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④『不器用な光景』

「着いた…」
昨日と変わらない教室なのに、まるで違う学校の教室に来たような気がした。
あまりにも静まり返った室内は…
あの日常では有り得ないようにあたしは思っていたからか…
とても不思議なキモチだった。

「こうしてると、映画のワンシーンみたいだね」

静まり返った教室、外とは別世界の空気が…流れている。
活気のある何処かの部活の掛け声、熱気がこの教室まで伝わって来る。
でも、肌で感じるのは…ちょっと不安定な緊張感。
あたしには真砂の目的が何か分からないからかもしれない。
目の前のエセ関西人は…何も喋ろうとはしない。
「静かすぎて…机たちも安心してるかな」
何か喋って欲しい。
沈黙は苦手だから…あたしは一所懸命に話題を探した。

「…まぁ~そうやろ。机も椅子も…ロッカーも黒板もな、みんな安心してるやろ」
「あははっ、やっぱりそうだよねぇ~」
あたしはいつもミンナと話す時に座るロッカーに近付いた。
「でも、あたしが此処に座ったら…ロッカーはビックリするかな」
「あぁ~折角の睡眠を妨害されるやろなぁ」
「うわぁ~ヒドい!」

こんなに笑い合うのもいつもの光景。
あたしはこんな小さなことでも…幸せだなって…単純かな?
「ぇっ…大馬鹿エセ関西人の真砂の誕生日でしょ」
大馬鹿エセ関西人は余計じゃわい、阿呆!と突っ込まれ… 真砂はオホンと咳払いをする。
「じゃあ、明日は何の日?」

…あ、明日って???

あたしは頭の上に幾つも文字通り『?』を乗せてしまった。
そんな唖然としているあたしを見兼ねてか、真砂は溜息をつきながら、

「自分の誕生日だろ~が」

と教えてくれた。
そういえば…真砂の誕生日のことですっかり忘れていたけど、
あたしって真砂の次の日が誕生日だったんだ。
「お前…究極の阿呆やな」
「なっ!!あのね~コッチはそれどころじゃなかったのよっ」
真砂の誕生日プレゼントに悩んでて、すっかり忘れていた。
とは言えず、あたしは曖昧な回答をした。

「はいっ、誕生日プレゼント。気に入らなかったらテキトーに処分してイイから」

「へっ?マジかよ…」
もう間が持たないと思い、あたしは小さな袋を渡した。
昨日…一生懸命悩んだ末に買った…誕生日プレゼントを…。
「開けるぞ~…へぇ!リンにしちゃ、イイ趣味してんな」
「なっ、悪かったわね…ナンセンスで」
へぇ~と光にかざしながら…あたしの買ったネックレスを真砂は見ていた。
リングが幾重にも重なった知恵の輪?みたいなネックレス。
真砂は気に入ってくれたかな?

「これって…まぁ~ええわ、俺もあるんや。ホレ」
ポ~ンと投げて渡され危うく落としそうになったけど、
あたしはもらえたことにビックリした。
「うっそ!!真砂が?!」
「だあぁっ悪かったな。イイから文句言わずに…」
「開けましたよ。可愛い!綺麗なピンだね」
真砂からもらったのは、先端に何種類かのビーズを重ねた女の子らしいデザインのヘアピンだった。
「ありがとう」
「どっ、どういたしまして」
急に改まった口調になると…調子狂うなぁ…。

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