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歯ぎしりとの戦いにおける考察。全ての悩みを解決してくれる圧巻のアイテムは、果たして敵か味方か。『デタラメだもの』

生きていれば解せぬことは多いもので、あまりにも長いこと使用し続けてきたため、そろそろ買い替えようとエアコン。できればそう高くないものを。とは言え、安物買いの銭失いにならぬよう、9万円やら10万円程度のものを買おうとエアコン。無事に商品が見つかり購入し、いざ、エアコンを設置してもらうことに。

「これは設置、無理ですわ」と設置業者さん。どうにも室外機を設置することが容易でないスペースらしく、その日の設置は見送られ、商品もキャンセル扱いとなった。それどころかその業者さんでは設置を請け負えないようで、別の業者さんに依頼し、足場を組んで設置してもらう必要があるという。足場を組むのにかかる費用は、おおよそ10~25万円なのだそう。ん? エアコン本体よりも高いよね。なになに。世の中ってそこまで世知辛いの?

で、思うわけだ。かねてより何度も思ってきたわけだ。これほどまでにあらゆる機器が小型化してきた世の中。コンパクトが良しとされる世の中よね。なのに、それなのに、なぜにエアコンの室外機は、あんなにも巨大なのだ。

今や民間の技術でロケットを飛ばそうと試みる時代だぜ。そんな時代に、なぜにエアコンの室外機は、あれほどまでにデカいままなのだ。そんなんだからエアコンの購入時には、設置工事などという大それたイベントが伴ってしまうのだ。何かしら利権が絡んでいるのか。室外機を小型化することで、どこかの団体、どこかの協会、誰かしらの生活が脅かされてしまうのか。

結局、エアコンの購入は見送った。解せぬ。こうなれば仕方がない。エアコンの室外機のサイズを小さくする試みに対しては、何らかの圧力がかかり阻止されてしまうらしいから、足場を格安で組める技術が発達し、エアコンの本体価格よりもさらに安く足場が組める時代がくるまで、エアコンの購入は先延ばしだ。エアコン業界か施工業界、どちらの躍進が競り勝つか、見ものだなこれは。

と、ここまでは前置きなわけであって、本題は何について語りたいかというと、マウスピース。そう、衝撃から歯及びその周囲組織を守り外傷を防ぐ装着物だ。

かねてより長い間、睡眠中の歯ぎしりに悩まされ続けている。理由は不明だが、強い歯ぎしりによって、既に歯は擦り減り、このまま行くと寿命を全うするまでの間に歯がなくなってしまうのではと危惧するほどの速度で摩耗を続けている。これは由々しき問題だ。物を食うことは人間として欠かせない行為。それなしでは生きてはゆけまい。そう思い、歯科医に相談した。その結果、泣く泣くの出費を受け入れ、自分専用のマウスピースを設えた。

ところがだ、問題が発生した。自分は極度の"えずき症"で、歯の治療中はもちろんのこと、口内に物を含むことを苦手とする体質。そんな人間が、かの巨大なマウスピースを口内に含めるはずがない。装着してすぐに身体がそれを拒絶し、吐き出そうとする始末。仮に装着できたとしても、その刹那、耐え難い違和感に襲われ、涙が溢れ出す。これはアカン。装着してられへん。何度やっても挫折してマウスピースを吐き出してしまう。

幾度の過酷な訓練を経て、なんとかマウスピースを装着できるようにはなったものの、例えば飲酒した夜なんていうのは、ただでさえアルコールの気色悪さやら胃のむかつきやらで、口内のコンディションは最悪な状態に。そんな中、マウスピースを装着しようもんなら、胃中の連中がもと居た外界に戻ることを望みはじめ、悶絶せざるを得なくなる。マウスピース中心の生活を送ろうと思えば、お酒も飲めなくなるじゃあないの。

それに加え、日常のハードな生活がネックとなった。何やらやらねばならないことが敷き詰められた毎日。基本的には「さぁ寝ようか」と、ベッドに移行する機会は滅多になく、気づけば寝落ちしている、疲れ果てて寝落ちしている、気づけば朝になっている。そんな生活をしているもんだから、「いざマウスピースを装着し、寝るとしますか」と身構える機会がないわけだ。そんな人間にとっては、正式にマウスピースの出番が訪れることが、一日のうちで一度もない。

そんな風にして、マウスピースと付かず離れずの関係を保ってはいるものの、歯ぎしりの攻撃はその手を止めない。歯はどんどんと擦り減って行く。危機感も募る。なんとかせねばという焦りも募る。何かマウスピース以外の良い方法はないものだろうか。

そんな中、知人が顎関節症で悩まされていることを知った。「一度、歯科医にでも相談してみたら?」とアドバイスをし、信頼のおける担当医――すなわち、マウスピースを作っていただいた先生を紹介して差し上げた。すると最終的には、「顎関節症の予防には、マウスピースを装着することです」と相成り、知人も自身専用のマウスピースを作っていた。

ほほう。マウスピースってやつは、歯ぎしりにも顎関節症にも効果を発揮するのか。なかなかマルチな奴だな。マウスピースへの尊敬の念を抱いていると、別の知人が親知らずの痛みに耐えかねていることを知った。信頼のおける担当医――すなわち、マウスピースを作っていただいた先生を紹介して差し上げた。すると最終的には親知らずを抜歯した後、諸々の事情により、「歯のケアのためにマウスピースを装着しましょう」と相成ったらしく、その知人も自身専用のマウスピースを作っていた。

マウスピースってそんなに万能な奴なの? そして、あらゆる悩みの果てには、自身専用のマウスピースを作って解決せねばならんの? 知人たちをマウスピース送りにしてしまった罪の意識から、そんな疑問の解消を望み始めていた。

どういう縁か、弟の奥さん――すなわち義理の妹が、歯科助手をしていると耳にした。これはチャンスだ。家族の集まりがあった際に、何気なく質問してみた。

「例えば、顎関節症の人が症状を軽減するためには、どういった方法があるのかしら?」
すると義理の妹はこう答えた。「マウスピースを装着することですね」と。
「えっ、じゃあじゃあ、歯ぎしり対策には――?」
「マウスピースを装着することですね」
「ちなみに、親知らずを抜歯したあとにマウスピースを装着することってあるのかしら?」
「あります」
「STAP細胞は?」
「あります」

結論として、マウスピースというのは人類を救うアイテムだということが判明した。人間のあらゆる悩みを解決してくれるアイテム。それこそが、マウスピース。どんな状況であれ状態であれ、自身専用のマウスピースを作ってしまえば、問題は解決するわけだ。あとは、自分自身がマウスピースを使いこなせるかどうか。強力な武器といえど、使い方を身に着けなければ無用の長物。己に全てがかかっているというわけだ。

まるでマウスピースに屈服するようなかたちで、再び装着を試みる日々。なんとか装着できるようになったものの、睡眠の質が極端に悪くなり、目の下のクマは日に日にその色の濃さを増す。果たしてこれは、生きるうえで正しき選択なのだろうか。

質の悪い睡眠が続き、えずきを抑えるためにお酒も控え、早め早めに寝入るようになったことで仕事は激減。これはアカン。ストレスの元凶はマウスピース。全てはマウスピースが悪いんや。ということになり、全知全能であるマウスピースの装着を断念することに。

マウスピースの御加護から外れた矢先、歯ぎしりの猛威が再び襲う。以前よりも激しく歯ぎしる。まるで歯を擦り減らすことが責務かのように、毎夜毎夜、激しく歯ぎしる。ある朝、何気なく洗面台の鏡を覗いてみると、歯は削れ倒し、荒れ果てたオフロードの様相を呈していた。あまりの衝撃に、開いた口が塞がらなかった。開いた口? ん? 今ならマウスピースが装着できそうだぞ。

デタラメだもの。


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デタラメに生きる。デタラメに暮らす。薄暗い世の中をデタラメに生きるための処世術、バイブル。妄想まみれで日常を綴るエッセイです。

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