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平凡な脇役・鈴木と佐藤に学ぶ、天才と肩を並べる「凡人の生存戦略」 『DAYS外伝』

すごい誰かとすごくない自分

Twitterを眺めていると、到底たどり着けない深みのある言葉に出会います。いったい何を食べたらこういう表現を生み出せるのかと、自分にがっかります。

同じ現象を見ているはずなのに、思いもよらない角度から鋭い考察を突き刺すひとを目の当たりにします。その発想の源泉はどこで育まれるのかと、自己嫌悪に陥ります。

43歳にもなると、「これだけ年上だったら仕方がないよね」という言い訳もできず、才能ある10代、20代の行動が目から脳に流れ、いままで何をしてきたのかと深く落ち込みます。

世の中にはどうしたって手の届かない才能があり、自分の凡人さ加減がつらいわけです。同じ時代に生きていながら生まれた差を嘆いても何も変わらないけど、いますぐに何かに取り組むわけでもありません。

すごい誰かを見て、すごくない自分に凹むことに慣れてしまった自分が自分でしんどいです。

なんとなくみんながみんなと同じ平面に立っているように見えてしまうインターネットの世界はなかなかつらいものがります。この世界で何者でもない自分を何度も突き付けられると、いまからここからどうしていいものか路頭に迷ってしまいます。

鈴木と佐藤という何者でもなかった2人の登場人物

DAYS』と言えば、誰もが「大好きなサッカー漫画トップ5」に選ぶのではないでしょうか。

バラエティー豊かな登場人物が、それぞれの個性を絡ませながら関係性とボールをつないでいきます。

ユーモアなシーンでは笑いをこらえることは不可避であり、ここぞというシーンでは涙を誘います。全国に名をとどろかすプレーヤーのキャラ設定も個性的でありながら、試合に勝つことへの貪欲さは共通しています。

そのなかでも異色の存在が鈴木英太と佐藤栄樹です。作中では名前をよく間違えられます。煌めくようなプレーをするわけでも、人間離れした特技を持つわけでもありません。

鈴木と佐藤は、目立たないけれども聖蹟高校では2年からレギュラーの座を射止めています。全国のトッププレーヤーは、鈴木と佐藤のプレーを見ると、彼らが聖蹟高校になくてはならない存在であることをすぐに見抜きます。

しかし、その視点はトッププレーヤーだからこそ持っているものであり、凡人が見ればレギュラーの一員の「よくある苗字のひと」くらいでしかありません。そのプレーは記録に残らず、そして記憶にも残りづらいものです。

DAYS』本編でも、凡人代表とも言える鈴木と佐藤の「非凡」なプレーは随所に解説されます。しかし、鈴木と佐藤という何者でもなかった二人が、作中で登場する前、彼らが1年生の頃からどのように成長してきたのかは、本編では出てきません。

だからこそ、僕が心からおすすめしたいのが『DAYS外伝』なのです。

知られざる”凡人”鈴木と佐藤の思考法

いまでこそ全国の猛者に評価される鈴木と佐藤ですが、聖蹟高校入学当初は凡人部員のひとりでしかありません。

中学時代、東京選抜で全国に名を示した(外伝では苦しい裏エピソードも)大柴喜一や君下敦が頭角を現すなか、チームに何の貢献もできないまま1年が終わります。

どしたらいい・・・? どうしたらこのチームでサッカーを続けられる? どうすれば聖蹟は勝てる・・・? どういう選手が聖蹟には必要だ・・・?

上級生の敗戦が決まった光景を応援席で見届けながら、2人が考えていたこと。この言葉こそが、鈴木と佐藤が常に意識する「問い」であり、凡人による生存戦略の基礎土台です

自分の存在意義と、勝利というチームのミッションを常に思考しながら、今やらなければならないことを着実に積み重ねていく。これを継続することこそが彼らが新体制に向けたチーム作りの頭で、レギュラー候補に名前を呼ばれた理由です。

ボランチ、鈴木、佐藤

監督の言葉に凡人は固まります。

まさか2年生が3年生を押しのけ、レギュラー候補として名前を呼ばれたわけです。

紅白戦が始まり、鈴木と佐藤は目立たないところで躍動します。自分たちにできることは何か。それは常に自分たちにはできないことは何かという苦しい思考作業を続けたからこそたどり着ける境地です。

スタープレーヤーは単独では輝けません。11人で戦うサッカーという流動性の高いスポーツは、刻一刻と状況が変わるビジネスに似ています。ひとりのスタープレーヤーで勝利を、全国を勝ち抜くことなどできません。

自分がスタープレーヤーにはなれないことを自覚し、ではチームの勝利のために自分たちは何をすべきか的確に判断し、実行し続けることが鈴木、佐藤が手にした戦略です。

努力が全部掛け算で実力になっていく。でも普通はあんな速度で成長しねえ。俺たちは足し算だ。毎日毎日少しずつ積み上げるしかねえ

地味でつまらない発想かもしれません。しかし、監督や先輩、エリートたちはわかってしまうんです。

鈴木と佐藤の存在がどれだけ重要であり、チームの勝利に必要か。

現実世界と同じく、『DAYS外伝』にはそれぞれの登場人物の過去や本編では描かれない葛藤、苦悩を知り得ることができます。

周囲からは天才やエリートと呼ばれていても、その裏では強い葛藤や挫折があること。凡人であっても、凡人だからこその戦い方があること。他者を勝手なイメージで見るのではなく深く知ることの大切さを『DAYS外伝』は教えてくれる1冊です。

WRITTEN by 工藤 啓
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