東堂冴

小説を書く人間です。評論みたいなこともたまにします。twitter : https:/…

東堂冴

小説を書く人間です。評論みたいなこともたまにします。twitter : https://twitter.com/todo_sae 通販 : https://sae-todo.booth.pm/

マガジン

  • BUMP OF CHICKEN

  • 書評 サリンジャー

    「They were made from Glass――グラース姓の子どもたち」 サリンジャー作品(グラース・サーガ)に対する書評です。

  • こぐま座アルファ星

    カクヨムで連載中の長編小説『こぐま座アルファ星』のまとめ

  • おぼえていますか 番外編

    『おぼえていますか』番外編のまとめです。(全編無料)

  • おぼえていますか

    2014年9月発行の同人誌『おぼえていますか』(東堂冴)のWeb公開バージョンです。

最近の記事

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noteの作品について

※noteでの作品公開・有料記事の扱いにつきましての記述です。お目通しいただけますようお願いいたします。 New! (18/07/09) 『こぐま座アルファ星』の第六章および終章を更新しました。 本更新で完結です。 noteには、主に同人誌として発行した作品・およびそれに関連した作品を掲載しております。 tumblr ( http://nipanipapa.tumblr.com/ )などで公開している作品はこちらでも無料で公開しておりますが、同人誌のみでの公開となってい

    • 悲願

      桜鬼様主催の文芸誌『石蕗花』(狂い咲き)に寄稿させていただいた作品です。  カーテンコールでスポットライトを浴びるたびに脳裏に浮かぶ顔がある。俺に向けられる客席の視線が、湧き上がる拍手が、称賛も非難もひっくるめたすべての言葉が、本当は向けられるべきであったかもしれない男の顔だ。彼の目に、いまの俺はどう見えるだろうかと考えてみたこともあった。けれど、それはあまりに傲慢な想像で、都合のいい推測が浮かべば浮かぶほど自分のことが情けなくなって考えるのをやめた。  ひとの感情はすべて

      • カナタ

        東堂主催のアンソロジー 文系/理系アンソロジー 「雪がとけたらなにになる?」 に寄稿した作品です。 「松下じゃん、久しぶり」  物理学系の図書室を後にして、普段はあまり立ち入らない北棟の廊下を借りた本を抱えながら歩いていたとき、ふいに後ろから私を呼び止める声がした。振り返ると、そこには根元まで髪を金色に染めた佐賀くんが立っていた。「久しぶり」と返しながら最後に彼の顔を見のがいつだったかを思い出す。たしか、まだ年度のはじめで、そのときの彼は黒髪だった。 「聞いたよ、松下、院試

        • ユートピアには生きられない

          綿津見様主催 アンソロジー光 に寄稿した作品です。  成人式以来五年ぶりに開かれた中学と高校――私の通っていた学校は中高一貫校だった――の同窓会で、テーブルの一番隅の席に座って氷の融け切ったカシスオレンジをずっと手元に携えている彼女の名前を思い出したのは、幹事の竹中くんが「そろそろ出ようか」と皆に声をかけ始めたときだった。ほとんどのメンバーが五年ぶりの再会とあって、庶民的なレストランでの開催だったわりにはだれもが普段よりすこし良い格好をしていた中で、彼女は特別派手に着飾るわ

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        noteの作品について

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        • BUMP OF CHICKEN
          3本
        • 書評 サリンジャー
          4本
        • こぐま座アルファ星
          12本
        • おぼえていますか 番外編
          3本
        • 虹彩・太陽をうつすもの
          5本
        • おぼえていますか
          8本

        記事

          灯標/水平線

          桜鬼様主催のアンソロジー Portray に寄稿した作品です。  ――いってきます。と母に手を振ると、母は両手でこぶしを握って胸の前で下に振った。元気でね、と母音の発音が曖昧に掠れた声が言う。――お母さんもね。と返して玄関のドアを開けた。外は曇り空だった。じゃあね、と足を踏み出すと、母はすこしだけ寂しそうな顔をして微笑んだ。家の中が暖かかったからだろうか、スーツケースの持ち手がほのかに汗ばんだ。  住宅街を抜けてJRの駅に向かうまでは、高校時代から毎日たどっている道だ。駐車

          灯標/水平線

          (please)forgive - BUMP OF CHICKEN 曲考察

          (please)forgive / アルバム『RAY』より あなたを乗せた飛行機が あなたの行きたい場所まで どうかあまり揺れないで無事に着きますように  BUMPを聴いていると、「ああ、やられたな」と思うフレーズにときおり出会うのだけど、この曲の冒頭のこのフレーズを聴いたときは文字通り息が詰まった。わたしが、言葉を尽くして書きたいと思っていたことを、藤くんにワンフレーズで歌われた、と思った。  冒頭のフレーズが象徴する通り、(please)forgiveは「私」か

          (please)forgive - BUMP OF CHICKEN 曲考察

          Sirius

           翠ヶ崎に入学して、初めて他校という立場から櫻林の試合を見たとき、二年前までは毎日のように見ていた奴らの弓が、どこか知らない人間のもののように見えたことをよく覚えている。俺の知らない間に彼らが上達した、という当たり前の事実を差し引いてもだ。それは、離れたことによって客観的に見られるようになったからだとか、俺が翠ヶ崎のやつらに影響を受けてすこし感覚が変わったからだとか、いろいろ理由はあったのだろうし、たぶん、そう見えるほうが普通なのだろう。そんな中で、ひとりだけ、俺があの場所に

          Regulus

           潮が舞台の上で楽器が吹けなくなって、曲の頭のソロで音を止めて、そのまま動けなくなったあの日、先生や俺たちになにを言われても俯いて無言で首を振るしかできなかったあの日、胸のうちにあった感情がいまでも半分も言葉にならない。なんでだよ、説明しろよと思った。俺らが何日も何週間も苦労してきたことを、いままであんなに簡単そうにやっていたくせに。どうして今日に限って、と。そのあとに、ちょっとだけざまあみろと思った。なにをやらせてもだれよりも上手くて、そのくせ舞台の上以外ではいつもへらへら

          終章 きみがきみの行きつく場所へ - こぐま座アルファ星

          「優都?」  旅館の入り口に据えられた低い階段に腰掛けてどこか遠くを眺めている後ろ姿の名前を呼ぶと、優都はいきなり明るくなった視界に目を細めたまま振り返り、「あ、千尋か」と呟いたあとに安堵の笑みを浮かべた。比較的標高の高い長野の山の中では、真夏とはいえ夜は長袖がほしいくらいには肌寒い。周りに民家もない、電灯もない、月明かりだけに支えられた暗闇が、千尋のかざしたライトで一気に開けていく。「眩しい」と文句を言う優都から懐中電灯をすこし離し、彼の隣に歩み寄る。寝巻きの薄いTシャツ一

          終章 きみがきみの行きつく場所へ - こぐま座アルファ星

          第六章 - こぐま座アルファ星

           一月の騒動の直後、三日ほど学校に出て来なかった潮がやっと部活に顔を出したとき、まっさきに頭を下げたのは千尋だった。「ごめん、一方的に言いすぎた」と膝を折って潮の前で手をついた千尋に、潮は立ち呆けたまま目を丸くして、なんと返事をしようか迷ったように何度か言葉を飲み込んだ挙句、「千尋先輩のガチ土下座初めて見たんですけど」と言って笑った。 「一昨日集まったとき、森田と京に、さすがにあの言い方はないってぼこぼこにされてたぜ」 「え、なんすかその状況。激レアじゃねえすか、ちょっと見た

          第六章 - こぐま座アルファ星

          第五章 - こぐま座アルファ星

           合宿後すぐに開催された八月末の都個人大会で納得のいく成績が残せなかった優都は、櫻林での合同練習を経たその一ヶ月後、ぎりぎりで選抜資格を得た九月末の関東大会個人戦ではそれに輪をかけて調子が悪く、予選からほとんど中らずに準決勝に進出することすらできない状態だった。昨年、自身が都個人の優勝者として出場した同じ大会では彼は入賞こそ逃したものの決勝までは順当に勝ち上がっていたし、今年こそはという思いもあったはずだ。昨年に到底及ばない結果で脱落することになった優都に、千尋はかけられる言

          第五章 - こぐま座アルファ星

          第四章 - こぐま座アルファ星

          「森田、櫻林と合同練習する気ない?」  合宿後すぐに行われた個人戦の大会が終わって数週間後、練習終わりに部室で携帯を弄っていた雅哉が優都に声をかけた。着替え終わった直後の優都を彼は自分の元に呼び、携帯の画面を見せる。優都はそれを覗き込みながら何度か瞬きをして、え、と短く声を上げた。 「そうか、おまえ、松原のチームメイトだったんだもんな」 「あいつは中学のときからずば抜けて上手かったわ」  優都の口から出た名前にはかなりの聞き覚えがあったものの、京には咄嗟にその出所が思い浮かば

          第四章 - こぐま座アルファ星

          第三章 - こぐま座アルファ星

           合宿に向かうバスの中は中学三年間いつも憂鬱だった、と由岐は後ろに流れていく田んぼと畑の繰り返しを眺めながら思い返していた。もっとも、二十二人乗りのマイクロバスをひとりで二席占領できるこの部の人数は中学の頃の記憶にはそぐわない。後ろから二列目の窓際に座る由岐のちょうど反対側では拓斗が窓に寄りかかって眠り込んでいて、ひとつ前の列では潮と京がわざわざ隣同士に座って携帯のゲームに興じている。そのさらに前の席では、優都と雅哉も並んで座っていて、こちらはなにやら合宿についての話し合いを

          第三章 - こぐま座アルファ星

          第二章 - こぐま座アルファ星

           「おまえの体内時計はほんとうに六十進法か?」と呆れたように千尋が肩を竦めたとき、優都は何度か瞬きを繰り返したのち、心底驚いたと言いたげな表情で、「千尋、比喩とか言えたんだ」と言ってのけた。 「感性の欠片もないやつだと思ってたけど、やっぱり文系なんだな」 「うるせえ。なんならだいぶ字義通りの疑問だよ」  期末考査一週間前で部活がオフとなった土曜日の午後、一時を回ったころから千尋と机を並べてテスト勉強に励んでいた優都は、日が傾きだした午後五時前になってもなお、始めたばかりのころ

          第二章 - こぐま座アルファ星

          "ray" - BUMP OF CHICKEN 曲考察

          ray / アルバム『RAY』より  わたしはここ最近のBUMPの曲で、これほど、BUMPらしさを内に秘めたまま完成されている曲はないのではないかと思っている。BUMPの曲を聴いていると、かなり頻繁に、「ああBUMPだなあ」と思うことがあるのだけれど、それは彼らの他の曲を過去から現在にいたるまで聴き続けている人間の感想に過ぎないわけで、その感慨は、この一曲そのものが完成されているか、という観点からみたらほとんど意味を持たない。けれど「ray」は、その感慨を思い起こさせつつも

          "ray" - BUMP OF CHICKEN 曲考察

          BUMP OF CHICKENが唄う別離について

           BUMP OF CHICKENのなにがそんなに好きなのかと聞かれたら、「愛とか恋とか安易に言わないところ」と答えたい。言った相手がラブソング好きだったら怖いからあんまり言わないけど。もちろんBUMPにもラブソングがあるのは知っているけれど、わりと初期のラインナップに固まっているイメージもある。少なくとも、わたしがよく聴く「COSMONAUT」以降の曲には、わかりやすくラブソングだなあと思うものはないような気がしている。  別に、愛とか恋とかを歌うことがどうのこうの言いたいわ

          BUMP OF CHICKENが唄う別離について