【レビュー】『エモーショナルなラストマッチ』~第42節ファジアーノ岡山VSジェフユナイテッド千葉~
スタメン
キックのフィーリングを高めた田口の右足から生まれた2点
試合の入りこそ岡山がシュートを打ち、ゴールへの姿勢を見せた。守備では高い集中力を保ち、入ってくるボールに対して、強くアプローチできていた。流れの中から千葉に決定機を許さなかった。
しかし、試合が進むにつれて両チームのファウルが多くなり、セットプレーが増えていく。この日のファウルは千葉が18回、岡山が14回。岡山が犯した14回のファウルのうち、自陣でのファウルが増えてしまったため、千葉にフリーキックでのチャンスをたくさん与えてしまった。フリーキックだけでなくコーナーキックのキッカーを務める田口がセットプレーのボールを蹴る場面が増え、次第にキックのフィーリングが合っていく。
13分のフリーキックは無回転で枠を捉えるシュートを狙い、33分にはハンドになったものの、コーナーキックで鈴木が反らして見木が押し込むというチャンスも演出した。
すると、44分。右サイドでのフリーキック。ゴール前の危険なエリアに入れた田口のボールは、一度こぼれるが、拾った末吉が右足一閃。人に当たりコースが変わったシュートは、GK梅田の手をすり抜けてゴールネットを揺らした。『セットプレーの練習から、尹さんからふかすなと言われていた』としっかり抑えられた移籍後初ゴールは練習の賜物だったようだ。
先制して折り返した千葉は、後半開始早々の48分。サウダーニャと福満が右サイドから岡山のブロックを広げて、中央に入ってきた田口がファウルを獲得。フリーキックのチャンス。キッカーの田口が巧みな駆け引きから、ゴール左にシュート。重心移動でやや遅れたGK梅田だったが、懸命に腕を伸ばして弾いた。こぼれ球を拾った高橋がシュート。ゴールカバーに入っていた徳元がライン上でクリアするものの、ボールは櫻川に当たり、再びゴールに向かってくる。これを倒れ込みながらまたしても徳元がヘディングで掻き出すが、櫻川が押し込んで2点目。岡山の執念のディフェンスを押しのけて、追加点を奪うことに成功した。
岡山としては、今シーズンが最後の指揮となった有馬監督へ、契約満了となる選手たちへ、最終戦に集まってくれたサポーターのため、勝利で終えたいという強い想いが空回りしてしまったのか。自陣で与えた多くのファウルが、田口のキックのフィーリングを合わせてしまい、2度にわたりゴールを演出されてしまった。
リードするチームの理想的な点の取り方
62分、さらに試合が動く。岡山が左サイド深い位置でのスローイン。宮崎智と石毛と繋いでゴール前への侵入を試みたが、ボールを中心に人を集めた堅い千葉のディフェンスの前に、ボールを失ってしまう。ボールを奪った福満はクリアせずに周りを確認して、縦パス。前線から落ちてきた櫻川が、力強くぶつかってきた安部のタックルにびくともせず、ボールをキープして前線へ。追い越したサウダーニャがパウリーニョの前に身体を入れながら反転。入れ替わるとゴールに向かって突き進む。中央に持ち込むと、左足でミドルシュート。GK梅田の決死のセーブに遭うが、後ろから駆け上がってきた末吉がボールを拾ってゴール前に折り返し。これに見木が落ち着いて合わせて、千葉が3点目を奪った。
鮮やかなカウンター。ボールを奪った圧縮守備、味方の攻め上がる時間を作った櫻川の力強いキープ、相手を突破してシュートまで持っていったサウダーニャの個人技、足を止めることなくゴール前に駆け上がってゴールネットを揺らした末吉と見木の推進力。2点リードという状況で、反撃を狙う相手をひっくり返すようなカウンターで仕留めきる力強さと、誰も迷うことなくゴールに向かう徹底した意思統一。まずはリードすることが大前提ではあるが、カウンターは得点数を増やせるチームに必要な攻撃手段。お手本のような素晴らしいカウンターで3点目が奪える千葉のチーム作りはさすがの一言だ。岡山も見習いたい。
強すぎた反撃への想い
しかし、防げなかったことに悔しさが残る。奪った後に、すぐに奪い返す。岡山が積み上げてきた切り替えの部分だ。前半は素早い切り替えで起点を潰したり、マイボールにするなどができていた。失点シーンはボールを奪ったあと、近くに選手はいたものの、足が止まってしまった。2点のリードを許した焦りからか、早く1点を返さないといけないという想いからか、戻らずに攻め残ってしまう形になってしまった。
好機と見て、前に出て行く千葉の推進力が勝り、岡山が前に人数をかけていたため多くの選手が置いていかれる。安部が櫻川のところで遅らせたかった、パウリーニョがサウダーニャを止めたかったが、それはできず。カウンターのカウンターに備えていたような岡山の前線の選手にボールが渡ることはなかった。あれだけ広いスぺースで数的不利を作られたら、防ぐことは難しい。反撃への強い想いが裏目に出てしまったように感じる3点目となってしまった。
選手交代でココロヒトツニ
3失点目の直後に濱田と木村を投入して、フォーメーションを[3-4-2-1]に変更。かみ合わせで生じていたズレを同じフォーメーションにすることで修正しながら、櫻川のパワーに腕章を巻いた濱田をぶつけ、木村の突破力で左サイドを攻略したいという意図の采配だったのだろう。
85分には、キープしたデュークのスルーパスに抜け出した木村のクロスを、飛び込んだ河野が合わせるがジャストミートせず。ボールは枠を超えた。
反撃への姿勢を強める岡山は88分。さらに2枚替え。有馬監督は廣木と、今シーズンで契約満了を迎えるGK椎名をピッチに送る。『椎名は当然ずっと練習の中でも、エリートリーグの中でも、結果を出してくれていたんで、他のGKも当然良い競争はしてくれている中で、最後追わなきゃいけない状況だったんで、チームを鼓舞できる水輝(濱田)だったり、椎名だったり、チームを支えてきたメンバーを入れることで、最後までファイティングポーズを取りに行きながら、ゴールを取りに行こうってことでは、最後は椎名が入ってさらにゴールに向かって行ってくれたと思います』と有馬監督も試合後のインタビューで振り返ったように、岡山が最後まで諦めない姿勢を貫く。
スタジアムのボルテージは一気に高まり、手拍子や拍手も大きくなった。椎名がファジアーノの選手として戦う最後の試合のピッチに立ち、チームを鼓舞する声がCスタに轟く。チームに関わるすべての人たちの想いがひとつになった。
諦めない姿勢が実った意地のゴール
このままでは終われない、前に向かって行くんだ、ゴールを奪うんだ。選手、スタジアムに集まったファン・サポーター、DAZNで応援するファン・サポーター、ファジアーノ岡山に関わるすべての人の諦めない、ひたむきな想いが実を結ぶ。
90分、左サイドでのスローイン。両チームの選手がヘディングで競り合う。足を止めることなくボールに反応した石毛が拾うと、ボールはヨンジェへ。相手と1対1になった背番号9は小さくフェイクを入れて、中央へ切れ込み、右足を振り抜いた。有馬監督に感謝するヨンジェの想い、最後尾で吠えるGK椎名の想い、最後までチームを信じるサポーターの想いがボールに乗り移り、一矢報いる反撃弾。意地を見せて、1点を返すことができた。
この1点では満足しないのがファジアーノ岡山というクラブのDNA。93分には、石毛のロングパスをヨンジェが落とし、攻め上がってきた井上が放ったシュートは惜しくもブロックに遭う。ボールはラインを割って、試合は最終局面。ラストプレーとなるコーナーキックへ。GK椎名も上がり、全員でもう1点を狙う。石毛がボールをゴール前に蹴り込む。GK椎名とGK新井が競り合う。その後ろで安部がヘディングシュート。しっかりと叩きつけられたボールはピッチに強くバウンドし、クロスバーを叩く。跳ね返ったボールはGK椎名のもとへ転がるものの、押し込めず。背番号1があわやゴールを決めそうになるというドラマティックな展開を最後に試合は終了。1-3で負けたこと、それぞれの最後の試合を勝利で飾ることは叶わなかったことは本当に悔しいが、ファジアーノを愛する人たちには笑顔があった。好調ぶりを見せてリーグ後半戦を盛り上げた両チームに惜しみない拍手が送られた。激動の2021シーズンを戦ったすべてのみなさんへ、本当にお疲れ様でした。
椎名一馬が送る13年間のありがとう
試合終了後、今シーズン限りで13年間在籍したファジアーノ岡山を退団する椎名一馬のスピーチでホーム最終戦セレモニーが始まった。以下にスピーチの全文を記す。
13年間、試合に出れない時間の方が多かったけど、政田には椎名がいる。声を張り上げて、練習を引き締める椎名がいる。最年長の椎名が声を張り上がて、人一倍、一生懸命にトレーニングに取り組むことで、一緒に練習するGKの尻を叩いた。岡山がGK育成大国と言われるのは、椎名の存在が本当に大きかったはず。『椎名さんがあんなに頑張っているから、頑張らないといけない、頑張るしかない』これが全てだと思う。スピーチにあるように、試合に出れない時間が長く、つらい思いをしていたのに、逃げることなく、自分と向き合い、チームの力になりたい一心でトレーニングに励み、チームを支えてくれて本当にありがとう。来年以降、政田のピッチには、チームには椎名一馬はいない。だけど、私たちの心の中にはずっといる。忘れてはいけない功労者。真のプロフェッショナル、13年間本当にありがとう。
愛で溢れた有馬監督のラストマッチ
3年にわたる有馬体制は幕を閉じた。最後に勝利できなかったけど、後半戦の12試合負けなしの好調ぶりは私たちの心を熱くしたし、来年への期待を膨らませた。積み上げてきたものがピッチに表れる。まいた種が芽を出す。そんな戦いだった。来年も有馬監督のもとで、このメンバーと、このサッカーを。2021シーズンの終わりが近づくにつれて良い時間を過ごせたため、大きな寂しさがある。しかし、来年は有馬監督の姿をCスタで見ることはできない。正真正銘のラストマッチだった。
いつもファン・サポーターへの感謝の気持ちを忘れない。絶対にインタビューで、自分の声で、伝えてくれる。選手たちの成長を思う熱い指導。試合後のインタビューでは、『ちょっと待ってください』とサポーターへの感謝のメッセージを伝えるくらい本当に愛に溢れた監督だった。
最後の試合後インタビューでも有馬監督の愛を感じた。
インタビュアーの加戸英佳さんも涙をこらえながらのインタビューだった。それだけ色んな人に愛されて、色んな人に愛を分け与える。こんなに愛されて、惜しまれて、退任する監督はいるのだろうか。それくらい素晴らしい人柄で、監督として先頭に立ち、チームを引っ張ってくれた。
1年目の2019年は9位。2年目の2020年は降格なしというレギュレーションのなかで、疫病に苦しみながら17位。3年目の2021シーズンは、前半戦こそけが人に悩まされたり、勝点を掴みきれなかったりと順位を上げることができなかったが、後半戦はわずか2敗。12試合負けなしや3連勝など好調ぶりを見せ、尻上がりに順位を上げて、11位でフィニッシュした。
クラブが目指すJ1昇格にはまだまだ届かない数字だが、有馬監督が積み上げたものは、ピッチ内外に関わらずたくさんあった。まだまだ寂しさは癒えないが、3年間、苦しいときも、つらいときも、嬉しいときも、楽しいときも、どんなときも、一緒に戦えたことに感謝を送りたい。本当にありがとうございました。
ここから先は
¥ 150
読んでいただきありがとうございます。 頂いたサポート資金は遠征費や制作費、勉強費に充てさせていただきます!