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難病営業マンの温泉治療⑳【鳴子湯治回想 いさぜん旅館】

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 ※この日記は数年前、宮城県鳴子温泉郷にて1週間の湯治を行った際に記したものです。

 鳴子に来て4日目の早朝、頭痛と体の痛みで目が覚めた。3時半に目が覚めてから再び眠りにつくことはなかった。排尿時にも下腹部の痛みが伴いコーラ色の尿が出る。軽い血尿だ。

 怒涛の3日間、少し多湯し過ぎたようだ。だが湯巡り経験でこのような事態にはある程度慣れている。むしろ、4日目にしての不調は少し湯治の効果が出始めているようにも思えた。

 「この程度であれば 大丈夫」

 不思議と根源のない自信が漲ってくる。一度訪れた不調は安静を取ると次第に収まり、やがて超回復によって好調が訪れる。
 漫画ドラゴンボールの「仙豆」をイメージすればわかりやすいだろう。今回の目的はこの不調に対し安静を取るのではなく、あえて源泉を迎え撃ち、尚回復を狙うことだ。

 連日同様、5時半には着替えて散歩へ。寝不足から少し意識がはっきりしなかったが、これまで続けたルーティーンを崩したくはない。
 体調不良の原因は恐らく脱水症状。3日間で入った浴場は11カ所。普段の湯巡りと大差はないものの、個性的な源泉が多く一つの宿で数本の源泉を有する宿も多い。退湯後も流れ続ける汗は、相当量出ている。

 熱中症や脱水症状の患者に「真水」を勧めるのは良くないことは広く知られいる。発汗と共に塩分(ナトリウム)が失われるからだ。今日までに摂取した飲料は真水と麦茶だけ、食事も粗食しか口に入れていなかった。

 もともと学生時代は80キロあった骨格。年々やせ細り15キロ近く減量したとは言え、栄養価が充分とは言えない食生活。この日を境に、食生活も少しずつ変化を加えることとなった。
 散歩の帰路、足がコンビニへと向いた。サラダやヨーグルト、果物や野菜ジュースに手を伸ばす。普段なら購入しない食材だが、身体が健康を求めたのだろう。身体が発する微細なSOSを、なるべく丁寧に拾うことにした。

 私の健康上の問題で、どうしても切り離せないものがある。それは「全身痛」と「低白血球」。母方の親戚筋が膠原病と共に持つどちらも原因不明の症状だ。因果関係は謎だが状態が悪い時に採血すると、決まって白血球やコレステロール・内臓系の数値も悪化する。


 白血球を増やす食べ物はないのか?
あらゆる研究家の文献にも気持ち良いほどあっさりと「ない」という結論が出ている。
 骨髄で形成される白血球は食事療法では改善はできないという。基本的には「ストレスを溜めない・ちゃんと寝てちゃんと食べる」が治療法と主治医から勧められた(これが難しい)。

 私はこの湯治に全身痛の緩和と、白血球向上に一縷の期待をしていた。
医学的根拠には乏しくとも、これまで湯治場で出会った方々の中には温泉によって、病状が回復したという話を幾度も耳にしてきた。
 次回の血液検査まではあと1週間後。白血球は増やすことはできないが、減らさない努力はできるらしい。腸を正常に保ち、ビタミンBなどを良く摂取すること。


 「今朝身体を襲った痛みは回復の前兆かもしれない」
 「やれることは全てやろう」。

 コンビニでヨーグルトや副菜類に手が伸びたのも、そんな前向きな気持ちの表れだったのだろう。

 この日も10時から湯巡り開始。1湯目は東鳴子「いさぜん旅館」。年季の入った旅館に猫が数匹。ご主人の趣味なのか阪神タイガースのグッズがびっしりと。暖簾やポスターはまだしも洗い場の椅子や桶、石鹸入れゴミ箱までタイガースグッズ。「本当に正規品なのか?」と疑問が残るほどそれ一色だった。

 何も知らずにここに来た巨人ファンはどう思うのだろうか?余計な心配を吹き飛ばす程、その源泉は秀逸。東鳴子を象徴するような油臭の黒湯を2種類いただく。         
 混浴の内風呂では炭酸泉と鉄鉱泉浴槽を交互浴で楽しむことをができる。特に炭酸泉は30度台であろう温湯。あまりの気持ち良さにここで2時間費やしてしまった。母以上に歳の離れた女性と1時間の同浴、他の地域でなかなかできない貴重な体験だ。「東鳴子ではここが一番」と絶賛していた。


 昼食は鳴子温泉駅前の「ゑがほ」と言う温泉街にありがちな大衆食堂で。何と今日で3日連続の訪店。例のおおさき食泊キャンペーンチケットが使えるからだ。注文はいつも同じ、この店の名物「山菜きのこそば(1,100円)」。

 好物の山菜とキノコ類、野菜不足も補うためこのそばを重宝、、と言いたいところだが理由はそれだけではない。この1,000円チケット、当然おつりは返って来ない。丼物・定食・蕎麦うどん・ラーメンなど何でもそろう店。昔ながらのラーメン600円、天ぷらそば880円などなど魅力的なメニューにも惹かれるが、折角なので、、、  

 店の方には申し訳ないなと思いつつ持ち出しは100円だけでこの高価な看板メニューを毎回頼んだ(まあ行政が負担してくれるのだろうが)。美味い一品だった。

 胃袋にも、財布にも優しい一品。3日連続となると店員の眼もあり若干恥ずかしかった。だが明日以降もこれを頼むつもりでいる。
 人間スマートに生きたいものだがそう上手くいかないものだ。


                           令和2年9月22日

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