【レビュー】『“うまくいかない”がジャブのように…』~第34節ヴァンフォーレ甲府vsファジアーノ岡山~

試合結果

2024 J2 第34節
10/5 14:00K.O. @JITリサイクルインクスタジアム
甲府(3-1)岡山
56分 アダイウトン
58分 アダイウトン
73分 飯田貴敬
78分 田上大地

雨が上がり涼しい風が吹く中、甲府と岡山の戦いが幕を開けた。立ち上がりはホームチームが自陣からの丁寧なビルドアップと相手陣内での積極的な飛び出しで、主体的に時計の針を進めていく。岡山の3トップによるプレスに対して、左WB荒木翔が低い位置を取ることで4バック化し、数的優位の状態で横幅を目一杯使ってパスを回す。そしてダブルボランチの中山陸と佐藤和弘が段差をつくってボールをピックアップし、3トップが表と裏を使い分けてゴールに向かった。

アウェイチームはプレスの掛け方が定まらず、シャドーとボランチの間でうまく起点をつくられて自陣で守る時間が続く。しかし、全員で素早く戻り、危険なエリアを埋めて我慢強く対応。鈴木喜丈が三平のミドルシュートを体でブロックし、本山遥がアダイウトンにドリブル突破を許さなかった。

岡山が前節・長崎戦の勝利を最大化させる2連勝をつかむには、ゴールが不可欠。ルカオがサイドに流れながらのパスレシーブで押し返し、ダブルボランチを中心に鋭い切り替えから即時奪回を仕掛けて、相手陣内でのプレーを徐々に増やす。ただ、重心の低い[5-4-1]を崩すことは難しく、24分には阿部海大が体を外に向けながら中央へ縦パスを刺し込んで相手の逆を突き、ボールを受けた早川隼平が切れ込んで左足を振るも、相手DFにブロックされる。その直後、攻め残っていた三平を起点にカウンターを仕掛けられそうになったが、竹内涼が素早いプレスバックで潰した。

流動的な甲府のパスワークの前にファーストプレスが決まらず、サイドからクロスがたくさん入ってきて、3バックの脇を頻繁に突かれる中、田上大地、阿部、鈴木が要所を抑えた守備対応を続けて無失点で前半が終了した。

0‐0で迎えた後半は、岡山が神谷優太を投入してスタート。キックオフすると、背番号33がゴールへ向かう意志を強く打ち出した。右サイドに少し落ちて相手ブロックの表で起点をつくり、パス&ムーブからクロスを入れた。48分には本山、竹内、阿部、ルカオとつなぎ、中央を切り崩して神谷がシュートを放つ。しかし、相手DFに防がれた。

後半は岡山が巻き返すのか。期待感のある入り方をしたが、先手を取ったのは甲府だった。GKスベンド・ブローダーセンのロングキックが相手に渡ると、アダイウトンの強烈なシュートが突き刺さる。ファーに体を向けてからニアを射抜くパワフルショットを、岡山の守護神は止めることができなかった。失点直後に全員で集まって意思疎通を図ったが、その2分後に追加点を許す。アダイウトンに自陣でボールを奪われると、そのままGKとの1対1を冷静に流し込まれてしまった。岡山サポーターの声がこだましていたJITリサイクルインクスタジアムだったが、この連続得点で一気に甲府サポーターの手拍子と声援が大きくなり、ピッチを包み込んだ。

2点を追いかける岡山は64分に高木友也と太田龍之介を投入。攻撃時には右WBに右利きの末吉塁が回り、左WBに左利きの高木が入り、ルカオと太田が2トップを構成する。

前線にターゲットを増やして反発したかったが、2得点で覚醒したアダイウトンを止められない。72分、広大なスペースでボールを持ったブラジル籍ドリブラーは自分への警戒度をフル活用する仕掛けからゴール前へパス。これを味方がつなぎ、最後は右WB飯田貴敬がネットを揺らした。

3点差になっても、岡山の戦士たちは意気消沈しなかった。79分、神谷のCKを田上がドンピシャのヘディングシュートで合わせて1点を返した。

雨が降る中、アウェイ席からはチームを信じる声が鳴りやまない。82分には途中出場木村太哉が相手とぶつかりながらボールを前に運び、神谷がPA内から左足を振り抜くも、GKの好守に阻まれた。87分には太田の左足シュートがDFに当たり、高木のゴール右スミを捉えたミドルシュートは防がれた。最後までゴールを目指し続けたが、これ以上リードを縮めることはできず。甲府の地から悔しさを持ち返ることになった。

前節のような戦いを期待していた。激しく球際を戦い、自分たちのスタイルを堂々と表現し、相手のウィークポイントを突く。情熱さと冷静さを両立させて勝利をつかみ取る姿を、この目で見たかったし、その瞬間に立ち会いたかった。だから、東京から電車とバスを乗り継ぎ、2時間半以上をかけて甲府に来た。

しかし、そんな思惑が消し飛んでしまうくらい、ピッチ上でうまくいかなかった。相手陣内でのプレーを増やすための生命線であるプレッシングが、構造的にハマらなかった。相手が低い位置での横幅を使ったボール回しと、単騎突破力のあるアダイウトンが前線に張ってきたことで、陣形を縦に引きのばされてコンパクトさを保つことをさせてもらえなかった。

苦しい時にしっかりと耐えて、勝ち筋を最後までつなげることができれば良かったし、それができていた前半だった。だから神谷の投入で出力の上がった後半の入りは、期待感が膨らんだ。それでも、うまくいかない時間が長く続いたことを忘れることはできなかった。それがジャブのようにチームの心を消耗させていたのだろう。普通では考えにくいミスが起こって失点を招いたし、それが連続してしまった。サッカーというスポーツの難しさ、一筋縄ではいかないところを痛感させられた一戦だった。

ただ、下を向いてはいけないし、選手も次に向けて切り替えようとしている。失点後は円陣を組んでコミュニケーションを取っていたし、試合後の表情から生気は消えていなかった。それぞれが自分の目で、耳で、心で、最後まで声援を送り続けてくれたサポーターと向き合っていたし、今日の結果を受け止めていたと思う。

たしかに、この現実は痛い。それでも目の前の結果から逃げず、3位でシーズンをフィニッシュすることだけを考えて、残り4試合を戦っていく。その熱を、僕は監督会見とミックスゾーンでの選手取材時に感じた。

2週間後、もう一度シティライトスタジアムで立ち上がろう。いつもより長い準備期間を丁寧に使い、再起をかける一戦に向けて入念な準備をするしかない。


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