それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。
小〆は、たくさんの客のなかをうろつき、から騒ぎに騒ぐ芸で、才蔵は心から見た目までが柳橋芸者の正銘。菊住は自分のことを、日本に幾人もザラにある女と思い、鯛の旨味を知っている口で鰯のめざしをつまみ食いして旨がる天邪鬼、才蔵様のありがたみを知らせてやるべき!あれしきの男に捨てられて、あれしきの女に取られたと思えば腹も立つ。芸者のなかの芸者と人に言われる自分が、あのような男にのぼせて、世間の物笑いになるのは、熱湯を飲まされるよりもつらい。友人の金太郎の手前、苛立ちを酒で紛らわすも、金太郎は歯痒がりて、どうする料簡か、と問います。
十郎のセリフとは、おそらく1676(延宝4)年に江戸中村座で初演を迎えた歌舞伎『寿曽我対面[コトブキソガノタイメン]』のことかと思われます。曽我十郎・五郎の兄弟が朝比奈三郎の手引きで、父のかたきである工藤祐経[スケツネ]と対面し、血気の五郎がいきりたつのを兄の十郎が「じっと辛抱しやいのう」となだめ、工藤と再会を約して別れるという筋です。
というところで、「その五」が終了します!
さっそく「その六」へと移りたいのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!