【レビュー】『土俵の取り合い』~第38節ファジアーノ岡山VSモンテディオ山形~

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 前節アウェイで甲府に勝ち、8試合負けなし&16試合連続複数失点なしと好調の岡山が、昇格には勝つしかない山形をホームに迎える。両チームが各々の目標を達成するべく勝利を目指した一戦は、土俵の取り合いとなった。

スタメン

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制限からボール奪取、岡山の土俵で進んだ前半15分

 ショートパスを繋いでゴールを目指す、いわゆるポゼッションを志向する山形のサッカー。これに対して、岡山はひるむことなく、主体的な守備を実践していく。2トップが相手DFラインにプレスをかけて、パスコースを制限すると、それに続き中盤の選手が横にスライドして、ボールを奪いきる。2トップのプレスでボールの奪い所を設定して、そこに対して全員が連動してプレッシャーをかける。自慢の守備が機能した。ボールの奪い所は主にサイド。特に左SH徳元の強度の高い守備や、パウリーニョの奪いきる守備でキックオフから山形に主導権を渡さない。

 主導権を渡さない主体的な守備は、相手がボールを持っているときだけではない。攻撃をしているときも、良い守備をするために必要な準備をしていた。それは、DFラインを押し上げて、前から後ろの全体の選手間の距離をコンパクトにすること。攻撃から守備に切り替わる瞬間に、選手間の距離をさらにグッと縮めて、囲い込んで奪うことができる。相手やボールに対して素早く密集を作りやすいのだ。

 コンパクトな陣形を保った状態で、相手の攻撃に備えていたたことと、ボールへの反応や切り替えの部分で高い集中力を持ってプレーできていたことによって、セカンドボールを回収。相手のカウンターを受けるリスクを減らしながら、二次攻撃の機会を伺いながら、主導権を握れていた。これが前半序盤に、山形陣内でのプレーが多かった理由で、岡山の土俵で戦えていた要因だ。


前と後ろを分断させる山形のボール運び

 かなり強い圧を受けていた山形は、岡山のプレスに追い込まれながらも、丁寧なビルドアップでゴールまでボールを運ぶ姿勢を貫く。序盤こそ、岡山のコンパクトな陣形と鋭い出足の前に、インターセプトされたり、ノッキングされたりと、ハーフウェイラインを越えるのに苦労していた。

 しかし、山形は立ち位置で岡山のプレスを剝がしにかかる。山形のフォーメーションは守備時こそ[4-4-2]であるが、攻撃時は[4-3-3-]に変化していた。2トップの一角を務める山田が左斜めに下りて、ボランチの藤田と南と共に中盤を3人で形成。SHをWGの位置まで押し上げて、最前線にヴィニシウスを置く。

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選手の立ち位置の変化(beforeと過程)

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選手の立ち位置の変化(after)

 このように山形が[4-4-2]から[4-3-3]に変化したことで、土俵を取り返していき、パスを連続して繋ぎ、ゴール前に侵入。11分にヴィニシウスのシュート、熊本のシュートと立て続けにビッグチャンスを作った。この2つのチャンスこそ、セットプレーの流れからではあったが、セットプレーを得るということはボールを運んで前進したということ。岡山の先制パンチのような強烈なプレッシャーにこそ苦戦したものの、自分たちの強みを発揮して攻め込む時間を作っていった。

山形の土俵が続いた2つの要因

 少し受ける時間を長くしてしまった岡山。捕まえきれていたのに、なぜ掻い潜られてしまったのか。その時間が長くなってしまったのか。それは、山形のフォーメーション変化に起因する。前述したように、山形の3トップ化した前線が、かなり高い位置(岡山のゴール方向)にポジションを取ってきた。すると、岡山のDFラインは押し上げることができず、良い時間帯にできていたコンパクトな陣形を作りにくくなってしまう。また、WGがサイドの高い位置を取るため、SBが前に出ていくような守備ができずに、SHが孤立気味で守備を行う時間が増えてしまった。サイドの縦の2人組が良い距離感と、コンビネーションでボールを奪いに行くという強みを消されしまったのだ。山形のWGのような立ち位置で岡山のSBを前に行かせない、その場に留まらせる。自分へのマークに専念させることを「ピン止め」という。

 また、最前線からスペースに下る山田を捕まえきれなかったのも要因のひとつ。岡山は人とボールを見ながら、守るべきスペースを考えて立ち位置を決める守備を行うのだが、下りる山田を捕まえきれなかった。2トップはCBに、SHはSBに、というようにハメていくと、中盤で2対3の数的不利が生まれる。この中央のエリアでの数的不利を解消すべく、SHが絞って加勢したかったが、中央に絞ると、対面のSBが空いてくる。空いたSBにはSBを押し上げて対応したいが、WBによってピン止めされて行けない。

 前と後ろを分断しながら、空いた中央のスペースを有効活用する山形の洗練された立ち位置と、プレッシャーを苦にしないボールスキル。これによって、山形の攻める時間が増えて、山形の土俵で試合は進んでいった。

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選手の個性と連動性がMIXした決勝点

 ボールを握られ、攻め込まれる時間が続いた岡山だったが、最後の局面で身体を張ったシュートブロックやGK梅田のファインセーブにより、失点を許さない。粘り強い守備で反撃の隙を伺う。

 すると、43分。山形のボール保持が続いた展開。ヴィニシウスがスルーした斜めのボールを河野がインターセプトすると、パウリーニョとつないで、ボールは安部へ。相手が少し近い位置にいても、全く慌てない背番号22は、正確な左足で右サイドに展開。山形が右サイドに人を集めて、攻めていたため、ボールを受けた石毛はフリー。安部のサイドチェンジで局面をひっくり返した。手薄な右サイドの石毛から、サイドの裏に抜ける山本にスルーパス。広大なスペースでレシーブした山本、顔が上がっている。マークを引きつけながら中を確認。パス&ムーブで、石毛が相手の前に入り、再びボールを受けると、安部→石毛のサイドチェンジから全速力で前に走り出していた白井が、DFラインの裏に抜け出す。石毛から走る白井へスルーパス。白井がゴール前に折り返す。ボールはデュークには合わなかったが、後ろから飛び込んできた石毛が足を懸命に伸ばして、押し込んだ。先制。試合を先に動かしたのは、攻め込まれる時間が続いた岡山だった。

 ボールを奪ってから、わずか1分間の出来事。安部のサイドチェンジで局面を打開し、石毛から山本のパスで相手を押し下げ、白井の飛び出しで急所を突き、石毛が仕留める。岡山の選手が誰ひとりとして足を止めることなく、ゴールに向かって走った。前への推進力。『今がチャンスだ!』と言わんばかりの、白井の60mフルスプリント。パスを出したら終わりではない、石毛の途切れることない連続性。周りを見て、ゴールを決めるために最適な選択をした山本選手の献身でクレバーなプレー。選手の強みが存分に発揮され、そこに連動性が合わさった素晴らしいゴールだった。

 守備の時間は苦しい。それがより長く続くと、なおさら。20分以上攻められる時間が続いたが、自分たちの守備に自信があるからこそ、その時間を苦にしない。耐えれば、かならずチャンスがやってくる。それを信じて、虎視眈々と反撃の機会を伺っていたのだろう。いざ、チャンスが来ると、迷いがなく、一瞬にして山形ゴールを陥れてしまった。

『今日も前半は押し込まれる時間があったんですけど、山形さんに対してシュートは9本対9本。持たれている時間はおそらく長かったと思うんですけど、それでも自分たちがどう攻めてどう守るかというベースを持っているからこそ、何をすれば最後に勝点3に近づくのかを持てている。それが今の強みだと思っています。』(有馬監督)


選手を入れ替えながら手にした勝利と自信

 前半終了間際に先制に成功して折り返す。今のチーム状況を考えると、理想的な展開。後半は、2点目を狙うべく矢印を前に向けた。山形のビルドアップに対しても、SBの正面を防ぐようにSHが出ていき、中央をボランチで締める。なるべく外に追い込むような守備で守り続けた。

 92分に、ゴール前で絶体絶命のピンチを迎えたが、粘り強い対応を見せて、勝点3への強い執着で失点を許さなかった。

 また、1点を守り切る[5-4-1]へのシフトは90分から行われ、いつもよりも遅かった。長い時間4バックで戦い抜いた狙いは、加戸英佳さんが試合後のインタビューで聞いてくれていた。

ーー長い時間4バックで戦い抜いた狙いは?
[4-4-2]でも2トップから規制を欠ければ、出所を抑えることができていた。あえて、変えないことを選手たちは理解してプレーしてくれた。最後は長いボールが増えるから、苦しい時間をまとめてくれる濱田を入れて5バックにした。

 この試合も5人の交代枠を使い切り、ウノゼロ勝利。12ゴールの”エース”上門を欠いて臨んだ一戦だったが、自分たちのやるべきことを貫き、勝点3を獲得。出場する選手が変わりながら、全員で勝ち取った勝利は、自分たちのサッカーは間違っていない、積み上げてきたものが成果として表れている証拠だと、自信を深めるものになった。今のメンバーと一緒に戦えるのも残り4試合。未曾有のウイルスに見舞われ、前代未聞の降格4という波乱万丈のシーズンではあったが、良いシーズンだったと振り返るものにするために、残りの試合を勝ち続ける。京都、長崎と上位陣との対戦も残しているが、この2連勝は上位陣相手に得たもの。良い守備から良い攻撃へ。これを貫き、連勝を伸ばしたい。そして、その先に一桁順位があることを願っている。 


お知らせ

エル・ゴラッソの番記者をされている寺田弘幸さんにプレー解説をしてもらいました。

岡山の堅守たる所以が垣間見える記事となっています。

DAZNの細かい秒数を記載しているので、お手元のデバイスでピックアップしたシーンを見ながら、試合を振り返っていただければ幸いです。


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