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いくえみ綾が描くダメ男のダメな日常と少し渋めのファンタジーに、人生の機微を見た『おやすみカラスまた来てね。』

【レビュアー/こやま淳子

いくえみ綾作品の機微は、男性にわかるのか?

いくえみ綾先生の漫画が好きだ。私のなかでは、くらもちふさこ先生と並ぶ「ザ・キング・オブ・少女漫画」。なんて書くと、議論を呼びそうなのだが、その理由のひとつは「私は大好きだけど、男性には薦めづらい」というところもある。

例えば、よく少女漫画の代表のような扱われ方をする『ガラスの仮面』などは、実は男性にも理解しやすいスポ根文脈で描かれているし、一条ゆかり先生の恋愛漫画なんかも、けっこう万人にわかりやすいのではないかと思う。

けれどいくえみ作品というのは、ものすごく繊細な日常のリアリティーや心の機微が描かれているので、わかんない人には全くわかんないだろうなーと思っていたのである。

しかしこの『おやすみカラスまた来てね。』は、いくえみ作品なのに、青年漫画なのである。ビッグコミックスなのである。そして中身もちゃんと青年漫画ナイズされている。

ダメ男のダメな日常と少し渋めのファンタジー

主人公はけっこうなダメ男で、なのにいろいろと不思議なことがあって、オーセンティックなバーを譲り受けることになる。この主人公のダメっぷりが非常に青年誌的なのだ。

元カノに心を残しながらも、一緒にバーをキリモリする女子や他店のバーテンダー女子との未来を予感させつつ、しかしちゃんとしょーもないふわふわした感じの花屋の美女にフラフラっとなる(女性目線で言うと「結局この手の女に行くんかい!」ってやつね)。

けれど、そこはそれ、その美女のしょーもなさに結局傷つけられたりしていく意地悪なストーリー展開は、ちゃんといくえみワールドだったりする。

物語は、そうしたダメ男の恋の日常を描きながら、亡くなってしまったバーの元マスターと、その娘のストーリーがゆっくりと流れていく。

全員がいい人でも悪い人でもなく、どこまでも等身大な登場人物たちのちょっぴりドロドロした日常と、少し渋めのファンタジーが錯綜して、なんだか切なく美しく読めてしまう。そう、人生って、こんな感じ。そんな風に身体中に沁み入ってきて気づいたら中毒化していくところは、まさにいくえみ作品の真骨頂だ。

そうか、このおもしろさは、女性向け漫画じゃなくても成り立つのか。いやそんなふうにジェンダーを決めつけない時代になっているということなのか。いずれにしてもいくえみ作品を読む機会が増えることは、シンプルに嬉しい。この作品をガチで読んでいる男性と、そのうち語ってみたいものである。


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