n❀彩(イロドル)

バスの中から見えた黄色とオレンジの花。
其処は…あたしたちにとって、決して忘れられない場所だった。

今日の空は雪のように白くて、今にも雨を注いできそうな天気。
そしてあたしの乗ったバスは不幸にも、いつも以上に社内が五月蠅かった。
おかげで持っていたウォークマンのボリュームまで、倍の音量になってしまった。
そのバス停には、今も彼女を偲んで花や飲み物が供えられている。

「あれから…もう一年…経っちゃうんだ…」

吐き捨てるように、何処か割り切れない心のモヤモヤが言葉となって溢れ出した。
大切な後輩が亡くなって…まもなく一年が経とうとしていた。
瞼を下ろせば蘇る、音楽室を包んだあの日の空気…忘れやしない。
彼女のいない音楽室は、やっぱり物足りなかった…。

最近は花だけがなく、あたしもそろそろ供えようか迷っていた矢先のことだった。
この重く白い空には艶やかな黄色とオレンジの花が供えられていた。
まるで彼女の明るい性格を反映させたような…きれいな花だった。

「今度はみんなで逢いに行くからね…」

バスの車窓からの呟き、空の上にいる彼女に…届いたかな?
ウォークマンのボリュームは大きくて、
もしかしたら…彼女からの返答を、聞き逃してしまったかもしれない。

『先輩、聞いてましたか?』

彼女が頬を膨らませたように感じたのは…あたしだけなのかな?


❀アトガキ❀
高校三年生の時、1つ下の学年の後輩が、交通事故で亡くなりました。
これは、一周忌に合わせてあった出来事をそのまま綴ったものです。

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