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商品を注文する直前に店員さんから、「○○はいかがでしょうか?」と先制攻撃を食らった場合、どのように返答するのが正解なのか?『デタラメだもの』

そんなこと言われたら、どう返答していいのかわからなくなるやん。という場面に出くわすことがある。こっちが悪者みたいになるやん。と感じてしまう場面だ。もしくは、「君、しょうもない人間やねぇ」と思われてしまいがちな場面。

例えば、ドライブスルーに立ち寄るとき。近ごろではスマートフォンのアプリなどに備えられたクーポンが充実しているため、立ち寄る前にクーポン番号を確認し、注文する商品ラインアップを確定しておくのが常だ。コレとコレとコレを頼もう。もう、ワクワクが止まらないね。

ドライブスルー用注文マイクに車を寄せる。さぁ注文するぞと、ひと呼吸整えた刹那、「いらっしゃいませ。ただ今、季節限定の○○がオススメです。ご注文どうぞ!」と、スピーカーから先制攻撃を食らう。これだ。そう、これなんだ。

ここで2つの仕打ちを受けることになる。それは、せっかく店員さんから推奨されているにも関わらず、その提案を断らなければならないという仕打ち。もちろん、店員さんもマニュアルに沿って提案しているだけなのは重々承知。しかしだ、こちらも一応、真っ赤な血の通った人間。他人からの提案を拒むのは気が引けるってもんだ。

そしてもう1つの仕打ちは、こちらの注文しようとしていた商品が、あまりにも定番のラインアップだという事実を突きつけられること。要するに、季節限定商品を嗜む余裕もなく、無難で安全パイな定番商品しかオーダーできないヤツ、冒険心のないヤツ、面白みのないヤツ、季節を感じられないヤツ。そういった類のレッテルを貼られてしまうわけだ。

季節限定商品の提案を拒んでしまった刹那、店舗内で応対中のスタッフはきっと、「季節を楽しめない男っているんだよねぇ。きっと無頓着な性格だから、桜や紅葉の季節も楽しめないだろうし、四季のメリハリを感じられないから、絶対に退屈なヤツだよ」と、思われているに違いない。もしくは、瞬間的にマイクをオフにして、バイト仲間とそういった類の悪口を言いまくっているかもしれない。

こうなるともう、二択しかない。先方からの提案をぶった切り、無慈悲な人間で且つ季節を楽しめない低俗な人間という評価を甘んじて受け入れるか、それとも、先ほどまで抱いていたワクワクを押し殺して、先方の提案を受け入れるか。ドライブスルーに立ち寄っただけなのに、なぜにこれほどまでに切羽詰まった選択を迫られなきゃならんのだ。ぐすん。

居酒屋などでも同様の場面は襲ってくる。最初に注文する品をひと通り決め込み、注文しようと店員さんを呼ぶ。店員さんが卓に駆け寄ってきた刹那、

「ご注文でしょうか?」
「はい」
「本日、おすすめのお魚が入ってまして。ウチの店が持っている希少な仕入れルートからの品ですので、お安く提供できるんですよ。数量限定となっておりますので、ご注文の際はお早めにお申し付けくださいませ」

おわかりだろうか。5つのトラップが存在することを。

まず1点目。店員さんからのおすすめの品を断わらなければならない刹那的罪悪感に襲われる。ドライブスルーと同じトラップだね。そして2点目、店員さんからのおすすめを粗暴に拒んでしまうような、味のわからないヤツだというレッテルを貼られてしまう屈辱。

さぁ、どんどん行きますよ。3点目は、おすすめの品の値段が高けりゃ話は別だが、安く提供できると言われてるにも関わらず、それを拒んでしまうことで、甲斐性のなさを露呈してしまう件。4点目は、数量限定という希少性を打ち出してもらっているのに、それに手を伸ばせない保守的な人間だというレッテルを貼られてしまう。きっと、冒険心のない、しょうもない人間だと思われていることは想像に易い。

そして最後、5点目。店員さんのおすすめを拒んでいるにも関わらず、注文する品が、焼鳥ふた串、枝豆、もやしナムル、以上。という、お酒に合う品のなかでも、ド定番に属するであろうラインアップだという事実を突きつけられる。そりゃ、店員さんに注文の品を告げるその声も、自然と小さくなるわなぁ。

そういえばこんなお店もあった。店の外に設置されている看板には、ビールもアテもすごく良心的な価格が書き込まれていた。魅力に感じ足を運んでみると、注文の際に店員さんが小ぶりなサイズの黒板を卓に運んできた。

そこには手書きでメニューが書き込まれており、前述の通り、本日のおすすめが書き連ねられていた。しかも、おすすめの品の料金が、これまた高っかいんだ。そのうえ、「このボードは店内に1つしかないため、ご注文を受けた後は引き上げさせていただきますね。ですので、ぜひこのタイミングでご注文くださいませ!」ときた。

なにそのプレッシャー? 男気出して、黒板に書かれた品から1~2品注文しないと、大損こきますよ、と脅されてるみたいじゃないの。でもねでもね、そんな高い品を頼んじゃった日には、ビールやアテの低料金も一撃で霞んじゃうよ。

その日は店員さんに気圧され、「あっ、じゃあ、おすすめのうちから一品だけ……」と、注文してしまった記憶がある。あの日の忌まわしき記憶。いまも鮮明に思い返され、心の古傷が容易に眠れなくする熱帯夜。

飲食店で食事を済ませ、会計のためレジで精算する際も同じだ。「よかったらポイントカードをお作りしましょうか?」。う~ん? ポイントカードを提示してお得を手に入れようと企むほど、頻度高く店に足を運ぶ未来予想図が描けないんだよなぁ。で、でもなぁ、せっかく作ってくれるって言ってるし――拒むのも悪いしなぁ。

さらには、「今なら無料でカードをお作りできますよ! お時間もかかりませんので、よかったらぜひ!」とくる。そうなのか、今なら無料なのか。ただ、有料でも無料でも、作るつもりはなかったんだけどなぁ。おまけに時間も取らせないとくる。先方からはとてつもない好条件を提示されているかもしれないにも関わらず、それを拒まなければならない心苦しさ。

「いまキャンペーン中でして、スクラッチカードを削っていただくと、その場で当選商品をお渡しします!」。う~ん? むちゃくちゃ時間がない中、水だけを買いにきたんだけどなぁ。だからカバンも持たずに来ちゃってるし、荷物になる商品が当たっちゃったらどうしよう――袋に入れてくれるとはいえ、荷物になるなぁ……。

と、こんな風にして、何かを買い求めたりする喜びの手前で、何かを拒まねばならない心苦しさに見舞われるわけです。他人からの提案を突っぱねる行為なんて、誰もが進んでやりたいものじゃないよね。ぐすん。

では結論、そんな折、どのように返答するのが最適解なのか。「いらっしゃいませ。ただ今、季節限定の○○がオススメです。注文どうぞ!」と、スピーカーから先制攻撃を食らった際、なんと答えればいいのだろうか。

「結構です」じゃ冷たすぎる。 「また機会があれば」じゃ、なんとも社交辞令過ぎて、薄っぺらい。「ボク、好き嫌いが激しくて、○○が食べれないんです」じゃ、嘘つきになる。好き嫌いなんて、ひとつもないんだもの。素直に「ありがとうございます」とだけ答えようか? いや、それじゃ季節限定商品を注文するものと勘違いされてしまう。

そして導き出した答えは、「えへへ」と愛想笑いするというもの。気まずい空気は漂うものの、店員さんも「あっ、こいつ季節商品頼む気がねぇな」と察してくれたようだ。

プライドを投げ捨て、苦肉の策で何とか切り抜けたものの、自宅に帰り商品を取り出してみると、ドリンク用のストローが入れ忘れられていた。これは、あまりにも気色悪い応対に対する陰湿な仕返しか、それとも単なるオペレーションミスなのかは明らかになっていない。この事件が迷宮入りするだろうことは想像に易い。

デタラメだもの。


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