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過去作の小説たち。
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記事一覧

A certain week

きっと、最初の5分は冷静で。その後からは、思い出したような駄々っ子。諭される前提なんて、面倒だろうけど、いつもと変わらずに反応は返ってきた。嬉しくもあり、もどかしくもある。こんな時こそ、小さな自分も蟠りも捨てて、今を楽しむことに徹したい。

何年経っても、何度目の機会が来ても、大丈夫とは言えない。ただ、私の我儘で付き合って貰うことも、貴方を縛ることも…何故か、まだ許されるなら、どうかそんなに焦っ

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n❀ 傍にいるから【後編】

「ねぇ、隼飛は何も聞かないんだね。あたしが入院してた理由とか」
「別に…詳しいことは聞かなくてもいいだろ?って、委員長だから…知ってんだ」
俺は肩を落とした。
「そんなに悪化してるのか?病気は…」
「うん………」
輝良は尚も無言でいるため、靴紐はさっきのままだった。
俺は溜息をひとつ残し、しゃがみ込んだ。
「そうか…今は平気か?」
そう言いながら、俺は輝良の靴紐を結んだ。
特に意味はなかったが…何

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n❀ 傍にいるから【前編】

輝良(キラ)は明らかに困ってた。
それでも意地悪な俺は、答えもヒントも出そうとはしなかった。
「ねぇ…これって、なんか問題点あるの?」
負けず嫌いな輝良は、俺を上目で見つつ、数学の問題集と睨めっこをしていた。
「あぁ、あるよ」
俺はそれが何処なのか、決して言おうとしない。
そんなの0.1%も輝良のためには、ならないからな。
俺は退屈な日常に降って来た『変化』を少なからず、楽しんでいたのかもしれない

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n❀彩(イロドル)

バスの中から見えた黄色とオレンジの花。
其処は…あたしたちにとって、決して忘れられない場所だった。

今日の空は雪のように白くて、今にも雨を注いできそうな天気。
そしてあたしの乗ったバスは不幸にも、いつも以上に社内が五月蠅かった。
おかげで持っていたウォークマンのボリュームまで、倍の音量になってしまった。
そのバス停には、今も彼女を偲んで花や飲み物が供えられている。

「あれから…もう一年

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n❀デコボコ

右手にあった温もりをどんなに思い出そうとしても…どうしても蘇らない。
…数時間前の記憶は…何処へ忘れてきたのかな?
忘れるつもりなんて無いのに…。
彼にとって…あたしって何なんだろう?

まるで…怖い夢を見て目が醒めた子どものように、あたしは我に返った。
「あははっ、馬鹿みたいだね…」
駅からそう遠くはない、誰もいない公園のベンチでヒトリ呟く。
先刻まで恋人の遊佐といたことさえ…嘘のようで、あ

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n❀不器用なカップル»⑤(fin)

⑤『不器用な伝言』

それぞれ、もらえたモノを早速身に付けることにした。
我ながら…イイ感じに付けたな、と満足しながら真砂の方を振り返ると…
まだ悪戦苦闘の御様子。
「なぁ~に・・・まだ付けられないの?」
「普段、こんなモン付けねぇ~し!リン、手伝ってやぁ~」
ハイハイと半分お母さんのようなキモチで、それを引き受けた。

「真砂って…案外、首太いんだね」
「オトコですから!」
何を今更っ!

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n❀不器用なカップル»④

④『不器用な光景』

「着いた…」
昨日と変わらない教室なのに、まるで違う学校の教室に来たような気がした。
あまりにも静まり返った室内は…
あの日常では有り得ないようにあたしは思っていたからか…
とても不思議なキモチだった。

「こうしてると、映画のワンシーンみたいだね」

静まり返った教室、外とは別世界の空気が…流れている。
活気のある何処かの部活の掛け声、熱気がこの教室まで伝わって

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n❀不器用なカップル»③

③『不器用な会話』
「もう!何でウチまで来るのかな~?」
「ええやん!気紛れや気紛れ」
まっ、学校へ行くと言っても今日は土曜日。
普通の高校ならお休み。
なのに…家を出たのはいつもと変わらなかった。

「ええなぁ~家からチャリ通って!!」
とは言っても、自転車はあたしのモノで…運転してるのはエセ関西人。
あたしは後ろに座って…必死で真砂にしがみついてた。
「なんや、リン…そないくっついて」

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n❀不器用なカップル»②

②『不器用な贈物』
(よしっ!!コッチにしよう…)
あたしはやっとの思いで、商品を手にしレジへと向かった。
それは閉店時間ギリギリの決断、店員さんの協力あって…やっと選ぶことが出来た。

「彼、喜んでくれるとイイわね」
「ハイ、どうも色々と有難う御座いました」
一礼してお店を後にしようとした時、さっきの店員さんに声をかけられた。
「コレ…オマケにどうぞ。さっき買ってくれたモノと同じデザインだか

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n❀不器用なカップル»①

①『不器用な日々』

未定だらけの3月のスケジュール帳。
唯一シルシの有る日はアイツの誕生日で…あたしはまた深い溜息を洩らす。
別にアイツと逢う予定なんてないし、メールを送るくらいかな…
まぁ、そのくらいでしょう。
偶然にも土曜日なのに…休みなのに…だからなのか…あたしはホッとした。

だって…アイツに面と向かって『歳喰ったね~』なんて軽口も、きっと今は出来ないから…。

それを考えた

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n❀月との対話

其れはいつから始まったのかさえ忘れた…ゲームだった。
騒音に囲われた日常の中で、唯一の安心を感じる時間。
自分の時を刻む鼓動。
自分しか知らない夢の彼方。
月との対話も…未だ知る人はいない筈。

でも…ヤッパリ言うべきなのかもしれない。
別に、あの人を信用していない訳ではない。
ただ…今も、この先も、ずっとずっと…足枷にならないように2人で歩きたいだけ。
今だから感じる訳じゃない。
まるで失敗

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n❀五十年後にページを開いて

ドアというドアを試せば、必ずそのひとつは夏に通じる。

タイムカプセルに忍ばせたその手紙に、謎を残したのは、私なりの一種の賭けだったのだろう。

ー五十年後にページを開いてー

不可解な伝言だな、と手紙を覗き込んできた雄大(タケヒロ)に、苦笑い。
だって、この一文を添えようと言った本人はあなたでしょう?

「確か、タイムカプセル埋めたのもこんな真夏日だったっけ?ヤマもんの思いつき…

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n✩儚い夢追って

「では、今日はココまで」
50分という苦痛からの開放に朝衣はノート類を机に押し込めると、
すぐに教卓前の蛍の席へ向かった。
「蛍っ!今の数学の授業わかった?」
「………」
無反応な蛍。一拍遅れて、何故彼女が無反応なのかをやっと理解した。
「朝衣…ちなみに今の時間、何やってたのよ?」
すっと朝衣に近付いてきたのはストレートの黒髪が特徴の茜音だった。
「前半はちゃんと積分の計算をして…後半はヒマだっ

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n❀かくれんぼ

今夜は何かを忘れるために歩いていた。
当てもなく…そう、がむしゃらだった。
捨てた筈の…想い出という絆、また手元に戻ってた。
足跡と共に刻まれ、注がれていく雫が消してくれると期待した。
あなたと過ごした日々を…。

海岸沿いを進むと頭上に瞬く星たち、今日はいつもより輝いていたと思う。
やわらかい砂の上。
このままずっと…誰にも知らされず傷口触れられず眠りたいな。

『何してるの?』
聞き慣れた

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