見出し画像

実家の掛け布団は、ダサい柄じゃないとダメなのだ


 先日、ひさしぶりに実家へ帰った。

 夕食をとり、高齢のネコとあそび、風呂に入る。さて寝るかと、かつての自室に足をふみいれた。

 するとそこに、ダサい柄の掛け布団がセットされていた。謎の花柄に、謎のピンク色。一から十までダサい布団である。

「ああ、コレだよコレ」

 私はボソリとつぶやいた。

 ダサい柄の布団にもぐり、すぐに寝息を立てはじめる。ふだんは寝つきの悪い私も、ダサい柄の布団であれば5分で眠りに落ちることが可能だ。

 翌朝、カラダがエネルギーに満ちているのを感じた。何歳か若返ったような気分さえする。いつもよりぐっすりと眠れたのである。

 きっとあの、どうしようもない布団のダサさが、東京死にたいくらいに憧れた花の都で身なりに気を使って生きている自分を、本来のダサい姿に戻してくれるのだ。そのため心身ともにリラックスすることができ、質の高い睡眠がとれる。改めてダサい布団はすごいと思った。

 そして実家を出た私は、ざらついたにがい砂を噛み、カバン薄っぺらのボストン・バッグを持って北へ北へと向かった――。

とある友人宅のふとん

 その日以来、布団についてアレコレと考えるようになった。

 私のなかには、「実家の掛け布団はダサい」という思い込みがあるけれど、はたして世の中の人たちの実家の布団はどうなのだろう、と。

 もしかしたら我が実家のセンスが悪いだけで、世間ではみんな、お洒落で真っ白なホテルライクの掛け布団を使っているのではないだろうか。そんな考えが浮かんだ。

 うーむ、友達の実家の布団って、どんな感じだったっけ…。思い出そうとするが、なかなか映像が浮かんでこない。

 が、そのときあることを思い出した。そういえば、一人暮らしをしている友人宅に泊めてもらった際、「これ、実家から持ってきたんだよ」と言って、布団を敷いてもらったことがあった。

 当時の光景を頭のなかで再生してみる。最初はぼやけていた映像が、ジジ……ジジ……と次第にピントが合ってくる。そして思い出した。そのときの布団も、我が実家と同じくらい猛烈エキセントリックにダサかったのである。

ダサ布団イメージ。まくらカバーのダサさも最高☝

 なんだよ! やっぱりみんな、実家の布団はダサいんだな! 私はすこしうれしくなっていた。サンプル数1のクソザコ統計ではあるが、それでも、自分の実家以外でダサい布団が存在していることに安堵した。

 これは言うまでもないが、その友人宅で寝かせてもらった日、やはり質の高い睡眠がとれたことを記しておく。

邦画に登場するダサい布団


 そうして考えはじめると、ダサい布団のことばかり気になるようになった。

「布団がダサそうな映画ってなかったっけ……」

 アマゾンプライムをスクロールしながら、ぼんやりと考える。ふと、思い付いた。『万引き家族』だ。あの朽ち果てそうな家ならば、絶対に布団がダサいはずである。急いで検索窓にキーワードを打ち込み、再生してみる。

映画『万引き家族』より。版権のアレがあるのでイラスト化☝

 ビンゴ。私は小膝を打った。予想は当たっていたのである。

 これは故・樹木希林氏(右)と松岡茉優氏(左)がじゃれあっているシーンなのだが、松岡氏が被っている布団に注目してほしい。変な家紋柄で、薄ピンク色。これぞダサい掛け布団である。

 これはフリーストック写真サイトからダウンロードした画像だが、『万引き家族』に登場する布団は、まるでこの押し入れから引っ張り出したのでは? と思うような貫禄がある。

 私の実家も似た感じなのでわかるが、このルックスの掛け布団は死ぬほど重たい。そのうえ透湿性、防寒性に乏しく、まるで敷布団を掛けられているのではないか、と思うような重量感である。

 私は改めて『万引き家族』をいい映画だと思った。

『万引き家族』で安藤サクラ氏がかけてるタオルケットもダサい。最高☝

洋画に登場するダサい布団


 こうなってくると、海外の実家はどうなのか?という疑問が私の頭に浮かんだ。

 外国人の友人はいるが、彼らの実家に遊びに行ったことはない。はたして日本以外でも、実家の布団はダサいのだろうか。変な家紋柄はないにせよ、花柄ならあり得る気がする。気になるな……。どこか見れないだろうか。そうして私は、洋画をいろいろと漁ってみることにした。

 ただし、意外と探すハードルが高いことに気づいた。洋画とひとくちに言っても、種類はさまざまである。

 たとえば『華麗なるギャツビー』のような、上流階級の暮らしぶりを描いた作品などは論外だろう。あの世界観にダサい布団が登場するはずもない。じゃあ、実家に暮らす家族の話…? そんなのあったっけ。いろいろと考えてみる。あ、『ホーム・アローン』か。あれなどはもろに実家の話である。しかしケビンの着ている服がお洒落なので、たぶん布団はダサくないだろうと思った。それに、どちらにせよアマゾンプライムでは観れないらしい。うーむ、困った。なにかいい作品はないか。そうしていろいろと探したら見つけた。それがこちらである。

 2000年公開『天使のくれた時間』である。ニコラス・ケイジ主演、妻役はティア・レオーニ。

 ここでは関係ないので映画のストーリーは割愛するが、写真の左下部分に注目してほしい。そう、これがアメリカの実家ダサ柄掛け布団である。イラスト化しているので非常にわかりにくいが、私はこのシーンを見つけた瞬間思わずガッツポーズをした。ああ、アメリカでもそうなんだ…。実家の掛け布団のダサさは、洋の東西を問わないんだ…。なんだか感激してしまった。

 お次はこちら。2007年公開の『JUNO/ジュノ』。主演はエレン・ペイジである。

 これは主役が親友の家に電話し、重大な告白をしている場面なのだが、こちらもストーリーは割愛させていただく。

 注目すべきは画面下部だ。字幕の「マジ?」のあたりを見てほしい。これすなわち、ダサ掛け布団である。例の謎の花柄。私はこれを見たときにまた嬉しくなった。ああ、地球の裏側でも、実家の掛け布団はやっぱりダサいんだ…。気づけばひとりウンウンとうなずいていた――。

このように…

 以上、どの国においても、実家の掛け布団がダサいという事実が判明した。はたして実家の掛け布団は、ダサ柄でなくてはいけないという国際規格でもあるのだろうか。なぜ世界中の親たちは、主に花柄の布団を買いたがるのだろうか。まったく不思議な現象である。

 ただし、実際は2本ともアメリカ映画であり、かつ、私が意図的に切り取った場面ばかりなので、欧州やアフリカの実家についての事情はよくわからないし、この記事は本質的ではない。

 そのため、もし外国人の友人の実家で、ダサい掛け布団を発見したという方は、ぜひお知らせいただければ幸いである。

 ダサい or ダサくないの判定は私にまかせてもらえればと思う。事前にお伝えしておくが、変な花柄と変な家紋柄は、チェックするまでもなくダサい掛け布団である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?