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春の東北湯治⑪【温湯温泉の移動販売車~出立の時】

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 湯治に出てから約10日。鳴子で焼肉、湯沢でラーメンを食べた以外は全て自炊で済ませていた。ご当地グルメを食したい気持ちは山々だが、毎日外食をするほど懐の余裕はない。

 因みに私の経験上の話だが、旅は3泊以上になると自炊をした方がコストメリットが出てくる。 
 自炊道具は結構な荷物で、宿の移動に伴う引っ越し作業はなかなか面倒。そして野菜や肉、卵などは少量だと当然割高になる。1泊や2泊では消費しきれないため、コンビニの弁当などで済ませた方が良い。場末感のある定食屋などが近くにあれば尚良し。

 今回は長旅なので、鳴子滞在中は近くの直売所で食料をまとめ買い。
冷蔵庫から引き揚げた食料はクーラーボックスに入れて温湯温泉に持ち込んだ。

 大したものは作れないものの、米は高東旅館の一等米。それを湧水処で給水した天然水で炊けば十分舌は満たされるはずだ。
 いくら山の宿と言えど水道水は配管の鉄臭が混じったりする。本旅途中に寄った「風早峠 かぜはやとうげの水(宮城)」、「目覚めの清水(秋田)」は共に優秀な生活水だった。

 温湯温泉でもこの米と湧水を枢軸に自炊をするつもりだったが、ここで思わぬ苦戦を強いられることに。
 
 湯治宿の炊事場は少々不衛生なのは承知の上。
私は食器も調理器具も一通り持ち合わせており、多少ハードであったとしても水道とコンロさえあれば何とかなる。こちら後藤客舎の炊事場もかなり年季が入っていたが、これまで数多のボロ宿を見てきた私は正直何とも思わなかった。

 問題は、、「カメムシ」。


 青森県に入ったのは4月24日。もしや雪が残っているのではと懸念し、スタッドレスを履き替えずに来たくらいだったが、何とこの日は22度まで気温が上がった。Tシャツで歩けるほどの気候で、カメムシも一気に活動を開始したようだ。

 いくら汚い炊事場に慣れていても、頭上にカメムシが舞っている状態では流石に調理は諦めた。

私  「女将さん、この辺でご飯食べるところありますか?」
女将 「表通りにドライブインがあるよ」
   「あと3時くらいになると魚屋さんが色々売りに来るよ」
私  「移動販売ですか?」
女将 「そう、軽トラックで。レコードを流しながらくるからすぐわかる」
私  「それは面白そうですね」

 
 日曜日以外は毎日15時半になると、本当に移動車両はやって来た。
曲は分からなかったが、演歌を爆音で街中に轟かせ、共同浴場駐車場近くに暫く停車する。

 車内はなかなかカオスな状態。
野菜や軽食、生肉に生魚が無造作に放り込まれている。店主に許可を取り撮影させていただいた。このような移動販売車は少なくなり、つい最近もNHKが取材に来たという。

 QRコード決済などのハイテク精算は難しいだろうが、ここでは電卓もなくそろばんで計算をしていたのも驚嘆した。タイムスリップを謳い文句に客寄せをする温泉街はいくつかあるが、本場を体験するのであれば温湯の客舎に泊まり生活すると良いかもしれない。

 結局食事は移動販売で出ていた巻き寿司やパンなどで糊口を凌ぎ、一度だけドライブイン西十和田でカツ丼を食べた。

 温湯温泉滞在期間は車も動かさず、源泉とひたすら向き合う尊い時間だった。強いて言えば日中仕事から手が離せず、もっと街を見る時間と女将さんと話す時間が欲しかった。

 帰り際、「また来てね」という女将さん。社交辞令でも「はい」と言えばよいものの、何故かうまく答えられずフリーズしてしまった。ここは自宅から600キロ離れた僻遠の地。連休が明ければまた通院の日々が待っている。急にリアルなことが想念された。

 
 「熱いのに温湯ぬるゆ 温泉」

 客舎と共同浴場と移動販売の街。何も起こらなかった4日間だが、どこの温泉街とも異なる強烈なインパクトを心底に刻み込んでくれた。またいつかこの街に来ることはあるだろうか。女将さん、お元気で。

                           令和4年4月27日  

後藤客舎の炊事場 カメムシが・・・
移動販売登場 爆音を響かせて
生魚や生肉が無造作に放り込まれている
ペイペイ導入はいつか
さよなら温湯温泉

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