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#607 第十四回は、力造さんがお梅さんについてブツブツ考えているところから…

それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。

今日から第十四回に入ります。タイトルは「第十四輛 曳出[ヒキダ]す奇遇の話」です。

偏屈ハ意地の黴[カビ]です。情を制すといふ意地がわるく向くと即ち偏屈が出て来ます。之[コレ]を褒めて言へば、それゆゑ、豪傑の度量です。

なにやら、これまでと全然違う出だしですね。めっちゃいいこと言ってるじゃないですか!

が、之を貶[オト]して言へば負惜[マケオシミ]の骨頂です。よく向けば桓温[カンオン]の器量ともなります。しかし、わるく向けば清盛の癖ともなります。

平清盛(1118-1181)は、保元の乱(1156)で後白河天皇(1127-1192)の信頼を得て、平治の乱(1160)で最終的な勝利者となり、武士として初めての太政大臣に任じられますが、平氏の独裁は公家・寺社・武士などから大きな反発を受け、源氏による平氏打倒の兵が挙がる中、病没しました。

今の力造、たゞ情を扣[ヒカ]へるだけの好みが終[ツイ]に高[コウ]じて折々はわるく傾きました。美しくないものを強いて好むと出掛けたからには今が阿梅[オウメ]が些[チト]好ましくなりました内心はどうにもしろ。
前回おとづれた書生の下宿から帰りがけも胸はその思[オモイ]にのみ蝕[ク]はれて居ます。
「案外な…美人で…しかし、すでに美人であるからには前公言[マエコウゲン]した言葉に背いてしまふやうで…そら見ろとわらはれるのも口惜[クヤ]しいて」。
まだ夫婦になると决[キマ]りも付かぬうち…おそろしい想像です。

「決まりもつかぬうちの想像」なんて、二葉亭四迷の『浮雲』の文三さんを思い出してしまいますね!W

「醜婦[シュウフ]だとばかり思ッて居たが…醜婦なら面白いのに…あゝ醜婦でもなくて残念だなア。浅利与市[アサリノヨイチ]、あの風[フウ]が中々愉快なのだ。それを学ぼうと思ッたに…美人…阿梅…なぜ醜婦では無いのだなア」。
ありがたくもない、醜婦であれとの御注文!

いやぁ~、このひねくれかたは、「近代文学」だなぁ~!W

浅利与市(1149-1221)は、武田信義(1128-1186)の弟で、逸見流弓術の創始者・逸見清光(1110-1168)の子です。壇ノ浦の戦いで、平家方の弓の名手・仁井親清[ニイチカキヨ](?-?)を遠矢に射て、その胸をつらぬき武名をあげました。

しかしまた捻出[ヒネリダ]せば自身の眼も疑がハしくなッて来ます。いや、自身のみでは無く、友人たちの眼さへまた違ッては居ぬかと思はれて来ます。
「変だな、あの後向[ウシロムキ]…領元[エリモト]の…束髪…花かんざし…あれで…左様[ソウ]だ、醜婦では决して無い。なぜ、前に島田や何かが(友人の名)醜婦を好むなら杉田の妹[イモト]を好むがいゝと言ッたらう。杉田まちがひか知らん、あの杉田別宅といふのは素清の家[ウチ]では無いのか知らん」。

この、ブツブツひとりでモヤモヤしているところも、いかにも『浮雲』の文三さんっぽいですね。

というところで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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