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源泉回顧録【伊豆半島周遊② 海辺の温泉 土肥】

<前回はこちら>

 函南(畑毛温泉)での夜を経て、414号線を南下。伊豆長岡や修善寺を通過し天城峠の手前湯ヶ島温泉へと向かう。1湯立ち寄りの後進路は西へ、土肥温泉を目指した。

 首都圏からアクセスする伊豆方面は、平塚を過ぎると河津までは基本沿岸沿い。イメージするのは南国を感じされる「海」。だが修善寺から南を攻めると、その印象は随分違う。
   20歳の川端康成が、孤児根性から逃れるために発った一人旅。修善寺で出会った旅芸人一行、黒髪の少女に恋をし木賃宿を転々とし下田までの道連れ。

 「道がつづら折りになってーー」
淡麗な日本語で描写された【伊豆の踊子】ルート。100年前とは流石に様変わりしているだろうが、天城峠を登り河津に向かうまでの区間、美しき山景は今でも堪能することができる。

 いつか旧天城トンネルを抜け、湯ヶ野温泉までを歩いてみたいもの。だが年々悪化する体の痛み、その日は来ることはなさそうだ。
作中では踊子は太鼓を運びながらこの峠を越えている、通過する度にまずその体力に驚嘆する。


 川端康成が常宿とした湯ヶ島温泉「湯本館」は、鮎釣りの名所狩野川沿いに佇む木造宿。県道59号から狭路に入っていくと一気に秘湯感が増す。氏は10年近く東京に家や宿を持たず、一年の半分をこの宿で過ごしたという。
 湯ケ野温泉「福田屋」、「雪国」を執筆したという越後湯沢「高半旅館」にもその足跡は残るが、余程こちらの宿を好んだようだ。

 川沿いの露天風呂は渓流沿いのワイルド系。以前は混浴だったが現在は部屋やグループで貸切利用になったそう。かつてはたまたま日帰り入浴ができたが、清掃時間や他の組が入っているという理由で断られることも多い。
 立ち寄りの営業時間も短く(12時~14時半)、事前に電話し「入れればラッキー」ぐらに思っていたほうが良いだろう。この日も日帰りはやっていなかった。

 
 温泉街から少し離れた「湯ヶ島 テルメいずみ園」に立ち寄ることに。ここは4,500円で素泊り可能な施設。自炊場も完備されているという。
温泉療法はやはり連泊長期滞在が基本となる。安価で快適な宿を探すという目的を兼ねたこの旅、施設の清潔さや電波状況なども確認チェックする。
 スマホを見ると4本電波が立っており、清潔さも申し分ない。源泉も露天と内湯、何れも100%かけ流し。石膏臭漂う良い温泉だった。


 湯ヶ島温泉を出て少し南下、道の駅「天城越え」で昼食。天城名物と言えば天然わさび。1本わさびをご飯にかけるだけという「わさび丼」。伊豆七滝近くの「かどや」はかなり有名になったようで、土日は外に行列が出来るほどの人気店に。
 ご飯にかつお節と茎わさびが盛られた器に、セルフで生わさびを擦りおろして醤油を一回し。やはり擦りたては上品な辛さと旨さが鼻に残り、立派なご飯のおかず。中伊豆~南伊豆に来た際には必ず食したい一品だ。

 来た道を戻り、湯ヶ島から今度は西へと向かう。なだらかな傾斜を降りて行くと海が見え始める。この地は日本屈指の金鉱山で名を馳せた地「土肥温泉」。
 沼津出身の若山牧水が100泊以上過ごしたとも言われる西伊豆屈指の観光地。友人と来て以来およそ10年振りにやってきた。まだ温泉巡りを始める以前の男4人旅、温泉自体の記憶はほとんどない。

 一人泊可、そして予約サイトの「源泉かけ流し」というキラーワードに惹かれ、ある宿に決めた。チェックイン前、少し時間があり土肥神社を参拝。その後近くの「馬場温泉 楠の湯」という共同浴場で時間を潰す。
 発券機でチケットを購入、番台へ渡し浴室へ。僅かながら石膏臭を帯びた源泉、消毒液使用とのことだが気にならないほど。小さな露天風呂もあり、雰囲気込みで気に入った。

 16時過ぎに宿に到着。案内された2階の部屋、窓を開けると川が河口へと流入する景色が見えた。リハビリついでに海辺の松原公園と海水浴場を散歩。長年の激痛により、私の左膝は少々湾曲している。砂浜がクッションの役割を果たすようで心地良い歩行だった。

 
 宿の湯も楠の湯とほぼ同質。全てを確認出来たわけではないが、土肥温泉の各旅館で使用されているのは共同管理の混合泉。消毒液が使用されているようだ。
 循環風呂や消毒液使用を言下に否定するつもりは毛頭ない。夏場となれえば多くの海水浴客や釣り人が訪れるであろうこの地。衛生面を考えれば致し方なしか。

 そうなると気になるのが旅行サイトや公式HPに出ている「100%源泉かけ流し」という記載。割と多用する源泉に特化したサイトにも源泉かけ流しの湯と紹介されていた。
 「源泉かけ流し」とは造語であり定義が曖昧。温度調節のための加水や冬場のみ加温を許容するなど、専門家でも解釈にも幅がある。だが、消毒液使用されているものを「源泉かけ流し」と許容する方は流石にいないようだ。

 旅館の方は対応も良く、宿は少し年季が入っていたものの清潔に保たれていた。源泉に多少消毒液が使用されようと、宿の評価が著しく下がるということもない。
 だがやはり、予約を決めた時点で入りたかったのは消毒液なしのかけ流しの湯。土肥での一夜は少しざわざわ感が残った。

 旅は更に南へ。長年の憧憬の地であった、ある旅館を目指した。


                          令和3年春

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