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#555 かわいくない子供だなぁ〜

それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。

第二回は、第一回の続きから始まります。寒空のした、夜中に三人の車夫が客待ちをしています。年上の二人が先に帰ってしまい、一人残された年下の車夫のところにお客がやってきます。ひたすら一目散に走って、お客を家まで届けると、門から二人の女性が出てきます。一人は阿梅[オウメ]という女性で、お客の妹のようで、その色白の丸顔を、車夫はもっと見たいと思います。もう一人は雪という名の下女のようで、二人は兄の土産を遠慮して帰ってしまいます。お客が家に入ると、代わりに下女が出てきて、多めの運賃をくれます。普段なら多すぎる分を返す性格ですが、今日は数えもせず、ふところに収めます。上野の鐘が十時を打った頃、車夫は、先ほどの阿梅のことを思い浮かべます。この車夫の名は来間力造、24歳で、どうやら東北の出身のようです。人ができないことをするという性質で、人と違った説のみを立てることもあって、相手の心を損ずることもあります。

力造が小さいときは悪戯[イタズラ]をして親たちも持余[モテアマ]したことは毎度で、特[コト]に親たちが困ッたのは力造が非理[ヒリ]の恐嚇[オドシ]を肯[キ]かぬことです。幽霊や、狸、乃至[ナイシ]巡査ぐらゐのことで威[オド]しても平気です。「そンな事を言ふと幽霊[オバケ]が出るよ」。「幽霊[オバケ]なんざア有るもンぢや無い」。一句[イック]で相手を潰[ツブ]して仕舞ひます。「そンなに泣くと狸にやるよ」。「狸は高[タカ]が毛獣[ケダモノ]だ」。挨拶はこれです。「ぢやア巡査[オマワリ]さんへ渡すよ」。「巡査[オマワリ]さんハ説諭[セツユ]するだけだ」。十二三頃[ゴロ]から気象[キショウ]は全[マル]でこれです。

かわいくない子供ですねぇ〜w

「はて図太い…どうせ好[イ]いものにやア為[ナ]れまい」と近所では爪弾[ツマハジキ]して居ました。が、それでも親の身になれば運命を却[カエ]ッて太閤[タイコウ]のをさない時に思寄[オモイヨ]せて、持余[モテアマ]すと仝時[ドウジ]にまた心窃[ココロヒソカ]によろこんで居ます。自然、それゆゑ力造も磊落[ライラク]に、活潑[カッパツ]に世を送り、束縛といふものや、圧制といふものハ夢の夢にも知らぬやうに為[ナ]り、その極[キョク]つひに前[マエ]言ふやうな人間と為[ナ]ッたのです。が、感心なのは容易に腹を立たないことです。「怒[イカ]る者は常[ツネ]の情[ジョウ]、笑ふ者ハ測[ハカ]るべからず」とは支那[シナ]の誰[タレ]やらの言葉です。

補足すると、誰やらの言葉の出典は『十八史略』ですw

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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