本の魅力を要約し、読者の共感を生む書評家。プロの仕事とはいったいどんなものなのだろうか?『書評の仕事 - 印南敦史』【書評】
あまりにも多くの情報が溢れかえり、自分にとって有益なものを選択することにさえ、その手がかりとなる情報が重宝される時代。書評というものは、本を選ぶときの重要なナビゲーターになってくれる。
書評家に必要なことを「伝える」ことと「共感をつかむ」ことだと語る本著の著者は、作家・書評家として広く知られる印南敦史氏。
著者はこう語ります。
「なるほど、これはおもしろそうな本だな。読んでみよう」と思わせることが、書評の役割なのですから。
だとすれば、書評は簡潔かつ平易な表現で書かれているべきだと個人的には強く思うわけです。(書評とは? より)
と。
なるほど。書評というものを通じて、「人に伝える」ために必要なことが見えてきそうな気がします。
本著では著者の考えをもとに、書評家の仕事がどういったものなのかが語られる。それだけでなく、その世界に携わっていない人間には見えてこない書評家の裏話や、年500冊の書評を執筆する著者ならではの書評技術が紹介されています。
また、音楽ライターを務め、音楽雑誌の編集長を経た著者ならではとも言える、執筆と音楽との関係性について触れられているのも興味深いところです。
本著を通じて目に飛び込んでくるキーワードが、「要約」と「共感」のふたつ。それらは、多くの読者に読まれる書評を執筆するうえで、重要な要素として語られています。
「どういう読者に、その本のどの部分が刺さりそうか」アタリをつけることが必要になってくるわけです。
(年間約500冊の書評で得た「要約力」より)
このようにして、本の中から読者に刺さる部分を抽出し、それを要約。要約した文だけが人を動かせると見出し化されるほどに、要約は書評にとって欠かせないものだそう。
もちろん、要約力というのは書評の執筆だけに留まらず、「誰かに何かを伝える」ために求められるスキルであることは間違いない。ただでさえ時間のない現代人にとって、要約されていない情報は敬遠されてしまうものだから。
そのうえで、
書き手が「自分が誰で、どこにいるか」を理解しているものが読まれ(共感され)、そうでないものは読まれない(共感されない)ということです。
(読まれる書評、読まれない書評、違いは? より)
あくまで「読み手はなにを求めているのか」を理解する。読者像を思い浮かべることが重要だと語る著者。
年間500冊の書評を執筆する著者はどのように本を読み、そしてどのように要約しているのか。また、読者の共感を得るためには、何を意識すればいいのか。それらの答えは本著の中で語られています。
伝えることを目的とした人じゃなくても、その答えに触れる価値は多分にある。なぜならその解は、読んだ本を強く印象に残したいという欲求に応えてくれるものでもあるから。
普段、何気なくWebサイトで目にしているであろう書評。プロの書評家がどのような思考で読者に本の魅力を語っているのか。
プロの仕事を垣間見られる一冊であり、何かを伝えることと向き合える、そんな興味深い一冊。書評という世界を通じて、新たな知見を手に入れてみてはいかがでしょうか。
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