【レビュー】『確かな手応え』~第19節ファジアーノ岡山 VS FC琉球~

全文無料公開。面白いと感じていただけたら、投げ銭150円やスキ、RTやいいねをよろしくお願いいたします。

スタメン

画像1

ファジアーノ岡山
・フォーメーションは4-4-2。
・清水エスパルスから育成型期限付き移籍で加入したGK梅田透吾がリーグデビュー。
・そのほかのメンバー変更は無し。
・ベンチにDF濱田水輝が帰ってきた。

FC琉球
・フォーメーションは4-4-2。
・負傷離脱のMF池田廉に代わり、古巣対戦となるFW清水慎太郎がスタメン入り
・昨季まで岡山でプレーしていたFW赤嶺真吾もベンチ入り。


ボランチを下げずにビルドアップできる理由

 キックオフ直後こそ相手陣内へロングボールを蹴って、そこから圧力をかけていく両チーム。少し時計の針が進むと、ボールを持って、パスを繋いで攻撃を組み立てていきたいという互いの意志が最終ラインのビルドアップからハッキリと感じ取ることができた。

 岡山は2CBと2ボランチで四角形を作りながら、琉球の2トップをいなしていく。SBに預けて横の揺さぶりを入れ、空いたMF白井永地やMF喜山康平に相手のFW-MF間でターンを促す縦パスをDF安部崇士が入れる。ボランチがCBの間に下りずに、円滑にビルドアップできていた。

 ボランチが高い位置でプレーできるのはDF安部とDF宮崎智彦の存在が大きいだろう。この日も鋭い縦パスをブロックの間に差込んだDF安部。内側に入ったMF徳元悠平へのスイッチを入れるようなパスはプレス回避だけでなく、相手をひっくり返し、チャンスを作っていた。

 DF宮崎の落ち着きはサイドバックのそれではない。足下の技術に絶対的な自信を持ち、プレーをギリギリで止めて違うプレー選択を行うキャンセル力に優れている。背番号11がしっかりと相手をサイドで引きつけることで、縦へのパスコースが空いていたように思う。

 ボランチが下りた時は、もう1人のボランチとサイドハーフが絞って、縦パスの受け手にもなっていた。MF徳元がMF喜山の脇でボールを触るシーンは顕著で、縦パスを引き取れる選手の確保もビルドアップの手詰まり感を感じなかった要因なのかもしれない。

 最終ラインから落ち着いて組み立てることができたため、良い形で縦パスを入れるシーンを多く作った。攻撃をするための良い準備ができた試合だったと言える。


厚みのあるサイド攻撃からのゴール

 42分、前述したようにMF白井永地がCB間に下りたことで、ボランチの位置でパスを受けたMF徳元からMF上門知樹へ縦パス。再三にわたり厳しいマークに遭っていたMF上里一将の背後で受けたMF上門はドリブルでDF沼田圭悟を引きつけて、サイドに展開。タイミング抜群なオーバーラップをかけたDF廣木雄磨が1タッチでクロスを送る。このクロスはFW川本梨誉に合わないものの、勢い良く突っ込んできたMF宮崎幾笑が詰めるが、これもポストに当たり入らない。しかし、ボールはMF上門の目の前に転がる。これを背番号14が右足を豪快に振り抜き、先制に成功した。古巣相手に成長した姿を見せる、強い気持ちが感じられる思い切りの良いシュートだった。

 2試合連続ゴールとなったMF上門。MF徳元からの縦パスを受けてサイドに展開、チャンスを作るだけでなく、得点を取る位置に入っていったからこそ、ボールがこぼれてきた。そして、ボランチの背後でボールを引き出した。最前線で起用されることでゴールへの貪欲さが芽生え、相手の嫌がるポジショニングを掴んでいる証拠だろう。

 得点者こそMF上門だが、ボックス内でクロスに対して厚みを作れたことは非常に大きかった。ゴール前でクロスを待つのは2トップだけということが多かった岡山。どうにかしてクロスを待つ選手を+1にしたいと悩まされていた。だからこそ、逆サイドのSHが入ってくることで解決策になっていくのだろうと思っていた。しかし、DF廣木のクロスに反応したのは同サイドの右SH、MF宮崎(幾)だった。

 MF宮崎(幾)が斜めに、ゴール方向に入っていくことで、DF廣木がオーバーラップしてクロスを上げるスペースを作り、自分自身がクロスを合わせるフィニッシャーにもなった。厚みをつくったボックス内への侵入を次節以降もどんどん見たい。


5-4-1で締め直す守備

 53分にDF濱田水輝を投入し、システムを5バックに。バイタルエリアを斜めのパスで使われたり、FW阿部拓馬にCBを釣り出されてFW清水慎太郎に抜け出されるなど、中央を崩しにかかる琉球の攻撃に守備の対応が遅れ始める。そこで、有馬賢二監督はCBを3枚置いて中央を物理的に固めた。

縦パスの受け手としてCBを釣り出そうとするFW阿部にDF濱田がガツンと当たり、後ろを2人でカバー。高さも加えて、絶対にゴールを許さない。気迫を感じる守備ブロックを築き上げた。

 後ろを5枚気味にしたことで、ボランチが思い切って前に出ていくようにプレスをかけに行く。FW上門とMF徳元がしっかりとプレスバックをすることで、SB(WB)と連携して相手のボール回しを外に外に追い出していた。

 先制後の5-4-1ブロックは怪我人の復帰もあり、強度と練度が増した印象。先にゴールさえ奪えれば、5-4-1で守れるという自信は着実に高まっている。勝ちパターンと呼べる日も、そう遠くはない。


狙い通りの追加点

 後ろを5枚にしても守り重視のシステムではないのが、有馬監督の5-4-1に好感が持てるところ。システム変更が53分に行われたため、守り切るには長すぎる時間が残っていた。岡山が目標に掲げた60得点を達成するためには、複数得点が必要になる。2021シーズンは42試合を戦うため、1試合で1.4点を取れないと目標には届かない。先制すれば相手はゴールを奪うためにより前がかりになり、カウンターが刺さりやすくなる。また、守備よりも攻撃に比重をかけるため、ゴールを奪うスキは大きくなる。

 欲しかった追加点、複数得点。MF白井永地とMF木村太哉が突き刺した2つのゴールは、まさに相手のスキを突くものだった。

 59分に、FW川本が相手スローインの流れからDF知念哲矢に右足でプレーさせるようなプレスで右奥でボール奪取。ゴール前でボールを失い、奪い返すのに必死なDF知念を、あざ笑うかのように冷静なFW川本はマイナス方向にパス。コントロールしたMF白井も冷静に目の前の相手をキックフェイントでかわして、鮮やかなシュートをGKが反応できないニアハイに突き刺した。

 83分には、相手ゴール方向に流れたゴールキックのこぼれ球をFW上門とFW川本でキープ。パス交換で崩しにかかるも、相手に引っ掛かるが、MF上門が拾って、MF白井へ預ける。MF白井が顔を上げて中央を見た瞬間、途中出場のMF木村太哉が一気にギアを上げて斜めに走ってパスを呼び込む動き出しをスタート。引き出したMF白井のパスをメインスタンド方向にターンするフェイントをかけて、逆に反転。長所であるクイックネスとアジリティ、ゴール前での落ち着きで相手を剥がしながらターンして、倒れ込みながら振り抜いたシュートはGK猪瀬康介の手を弾き、ゴールネットを揺らした。

 ゴールを奪うために前がかりになった相手の攻撃を粘り強い強固な守備で凌ぎつつ、出し抜くように相手を突き放す追加点。目標の60得点にはまだまだ遠いが、ホームで試合巧者ぶりを演じ、3-0で勝利。前節に続き、上位陣から勝利して2連勝。本当にうれしい勝利になったし、次節のこれまた上位の京都戦への期待が高まるばかりだ。


充実のリーグ戦デビューを飾った梅田透吾

 水曜日の天皇杯、東京V戦でベールを脱いだGK梅田透吾がリーグ戦デビューを飾った。ゴールマウスを守り続け来たGK金山隼樹の調子は決して悪くはなかった。しかし、背番号13をベンチに座らせて、若いGK梅田を抜擢。有馬賢の決断は簡単なものではなかったはず。そんな指揮官の期待にクリーンシートで応えた。

 天皇杯でのプレーは見れず、J1でのプレーも数試合しか見たことがなかった。ファジの選手としてプレーするのを見たのは政田での練習見学のみ。どんなプレーを見せてくれるのかという期待感だけでなく、初めてのJ2の試合で相手はシュートが上手いFW阿部を擁する琉球ということで、一抹の不安は正直あった。ただ、試合が始まるとそんな不安は全く必要ないものになる。

 15分に完全に抜け出されたFW清水のシュートを横っ飛びで脇下を使って防ぎ、後半にはMF風間の至近距離からのシュートもブロック。琉球の決定的なチャンスをことごとく防いだ。チームの勝敗を分けるセービングを連発し、自分の持っている能力を余すことなく発揮。リーグ戦初出場ということを感じさせない冷静な対応を見せる。

 幾度となくピンチを防いだ落ち着きはビルドアップからも感じた。矢のようなロングフィードや局面を変えるような縦パスを入れたりはしない。派手さはないが、GK梅田の堅実なビルドアップは最後尾から安定感を与えた。GK梅田の止める・繋ぐ能力はチームメイトから大きな信頼を得ているのだろう。CBの間でボールを受けて、反対方向のCBに繋ぐような方向転換の役割も見せた。GK梅田が一番後ろからビルドアップに参加することで、ボランチが下りることが減り、縦パスの受け手を確保できる。特に、4バック時に重心を後ろに下げ過ぎることなく長い時間プレーできたことは良い収穫だった。

 直接的な要因ではないかもしれないが、後半の2得点はGK梅田のゴールキックで相手陣内深い位置でのスローインになり、そこからボールを奪ったり。ゴールキックのこぼれ球を高い位置でキープしたりとGK梅田のロングキックがきっかけになっているとも言えなくはない。右サイドに人数を集めて、岡山の選手が多いポイントにロングボールを正確に蹴る。このような技術も垣間見えた。

 堂々のリーグデビューを飾ったGK梅田の活躍を称えながら、今後激化するだろうGK金山との守護神争いが楽しみでならない。良い競争は良い刺激を生む。チームとしても、GK梅田個人にとっても、すごく良い試合になった。



ここから先は

0字

¥ 150

読んでいただきありがとうございます。 頂いたサポート資金は遠征費や制作費、勉強費に充てさせていただきます!