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難病営業マンの温泉治療㉒【鳴子湯治回想 とどろき温泉】

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 ※この日記は数年前、宮城県鳴子温泉郷にて1週間の湯治を行った際に記したものです。

 湯治開始から6日目。好調とは言えないコンディションが続く中、ようやく求めていた感覚に辿り着く。途中一度目が覚めたものの、2度目の入眠からは安定し起床時間の5時半ギリギリで目が覚めた。
 前日の打たせ湯が効いたのか全身痛も落ち着いており、特に背中と肩の痛みは顕著に引いている。顔もスッキリとした印象だ。この日の散歩は天気も良く足取りも軽い。

 
 この日の散歩中、ある決断を下さなければならなかった。最終日の宿をどこにするかということ。可能な限り鳴子で過ごしたいとは思っていたが、気がかりだったのは「運転」。

 自宅から鳴子温泉までの往路には8時間を要した。運転すること自体は好きだが、長時間同じ姿勢を続けるのはリウマチ体質にとっては致死量。
 こちらに来てから最終宿を決めるつもりが、居心地がよく決め切れないまま6日目を迎えてしまったのだ。
 連泊中の高東旅館は連休が明けると空いており、「明日も延長で」と頼めば断られはしない様子だった。だが、いい加減そろそろ決断しなければならない。

 悩んだ結果、未練は残るものの鳴子を後にし150キロ南西の小野川温泉(山形県南部)に宿泊することに。せっかく健康体を手に入れても、半日の運転でまた元通りバキバキの身体に逆戻りしたのでは無駄骨もいいところだ。
 宿で何となくテレビを点けると、番組の途中を挟むCM【東北道リニューアルプロジェクト】が何度も流れた。いつもであれば気にも留めない内容だが、須賀川IC~白石IC間の片側通行規制。皮肉にも自宅と古川の中間にあたる。ここで渋滞しようものなら、とても帰路は8時間では済まない。

 いかにも好感度の高そうなアナウンサーが陳謝するCMが、無性にこちらの頭を悩ませた。小野川温泉であれば、最悪猪苗代方面回りでその区間を避けられる。苦渋の決断だった。

 ”あと2泊しかできないのか” そう思うと急に寂しくなった。

 6日目ファーストダイブは鬼首「とどろき温泉」。数日前の喧騒が嘘のように鬼首エリアは閑散としていた。受付に行ってもしばらく誰も出てこない。館内を探し回り女将さんを発見。湯巡りシールを2枚渡し、名物「混浴大露天風呂」へ。
 渡り廊下にはタレントのなぎら健壱と渡辺美奈代が混浴に入るシーンの写真とサインが飾られていた。平成初期のドラマの撮影がこの宿で行われたようだ。

 無色透明無味無臭のさっぱり系アルカリ泉質を1時間程拝湯。独泉に見事成功した。昨日までのグッタリ感は何処吹く風、人目を気にせず大露天で軽く蹴伸びをしたり、ストレッチをしたりと童心に戻ったように湯を楽しんだ。

 鳴子エリアに戻り、昼食前の1湯は「東多賀の湯」。鳴子に到着して以来、ずっと気になっていた湯だ。国道108号線沿いに建つこの宿の隣には兄弟宿だろうか「西多賀の湯」が並ぶ。何度この道を通り過ぎたか分からないが、常に両旅館ともに駐車場が満車で入れなかったのだ。

 この日も宿の前でスピードを落とし、入庫を試みたがやはり満車。結局鳴子温泉駅近くの無料湯巡り駐車場に車を停め、しばらく歩いて宿に向かった。入館し女将さんにシールを渡す。入口には空の2ℓペットボトルが20円で売られていた。

私  「こちらの湯は飲泉できるのですか?」
女将 「飲泉は駄目、これはアトピーの人が汲んで帰る用。みんなこれを汲んで帰って皮膚に塗るのよ」

 こちらの湯はアトピー患者が多く訪れる宿だそう。館内には「湯治体験談」の切り抜きが貼られていた。

 宿中に漂う硫化水素臭。脱衣所には「湯を運ぶ際は台車を使うように」という注意書きが。湯を溢すと床が源泉の成分で黒ずんでしまうのだという。
 浴槽は男女別の内湯が1つずつ、それも一度に入浴できるは3人程度だ。この3席の椅子取りゲームのためにいつも駐車場が溢れるほど、その治癒力は高いようだ。
 
 ドバドバとかけ流しにされるフレッシュな源泉は見事にオーバーフローし床を流れる。温度も40度ほどか、熱湯が苦手な人でも10分以上は入っていられるだろう。調子に乗り長湯をし過ぎてしまい、出たころにはまたグッタリ感に襲われてしまった。

 湯上りの後の身体には、首下辺りまで湯に浸かった跡が真っ赤に染まっている。源泉の成分だろうか。ほぼ同じタイミングで脱衣所に居合わせたおじさんの身体にも同様に跡が残っていた。

 分析表上では似たような源泉は探せなくはない、だが源泉には確実に「分析表上には出ない」成分が隠されている。湯巡り上級者にとっては、それを楽しむのも魅力だ。

 隣の「西多賀の湯」にも入りたかったが、湯疲れから一旦ストップ。連日同様山菜そばを食してから、東鳴子、川渡へと戻って行った。 
 
 
                           令和2年9月24日

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