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#657 逍遥とのエピソードを、もっと書いてほしかった!

それでは今日も山田美妙の『明治文壇叢話』を読んでいきたいと思います。

山田美妙が坪内逍遥と出会ったのは、依田學海と面会した同じ日で、新たな文学会を組織するために三緑会へ赴いたときでした。逍遥は定刻より少し遅れてやってきます。すでに名声ある大御所に、美妙はキッと眼を注ぎます。

初対面の口誼[コウギ]を述べて、そろ/\四方山[ヨモヤマ]の話に移れば其話[ソノハナ]しにいつも角[カド]は立たず、ほとんど喧嘩場[ケンカバ]の話になッても丸くかたれるといふ方でした。近眼鏡がやゝ下の方にさがッたためか、多く人をば上の方から見て、そして応答の時しきりに点頭[ウナズク]のが癖で、相手のはなしが、言はゞ眼目[ガンモク]といふ処になると「なアろど」(是は音声のたすけがなくては明[アキラカ]に似ませんが「成程」といふ坪内氏の慣用の語気です)と言つて下に点頭[ウナズ]いて微笑します。音声は太い方、また調子の高い方、あまり早く無い方、会話の間にはをり/\滑稽がまじる方、問答の論が辟[ヘキ]して出ても手づよい反対も現れません。その癖[クセ]話しはます/\語り進みます。

やはり尊敬の眼差しを注いでいるだけあって、観察が細かいですねぇ~

言葉の音調には名古屋言葉が猶おもかげを残してゐますが、なか/\知れません。ほとんど東京語そのまゝです。酒は飲まなくも有りませんが、決して多くはなく煙草をばなか/\に好んでいつも喫烟[キツエン]の道具はたづさへます。が主な好みは刻[キザ]みの紙巻[カミマキ]たばこに有ると見えて、携帯の品は大抵それ、今も目につくのは鼈甲[ベッコウ]製のその煙草入れです。

たしか、のちに逍遥は禁煙に成功しているんですよね…

外見は前に言ッたとほり、これからは些[スコ]し細かい処に立入[タチイ]ッて見ましやう。人との談話は甚[ハナハ]た愉快で而[シカ]も話しが進む方、人が語ればたゞ/\頻[シキリ]にうなづいて居るところは或[アルイ]は人の心中[シンチュウ]を窺[ウカガ]ッてでも居るかとも見えますがよく/\正せば強[アナガ]ちに左様[ソウ]でも無くつまらぬ争ひに波風[ナミカゼ]を立てるのを好まぬといふ方です。ならば話しが衰へるかと言ふにまた左様[ソウ]でも無いとは頗[スコブ]る奇[キ]です。要するに、雨中[ウチュウ]の梨花[リカ]、遠く見て艶[エン]、近づいて瀟洒[ショウシャ]、たゞ人に媚[コ]びる海棠[カイドウ]の色を余処[ヨソ]にして却ッて落ちついた処に香りをとどめる体[テイ]です。たゞよく/\親しんでそしていよ/\分からなく、而[シカ]も兎角[トカク]の批評をも下[クダ]しかねるのは氏の性質です。澄[ス]む水の底は泥床つねに重くも無くまた軽くも無い氏の態度は暗[アン]に他人をして氏を神経質の人かとも思はせます。が、思はせるだけ、その兆[キザシ]について尋ねられてはまた答へられなく為[ナ]ります。何が無し、心のつまらぬ愛嬌のある人、往来で頬[ホホ]に小ヒゞの入つた子供を見ても歯を白くあらはして笑ッてそッと抱きあげさうな性質です。一口に言へば敵の少ない身のこなしです。
座敷のかざりはあまり氏は心を用ひぬ種類と見えて、いつも際立ッたところも有りません。相応の軸に九谷[クタニ]の大花瓶[オオカビン]、打ち付けの物で打ちつけのまゝ ー 粉飾を廃して部屋を普通にして置くのが氏の常です。あゝ是が氏の文や態度とかはる源[ミナモト]です。

というところで、坪内逍遥との交友録が終わってしまいます!

いやぁ~、もう少しいろんなエピソードを書いてほしかったなぁ~

というところで、このあと『明治文壇叢話』は、二葉亭四迷との交友録が書かれるのですが…

この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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