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#1042 今日で『二人比丘尼色懺悔』読了だぁ~!

それでは今日も尾崎紅葉の『二人比丘尼色懺悔』を読んでいきたいと思います。

やせ衰えた体で脛を組み、刀にすがって乱髪の頭を垂れる小四郎。自分の体も今宵で見納め……。思い出すのは、妻の若葉のこと。出陣の際の別れは、2月6日、春の曙……。草履を結び、兜を受け取り、身を動かさず、声を出さず、見つめ合うふたり……。「健固で……」という小四郎、「御無事で……」という若葉。胸は煮える、五臓は千切れる、身を伸ばして見渡せば、小四郎の影は二尺ばかり……。小四郎を眺めるが、あいにく眼を曇らす涙。拭ってまた見れば、薄黒き粒となった姿も跡なく消えます。若葉は眼を閉じ手を合わせ「南無正八幡大菩薩」と唱えます。そして……再び現実へと戻ります。小四郎は太刀を鍔元からまで眺めます。我が身を護るべき太刀は、今、我が腹を裂く……我が本意か、太刀の本意か……「父上の形見と思えば、太刀までが懐かしい……一刻も早く父上母上に対面しようか……」。太刀を袖に巻き、切っ先を少し露わにし、下腹を左手で撫でまわし……「伯父上伯母上に受けたご恩を書き置きにて述べたいが、矢による傷のためどうも手が……明日はいよいよ伯父上がお帰りになる……勇んでお帰りになって、小四郎の切腹……さぞ仰天あそばすことであろう……」

日頃あれほどにおぼしめして下さるお心では。大抵のお歎[ナゲ]きではあるまい。どれほどお恨み遊ばすか。あァ……勿体ない。伯母上はまた女だけに御病気にでもお成[ナリ]遊ばしたら。日頃痺弱[ヒヨワ]いお体……今日聞けばわれ故の日参……あ……あ……有難涙[アリガタナミダ]がこぼ……れる。かねての堅い約束を無にして。若葉との縁組。定[サダメ]てお腹[ハラ]も立[タト]うに。この戦[イクサ]でなくば宿元[ヤドモト]へ安否を知[シラ]してやりたい。誰[タレ]の思ひも同じ事。若葉が独[ヒトリ]でどのやうにか苦労して居[オ]らう……此様[コノヨウ]な言葉が偽[ウソ]にも出るものか……また芳野殿の心切[シンセツ]。今日の恨[ウラミ]は一々道理[モットモ]其心[ソノココロ]を知らぬではなけれど。どうで一日か二日の命。なまなか思[オモイ]の種[タネ]をのこしては。後[ノチ]の為になるまいかと。お身の為を思つてわざとつれなく致したので御座る。若葉に心が引かされてと疑はれて。薄情者とさぞ恨[ウラマ]れて御座らうが。幼少からの馴染[ナジミ]の守真。その様な男でないは。よく御承知で御座らう。此[コレ]も因縁[インエン]とあきらめて。思ひ切[キッ]て下され。再[フタタ]び此世[コノヨ]へ生れ替[カワ]ツて参ツた時には。今最期の一念で。きつとあなたの顔を見覚えて。必ず女夫[メオト]になりまする。あなたもどうぞ忘[ワスレ]ずに居[イ]て……此世[コノヨ]ではな……なき縁[エン]……心にもない不実を致した段はどうぞ許して下され。焦[コガ]れて重病になられたとの事。小四郎が生[イキ]て居る中[ウチ]……逢瀬の頼[タノミ]がある中[ウチ]でさへそれほど……今夜自害して果[ハテ]たらば……あァ……思ひ遣られる。お二方[フタカタ]が命に替[カエ]て御秘蔵のあなたゆへ。もしもの事があつては。お二方の御苦労はどれほどか。あまり歎[ナゲ]いて煩[ワズラ]はぬやうにして下され。それが何より小四郎への供養……芳野殿頼みます⦆
更行[フケユ]く鐘[カネ]に驚かされ。忙がはしく涙掻払[カキハラ]ひ。
⦅南無阿弥陀仏⦆
声の下。あァつといふ叫喚[サケビ]。突立[ツキタテ]しか……沸出[ワキダ]す血汐[チシオ]。左の小脇から五六寸。病苦に震[フル]ふ手は進まず。唇を嚙裂[カミサ]くまで力を籠めて。じり/\と一文字に……仕[シ]て遣つたり右の傍腹[ソババラ]まで……敢[アエ]なく絶[タユ]る命。
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⦅そンなら夫[オット]守真の……⦆
⦅小四郎様のお内方[ウチカタ]か⦆
こは/\とばかり呆[アキ]れ果て。互ひに顔。板戸[イタド]洩[モ]る日影[ヒカゲ]白く。紙帳[シチョウ]に騒ぐ風寒し。ほの/\と明[アク]る一夜[ヒトヨ]。

というところで、『二人比丘尼色懺悔』が終了します!

若葉と芳野が、互いに気づき始めるところを、もう少し細かく描いてほしかったですね……

ということで、次に読む作品に関しては……

また明日、近代でお会いしましょう!

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