を描く〈機龍警察〉シリーズは、警察小説とアクションSFを融合させた著者の出世作。『コルトM1851残月』は回転式拳銃がモチーフの時代小説。『土漠の花』はソマリアを舞台にした陸上自衛隊のサバイバル劇。『欺す衆生』は詐欺ビジネスを扱った犯罪小説だ。ハードな警察もの、人々が入り乱れるアクション、現代史の闇を抉るサスペンスを柱として、剣豪小説、異世界SF、ユーモア小説、軽ハードボイルドなども手掛けてきた著者は、当代屈指のエンターテイナーに違いない。『週刊アサヒ芸能』(二〇年一月十六日号~二〇年十二月三十一日・二一年一月七日合併号)に連載された『非弁護人』は、法曹界を追われた男が主役のハードボイルドである。
 開発企業の元役員が不正を告発して死んだ。東京地検の検事・宗光彬は同僚の篠田啓太郎とともに贈収賄疑惑を追うが、集めた証拠を上層部に隠蔽され、篠田に裏切られて三年の実刑判決を受ける。刑期を終えた宗光は「裏社会の住人から高額の報酬と引き換えに不可能とも思える仕事を請け負う」ビジネスで名を馳せるヤミの弁護人となった。
 二週間前に消えた韓国人少女ソユンを探して欲しい──パキスタン料理店の少年マリクにそう頼まれた宗光は、ソユンの住んでいたアパートで調査を始める。ヤクザ崩れのソユンの父親は有機農業への投資を持ちかけて金を集め、親族ごと姿を消したらしい。大物ヤクザから情報を得た宗光は「ヤクザさえ務まらなかった手合い」が次々に消えたことを知り、その背後で「日本の社会に居場所のないマイノリティに目をつけ、彼らを食い物にしている」「ヤクザ喰い」が暗躍していることに気付く。
 篠田に「社会の屑のために法知識を悪用する。最低の非弁活動だ」と詰られながらも、宗光は弱者や落伍者の存在を直視し、彼らのために心を砕き、ヤクザと組んで極悪人に立ち向かう。法知識が武器のヤミ稼業ではあるが、ダークゾーンで信念を貫く姿はハードボイルドの私立探偵そのものだ。黒幕に仮託された社会の病理を強調し、問題意識を刺激する作りも近年の著者らしい。個性的なアンチヒーローを造型し、明確なテーマを核心に据え、プロットに数々のアイデアや見せ場を盛った意欲作である。


福井健太◎ふくい・けんた
1972年京都府生まれ。書評系ライター。著書に『本格ミステリ鑑賞術』『本格ミステリ漫画ゼミ』『劇場版シティーハンター 公式ノベライズ』などがある。


裏社会の弁護人が
弱者を喰う悪党を討つ
新機軸のアンチヒーロー譚

非弁護人
月村了衛
定価 本体1700円+税

つきむら・りょうえ◎1963年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒。2010年に『機龍警察』で小説家デビュー。警察小説や冒険小説などで人気を博し、日本SF大賞、吉川英治文学新人賞、大藪春彦賞、日本推理作家協会賞、山田風太郎賞を受賞している。


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