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説明できない話で自滅の予感。ーー秋の月、風の夜(68)

「なぞってつなぐ」は本来、ご先祖さまたちがエサに抵抗されないように、意識と動きの自律性をうばってしまうものだ。距離のある二つの個体が、まるでアメーバが細胞膜おかまいなしにくっついて連動するような、原始的で単純なもっていきかたをする。
エサを支配するその技を、寒い冬の夜に逃げ疲れていた奈々瀬が動けるようにと、四郎が奈々瀬に使ってくれたため、人を助けるのにも転用できるとわかった経緯がある。

「ねえ、ごめんなさい。触れてくれたのはいいけど、なぜ気もちが悪いのか、やっぱりよくわからない。男の人をなぞってつなぐのは、まっぴらごめんです、って言いたいのはわかってるんだけど……してみてくれない?」
――え、なぞってつながなあかんの?
四郎が、かなり後ろ向きな声を出す。

――こっちでやろうか
――奥の人ちょっと待ってくれ、俺がいやや。
話がややこしくなってきた。(あちゃあ、だめね)と思った奈々瀬は、なんとか、高橋の気配をうかがってみた。コンディションの悪さはわかるが、原因はわからない。
「ええと……じゃあ、なぞらないで。話で説明して。ご先祖さまの何をどうしていたの、さっき」
――それが……

四郎がつっかえつっかえ、テーマを避けて絶望的な説明をしだした。話の内容を大きく省略しながらコンパクトに伝える作業に不慣れで、説明が難しい。

しかも、よりによって相手が奈々瀬。
奈々瀬が相手だと自分が疲れるという話も、ご先祖さまたちと「奥の人」の趣味嗜好が危なすぎてアレがナニできない話も、絶対内緒にしたい当の本人だ。

助けを求める電話をかけたのは画期的だったが、そもそも四郎には、背景をぼかしておく見通しがなかった。
反対に、見通しとダイジェストがあるていど練習できて、話しづらいことは話しづらいと伝えられさえすれば、すでに話ベタは脱出していると言っていい。

しかたなく奈々瀬が、途中でさえぎった。
「ごめんね四郎、私に話しにくい話なのに、しかもキライな電話で、相談してくれてありがとう。いくつか、私から聞くね」
――うん。
「ええと、ゴールは何だったの?」



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マガジン:小説「秋の月、風の夜」
もくろみ・目次・登場人物紹介

「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!