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令和の死にコンテンツ「ピチT」を考える
気づかないうちに、世の中からピチTが消えていた。ピチTとはもちろん、「ピチピチしたTシャツ」のことである。
ま、ビッグシルエットが覇権をにぎっている現代において、ピチTを見かけなくなったのは、当然のことかもしれない。しかし、ピチT全盛期の2000年代に中学、高校と青春を過ごした私としては、いささか寂しいものがある。あの頃のミュージシャンはみなピチTだった。思い出してみてほしい。
たとえばこの『フレンジャー』の大塚愛氏は、2000年代のピチT文化をこれでもか、というほど体現している。私などは、この大塚氏の着こなしを見るだけで、嬉しくなってしまう。
まずトップスは、明るいオレンジ色のラグランTシャツだ。当然これはピチTでスソが短く、少し腕を上げただけで、ヘソがチラ見えする仕様となっている。
そして合わせるのは、妙にダボダボとした腰ばきのズボン。ここで勘違いしてはいけないのが、このズボンは、現代でみんなが履いているお洒落なワイドパンツとは異なり、ただ単にサイズが大きいだけなのだ。そのダボダボのウエストを、やけにたくさんの穴が開いたベルトでキュッと締め上げる。これぞ、ピチTファッションのお手本である。
さらに言えば、足元がワークブーツな点も見逃せないだろう。ピチTとワークブーツは相性がいい。いわゆる「アメカジ大好きオジさん」を思い浮かべてもらえればわかると思うが、ワークブーツにビッグシルエットのTシャツは合わないのである。そのへんのツボも押さえているあたり、大塚氏はかなりの策士であると言える。
また、これは余談だが、大塚氏の右の腰元から伸びる、銀色の物体にお気づきであろうか。ジャラジャラと光りながら揺れるシルバーの鎖。そう、ウォレットチェーンだ。ピチTと時を同じくして、世間から姿を消したかつての英雄。私も高校生のころは、レザーのコンチョ付き長財布を使用しており、あたりまえのようにウォレットチェーンを付けていた。腰にぶら下がる銀の龍のようで、最高にクールだと思っていたからである。
もちろん、いまでもウォレットチェーンはかっこいいと思う。別に、現代で着用している人を、馬鹿にしたいわけではない。それはピチTも同じだ。ただ、全盛期と比べると、やはりその絶対数が減ったと感じるのである。街中でそれらを見かけると、ついつい目で追ってしまう、という程度の話だ。
だが現代にも愛用者がいた
そんなふうに、ピチTの絶滅を嘆いていた私だったが、つい最近、小さな発見をした。それは、とあるカテゴリーに属する人たちは、いまでも好んでピチTを着ている、というものだった。
そのカテゴリーとは、マッチョである。マッチョの人たちは2021年現在において、もっともピチTを愛する人種であり、世の中で生産されているピチTの9割は、マッチョたちによって消費されていると言っても過言ではない。
ではなぜ、マッチョたちは流行にあらがい、ピチTを着続けるのか。答えは簡単である。もったいないからだ。MOTTAINAI。
わざわざ辞書を引く必要などないかもしれないが、いちおうこの言葉の定義を確認しておく。
勿体無い(もったいない)
有用なのにそのままにしておいたり、むだにしてしまったりするのが惜しい。
出典:goo辞書
ということだそうだ。
当然、マッチョたちが「むだにするのが惜しい」と感じているのは、彼らが頑張って鍛えた肉体である。せっかく毎日ワークアウトしているにもかかわらず、その頑張りを認知してもらえないのは悲しい。周囲の人に、自分が鍛えた肉体をアピールする方法はないだろうか…と彼らは考えたはずだ。筋肉が強調されて、普段づかいできるアイテムはないだろうか…。
そうしてたどり着くのがピチTなのだ。自らの肉体のラインを、くっきりはっきりと示してくれる手軽な洋服。ピチTを着ることで太い二の腕はさらに強調され、厚い胸板の盛り上がりをアピールすることができる。ゆえにマッチョはピチTを好むのである。そういう意味では、マッチョの人たちは、限られた有用な資源を活用するのがとても上手だともいえるだろう。
マッチョ部屋の入口に立つ
ここまでダラダラと書いてみたのも、私自身が最近、ピチTに興味が湧いてきたからである。
とは言っても、私は全然マッチョにカテゴライズされるようなカラダではない。ただ、近ごろ1日10回ほど自宅で腕立て伏せを始めた。そのおかげで、たぶん気のせいであると思うが、腕が太くなってきたようなカンジがするのだ。
最初は運動不足解消のために、軽い気持ちで始めた腕たて伏せだが、こうなってくるとその成果を誰かに知ってもらいたい。せっかく鍛えたのにもったいない。自分だけが満足しているなんて、とってもMOTTAINAI……。
そうして私はめでたく、ピチT愛用者の予備軍となってしまった。が、まだピチTを着ることはできない。なぜならマッチョ具合がぜんぜん足りないからである。この状態でピチTを着れば、ただ単に「ピチピチのTシャツが好きな変な人」になってしまう。大義名分を用意してからじゃないと、ピチTを着てはいけないのだ。
だから私はさらに鍛えることにした。ピッチピチで真っ白の、深く刻まれたVネックTシャツが似合う男になるまで、腕立てふせを継続するのだ。それに併せて日サロに通い、クロムハーツをメルカリで購入し、できるだけ太めのバングルを腕につける。どうせマッチョになるならば、よくばりセットをすべて試すことにする。それまではピチT界のキングともいえる、武田真治氏のインスタを見て気分を上げることにしよう――。
武田氏くらいになるとデニムジャケットもピチっていた……。さすがである……。
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