ぜいたく煮を炊いて時間こそ贅沢だと思った話。
全国各地のご当地グルメを再現アレンジしていて、ふと思い出したひと品があります。
子供の頃、たまに実家の食卓にいわゆる大鉢料理として出てくることがあって、なんとなく箸がのびて、気が付くとつまんでいる…それが“ぜいたく煮”という名前だと知ったのは、けっこう大人になってからでした。
🍚ぜいたく煮の別名
なぜその名称を知らなかったのかというと、実家ではこう呼んでいたからです。
“おこうこのたいたん”
その頃はなにも思わなかったんですけど、これってめちゃめちゃ方言ですよね。わかりやすいように訳するとこんな感じです。
おこうこ=香の物=お新香=お漬物
たいたん=炊いたん=炊いたもの=煮たもの=煮物
お漬物のことを“こうこ”と呼んで、それに“御”をつけて“おこうこ”と呼ぶのは、いものことを“おいもさん”と呼んだり、油揚げのことを“お揚げさん”と呼んだりするいかにも地元の呼び方です。
そして、“たいたん”は煮物のこと。
関西では煮ることを炊くと呼ぶ慣習があって、たとえば煮魚は魚の炊いたんと呼びます。お肉も炊くし、鍋物も炊くし、煮えたかどうかを尋ねるときも“〇〇炊けてる?”みたいな感じです。
ようはお漬物を煮ものにしたものなんですね。
ちなみにお漬物は何でもいいわけではなくて、たくあんです。
🍚どこが贅沢なのか
そんな“おこうこの炊いたん”が、ぜいたく煮と呼ばれるのは、漬物という一品を調理することからきているようです。
今でこそスーパーやコンビニですぐ買えて、そのまま食べられるたくあんは手軽なひと品ですが、もともとは大根を干すところからはじまります。これが日にちも手間もかかる作業です。
そしてさらに漬け込むお漬物。
漬けあがればそのまま食べられるものをさらに調理するのですから、たしかに贅沢ですよね。
🍚では作っていきます
🍲材料
・たくあん
・にぼし
・水…3カップ
・醤油…1/4カップ
・みりん…1/2カップ
たくあんは本来は古漬のものを使うのですが、手に入れやすいごくふつうの黄色いたくあんを使います。
なじみ深いひと品なので、子供の頃なんとなく見ていたような気がする作り方の記憶をたどっていきます。
まず最初は下茹でです。
スライスしたたくあんを水と一緒に鍋に入れて、強火で沸かしたら弱火にしてコトコト1時間ほど。やわらかくなるまでじっくり煮ます。
時間がかかりますが、この工程が大事。
お鍋に柔らかく下茹でしたたくあんと煮干し、水、醤油、みりんを入れます。
火にかけます。
あとは煮るだけ。
30分ほど煮て、たくあんにお醤油の色がしっかり染みたら煮あがりです。
いったん冷まして、盛り付けたらごまを振ります。
ぜいたく煮という名前に反して、できあがりは素朴なひと品で、ごはんにも合うし、ビールや日本酒、焼酎のおつまみにもいい小鉢です。
🍚本来のレシピの手間ひま
本来はしょっぱくなった古漬けのたくあんを使った、いわゆるリメイクレシピ的な存在なので、まず切り分けたたくあんを水に浸けて塩抜きするという工程があります。
でも今回は、市販の普通の黄色いたくあんで、そんなにしょっぱくないので省略しました。
最初に塩抜き。続いてたくあんがやわらかくなるまで、水だけで煮る下処理。この時間があってこその食感が美味しい。そう考えると、素朴だけど時間と手間はかけてます。
🍚時間は贅沢
おとなになり、時間に追われる毎日を送っていると、時間そのものが何よりほしいものだと気付くことがあります。
作りながら思ったのですが、贅沢という名前の由来は、調理の時間もそのひとつかもしれません。
シンプルで素朴な料理ですが、できあがるまでには長い時間をかけています。
🍚たくあんと湖北
ところでこの料理、ずっと京都の料理だと思っていました。実際に京都でも普通に作って食べられていると思うのですが、滋賀県の湖北地域では仏事に欠かせなかったりするほどのひと品らしいです。
ふと思い出したのは、最近テレビなんかで滋賀県のご当地グルメが取り上げられるときに必ず出てくるあのパンでした。
たくあんと湖北。
なにか縁があるのかもしれないと思いつつ、懐かしい味をいただきます。
たっぷりと。
贅沢に。
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