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怒りやイラつきを鎮める方法として、こんなやり方はどうだろうか、という妄想じみた提案。『デタラメだもの』

例えば、遅刻しそうになって焦っている朝。猛ダッシュで道をゆく。しかし、目の前にゆったりまったりと歩く人がいるとしよう。その御方が半ば道を塞ぐような状況となり、どうにもこうにも抜くことができない。ただ、その御方のペースに付き合っていては遅刻してしまう。そこで人は、チッ、舌打ちをする。要するに、イラついてしまうわけだ。

しかし、人生、怒るよりも平穏なほうがいいに決まってる。物事はそっちのほうがスムーズに進む。平和的に行こうじゃあないの。なので、ここで思い留まるようにしてみた。否、正確には、思い留まれるようになった。

そもそも、遅刻しそうになった自分の行いが悪いわけで、その御方は変わらぬ今日という朝を過ごしているわけだ。遅刻しそうという条件つきの朝を生きているのはこっちなわけで、それを棚に上げ、その御方を責めるのはどうにもおかしな話である。そう思えばこそ、矛先を向けるのは自分自身。そう気づくと、イラついたり怒ったりする感情がどんどん消え失せていく。

なぜ遅刻しそうになったのか。それは、誘惑に負けて惰眠を貪ったからに他ならない。なぜ遅刻したくないのか。遅刻することで怒鳴られたり評価が下がったりするのが嫌だから。ほうら。登場人物は自分ばかりで、目の前をゆったりまったりと歩き、道を塞がんとする人には何の過失もない。簡単なことだ。自分を責めれば済む話なわけだ。

どんな時でも、自分側に矛先を向けてあげることで、怒りは鎮められる。
例えばテーマパークのアトラクション。長蛇の列。暑い夏。長時間待たされることでイラつく人も多い。急に怒り出す人だっている。

いやいや。人気のテーマパークのアトラクションは待ち時間が長いで有名じゃないか。それが嫌なら閑古鳥が鳴いているパークへゆけば良い。暑さが嫌なら夏を避ければ良い。もしくは、頑張って働き、余りあるお金を稼いで、長蛇の列に並ばずとも優先的にアトラクションに乗れるチケットを購入すれば良い。ほうら。全ては自分の選択なのさ。イラつく必要はない。

以前、回転寿司を訪れた際、隣のテーブルで揉め事が起こっていた。父親と母親と子供三人で食事中の家族。父親が店員を呼びつけ、激しく怒鳴り散らしている。汚い言葉で店員と店を罵り、周囲の客はもちろんのこと、子供たちも完全に萎縮してしまっている。

父親の叫び声に耳を傾けていると、どうやら、食事の最後に注文したスイーツの実物が、写真よりもゴージャスさに欠けている。写真がゴージャスだったから注文したのに、実物は貧相じゃないか。フルーツも小さいしクリームも少ない。騙された。詐欺だ。店長呼べ。こんな店、二度と来るかぁ、ボケッ。

店側も、二度と来て欲しくないだろう。言うて、百円程度のスイーツだ。それが高いか安いかは、それぞれの懐事情にも拠るので何とも言えないが、捉えようによれば、百円である程度のレベルのスイーツが食べられるわけだ。

良心的な販売価格で商品を提供する回転寿司。高級料亭のような行き届いたサービスをそれなりに排除することで、価格を抑えることに成功しているわけだ。百円のスイーツでそこまで目くじら立てるくらいなら、最初から相応のサービスが受けられる店に行けば良い。たったそれだけのことだ。何も怒鳴り散らす必要なんてない。

そう言えばその昔、テーブルに備え付けのマヨネーズと絡めることで、より絶品になると噂のお好み焼きを食べに行ったことがある。その際、なぜかしらん、当方の卓にだけ、備え付けのマヨネーズが設置されていなかった。

そういった類の噂になる店だもんで、店は大繁盛。店員さんも大忙し。声をかける隙きもない。そこで考えた。備え付けのマヨネーズが設置されていない卓に通されるタイミングで店を訪れた自分が悪い。さらにプラスに捉えてみる。マヨネーズと絡めることで絶品になると噂のお好み焼きを、マヨネーズと絡めずに食べる人間など居ないはずで、人と違った生き方を望む人間にとっては、うってつけじゃないか、と。

さすがにこのプラス思考は周囲から全否定され、どうにか店員さんを呼び止め、マヨネーズを持ってきてもらうことに相成った。

と、怒りを鎮める方法はいたってシンプルだ。自分に怒りの矛先を向けるようにすればいい。そしてもうひとつ、怒りを鎮める方法がある。それは、人には人の事情がある、ということを想像、否、妄想してみる方法だ。

例えば、車の運転中、本線に合流せねばならんタイミング。「あっ、合流できそう!」と思いアクセスを踏もうとした瞬間、車間距離を詰めて合流を阻む車両に出くわすときがある。たいていの人はそこで、チッ、舌打ちをかますことだろう。

そんな時、こう想像してみる。

その車は、ある男性が運転している。勤務中の男性の携帯電話が鳴る。妻からの電話だ。妻は妊娠していて、出産間近。いつ産気づいてもおかしくない状況だ。

そんな折、男性が電話を受けると、「もうすぐ産まれそうなの――」と、妻の苦しそうな声。男性は会社に連絡を入れ、妻のもとへ駆けつける段取りを組んだ。一刻を争う事態。自宅に戻り、妻を車に乗せ、病院へと向かわなければならない。鳴り響く得意先からの連絡も、今だけは無視しよう。産まれてくる命と妻のため、なりふり構わず自宅を目指す。

「ん? 本線に合流しようとしてくる一台の車。この車を合流させることで、自宅への到着が数秒遅れてしまう。申し訳ない。平常時ならば君を本線に合流させてあげられた。ただ、理解して欲しい。俺は今、産まれてくる命と妻のために、死物狂いで自宅を目指している。君の車両が合流してくることを許容することはできない。だが、この借りはいつか返す。待っていてくれ。再び出会うその日まで――」

そんな車に対し、チッ、なんて舌打ちできやしない。誰だって同じ状況なら、同じ選択をすることだろう。こっちがイラついたり怒ったりできる立場じゃない。許そうじゃないか。さぁ、ゆけ。産まれてくる命と妻のため。君の道を突き進むのだ。

そんな風にして妄想してみると、合流を阻まれたことに何の怒りも感じなくなるよね。ほんまかいな。

先の備え付けマヨネーズの不設置事件だってそうだ。もしかすると、店員さんはマヨネーズの残量が気になり、新しいものと取り替えるべく、一旦キッチンへと回収した可能性がある。そんな折、客から呼び止められると同時に店の電話がリンリンと鳴り、どちらを優先すれば良いか迷うほど、異常な瞬間最大風速を記録する多忙に見舞われたかもしれない。

そのまま客の応対が頻繁に続き、回収したマヨネーズのことも、回収元の卓にマヨネーズが不在だということも失念してしまった可能性もある。そんな店員さんを誰が責められよう。許そうじゃないか。さぁ、大声で君を呼んでいる5番テーブルへと走りなさい。満面の笑顔を浮かべて、だぞ。

そう言えば、遠い過去の記憶が蘇る。
大阪の下町にあるチケットショップの店頭。某アーティストのチケットを購入しようと、開店の5分ほど前に店に到着した。するとそこには、ふたつの寝袋。ふたりの青年が寝そべっていた。

聞くところによると、布袋寅泰のチケットを獲るために、前夜から寝袋で待機しているとのこと。言うても、大阪の下町。布袋寅泰のチケットはそれほど倍率が高くないのでは、と思ってはみたものの、本人たちの意気込み凄まじく、是が非でもチケットを獲得したい様子。

開店時間になり、シャッターが開く。寝袋の青年たちは「待ってました!」とばかり、店員に詰め寄る。すると店員、「布袋寅泰のチケットは、ここ別館ではなく、本館にて販売いたしますので――」と言ってのけた。つまりは、前夜からの寝袋待機は無駄だったというわけだ。

彼らは自分たちの下調べの甘さを、自分自身で責められただろうか。そして、もし万が一、本館へと移動している間に、チケットが売り切れてしまったとしたら、その怒りの矛先さえも、自分たちに向けられたのだろうか。

そんなことを思い出していると、小腹がすいたため、ぶっきらぼうに野菜でもカットして食べてやろうと思い拵える。何気なく冷蔵庫を開けてみると、あったはずのマヨネーズがない。なんでやねん、と口にしてみるも、いかんいかん、矛先を自分に向けるように、生野菜をワイルドに齧ってみた。

デタラメだもの。


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《3分後にはもう、別世界。》 『3分で読めるショートストーリー作家+広告クリエイター+マーケッター』の切り口で記事を執筆しています。広告企業勤め+フリーランスの兼業家。https://www.facebook.com/osakamoderndisco/

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デタラメに生きる。デタラメに暮らす。薄暗い世の中をデタラメに生きるための処世術、バイブル。妄想まみれで日常を綴るエッセイです。

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