【レビュー】『厚みをもたらす新たな形』~第26節ファジアーノ岡山VS大宮アルディージャ~

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スタメン

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マッチレポート

SB河野のJ2ゴールを守り切った岡山が今季初のホーム2連勝

 前節ともに引き分けて迎えた両チーム。岡山は3試合連続同じメンバーで、大宮は前節スタメンだった石川に代えて三門を起用して臨んだ。降格圏から脱したい大宮が球際で強さを出して試合に入ると、岡山は思うように前線にボールを運べない。岡山がデュークを狙ったラフなボール以外前進する手段を見出せずにいると、大宮がボールを保持することで徐々にペースを握る。大宮は最前線の河田を起点にしながら、大外に張る選手と内側に入る選手を配置。SBとSHの選手が入れ替わるように立ち位置を変えて、岡山の守備を翻ろうする。両足を遜色なく扱うことができる馬渡が崩しの中心となり、右サイドからのクロスやサイドチェンジでゴール前に迫るものの、決定的なシーンを作れない。

 やや受け身になっていた岡山だったが、飲水タイム明けからゴールに迫るシーンを増やす。26分、サイドの裏に走り込むデュークが白井のパスを受けると、相手の意表を突くヒールパス。これを受けた上門のドリブルはタイトなマークに遭い、シュートを打つまでには至らなかった。しかし、チャンスを作ったデュークの視野の広さとアイディアはスタジアムを大いに沸かせた。32分。パウリーニョ、徳元と繋いだボールは左サイドを駆け上がった宮崎智へ。相手のプレスが弱かったことでゴール前の状況を把握する余裕があった宮崎智は相手のいないファーサイドへ正確なクロスを送る。右SB河野が走り込んだ勢いそのままに放ったヘディングシュートがゴールネットを揺らし、先制に成功。河野はうれしいJ2初ゴール。岡山がこれまでに先制した9試合の戦績は8勝0分1敗。今季勝つためには必要不可欠とも言える先制点をきめて前半が終了した。

 リードした岡山は後半の頭から濱田を投入。[3-4-2-1]でひとりひとりの横スライドの距離を短くし、それぞれのマークを明確化。ボールを奪う位置を前ではなく、ある程度低い位置に設定して、相手が使いたいスペースを消しに行く。しかし、2シャドーが中途半端に前に出てしまい、背後を起点に作られて、大宮の前進を制限しきれない。

 そんな大宮が後半開始早々にビッグチャンスを作る。48分、黒川のパスを受けた河田が井上の寄せをブロックしながら交わしてシュート。左足でのシュートはゴールネットを揺らしたが、判定はファウル。河田が井上を倒したとしてゴールは認められなかった。すると、大宮は53分に古巣対戦となる中野を、63分にはイバ、80分に菊地を投入。攻撃的な選手をピッチに次々と送り出し、後半中盤以降は[3-1-4-2]にシステムを変えてさらに攻勢を強める。67分、小気味よくパスを繋いで左サイドに展開。途中出場の小島の縦パスをイバが落とし、切り込んだ中野がシュート。GK梅田が弾いたボールを河田が押し込み、再びネットを揺らしたが、またもや判定はノーゴール。河田にファウルがあったという判定に納得がいかない大宮はベンチ総出で審判に詰め寄るも、判定は変わらず。納得のいかない2度の判定の当事者となった河田は悔しさ爆発。

 岡山は濱田のコーチングなどによりゴール前での守備を引き締め、カウンターで試合を決定づける追加点を狙いに行くが、チャンスらしいチャンスを作れず。74分に、左サイドで常人離れした身のこなしでキープしたデュークから、木村がドリブルでゴール前へ進入。走り込む齊藤へのループパスが合わなかったのが最もゴールに迫ったシーンだっただろう。

 試合は1-0で終了。前半のリードを守り切った岡山がうれしいホーム2連勝を達成した。一方の大宮にはツキがなかった。6試合白星から遠ざかり、残留に向けてなかなか上昇気流に乗れない状況が続く。


コラム

クロスへの厚みをもたらすSB to SB

 ホーム2連勝を手繰り寄せる貴重な先制点を奪ったのはSBの河野諒祐。その得点をアシストしたのは同じくSBの宮崎智彦だった。SBのクロスをSBが決める。今までの岡山にはない形による得点だ。

 SBを高い位置に押し上げる、これは有馬監督がずっと継続してきた戦術のひとつ。今季のホーム開幕戦となった第2節金沢戦でも、徳元悠平のクロスを河野が合わせるなど、SBが上げたクロスをゴール前に飛び込んだ逆サイドのSBが合わせる形が見れる試合はあった。ただ、なかなか得点には結びつかず、試合数を重ねるごとに画期的で大胆な攻撃は影を潜めていた。SBにはビルドアップで相手のプレスをかわす”出口”という役割を飛び越えることはないのか。序盤に試しただけで終わるのか。攻撃に特徴のある選手を配置しているだけに、得点に絡む積極的なプレーを見たい気持ちが募っていた。

 そんな鬱憤を晴らすように、この試合では特に右の河野が積極的にボックス内へ飛び込んでいく。32分の得点シーンは言わずもがな。30分には徳元が蹴ったクロスのこぼれ球をゴール前で詰めていた。大宮のクロス対応がボールウォッチャーになることが多く、大外は空きやすいという隙を突く河野のゴールを目指した攻め上がりが功を奏した。

 ミッチェル・デュークという絶対的なターゲットを手に入れた岡山はこれからクロスが増えていくだろう。高さと強さ、ゴールの感覚を備えるデュークへの期待は高まるが、それと同時にデュークへのマークは強くなる。クロスを得点に結びつけるためには、中の枚数を増やすことが鍵になる。後ろからSBが飛び込む。『意外とヘディングが強い』『シュートを決めた場所に入っていくのが持ち味』と言う河野だけでなくSBで起用された選手がどんどんボックス内に飛び込んでいくことが、ゴール前の厚みを増す手段のひとつになりそうだ。


ウォーミングアップから感じたプロフェッショナル

 ファンクラブデーだったこの試合では、抽選に当選したファンクラブ会員がウォーミングアップをピッチレベルから見学することができる”ウォーミングアップ見学”を開催。当選した筆者は高校在学時のボールパーソン以来となるCスタのピッチに足を踏み入れた。GKの2人が先にピッチに入りアップを始め、その数分後にFPの選手がピッチに入る。FPが一列になり、数メートル先でスタンドのファンや見学者たちにあいさつをして、ウォーミングアップが始まった。笑顔であいさつを終えた選手の列が解き放たれるや否や、選手たちは真剣な顔立ちに切り替わった。そして、チームを盛り上げる声が色々な角度から聞こえてくる。キャプテンの濱田やムードメーカーの徳元、24節山口戦で熱いコメントを残した安部が雰声を出し、それに呼応するように周りの選手が声を出す。ピッチレベルだからこそ聞こえる声。ボールを蹴る・止めるなどのひとつ一つの動作から生じる音。スタンドで観ていた時には感じることができないものがワクワクさせる。ホームでファンやサポーターに勝利を届けたい。生きづらさを感じるご時世を一瞬でも忘れるくらいの喜びを分かち合いたい。笑顔でファンサービスをする部分と試合に集中して準備をする部分の切り替えが作る空気はプロフェッショナルに満ち溢れていた。普段味わうことができないプロフェッショナルを体感できたウォーミングアップ見学は心躍る素晴らしいもの。そんな貴重な体験をさせていただいたファジアーノ岡山の関係者の方に感謝したい。



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