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雷の“ゴロゴロ”音は,何の音?

もはや夏の風物詩になったゲリラ豪雨。今日も今日とて,突如大雨に晒された関東圏では,いたるところで雷鳴が轟いていた。

雷が「ピカッ」と光ってから,「ゴロゴロ」という音が聞こえるまでの時間を数え,どれくらい離れた場所に落雷があったのかを計算する嫌な子供だった私だが,これほど落雷が頻発すると,さすがに少し怖いと思ってしまった。

ゴロゴロという雷鳴と共にやってくる,あの独特の大気の震えが,なんとも言えない恐怖心を煽ってくるのだ。

そもそも,落雷は,雲の中に蓄えられた電気が地面へと流れる,ただの放電現象のはずだ(“ただの”というのは語弊があるかも・・・)。なぜ,電気が流れるだけで,あれほど不気味な音が轟くのだろうか?

超高エネルギーの電流で,空気が大爆発する!?

そもそも雷の原因は,「積乱雲」の中にある,無数の小さな氷の粒だ。積乱雲の中には,強烈な上昇気流が吹いている。そのため,内部にある氷の粒は,上昇気流に乗って,たがいに衝突しながら上空へと舞い上がっていく。

実はこのとき,静電気が蓄積される要領で,小さい氷の粒はプラスの電気を,そして,大きい氷の粒はマイナスの電気を帯びるのだ。

大きな氷の粒は,小さな氷の粒にくらべて重たい。そのため,上昇気流に乗っても,雲の上層までは達しない。つまり,積乱雲の中では,小さく軽い氷の粒が上層に,大きく重い氷の粒が下層に分布し,結果的に雲の上層にはプラスの電気を帯びた氷の粒が,雲の下層にはマイナスの電気を帯びた氷の粒が,それぞれ偏って存在することになる。

雲の下層にマイナスの電気を帯びた氷の粒が偏って存在すると,その電気にひきづられるように,雲の下にある地面には,プラスの電気が引き寄せられる。こうして,雲の下層と地面の間には,大きな「電圧差」が生じることになるのだ。

空気は,基本的に電気を通さない「絶縁体」だ。

しかし,いかに電気を通さないといっても,限度がある。そう,無数の氷の粒によって電気が蓄積され,非常に大きな電圧がかかってしまうと,空気の絶縁状態が“破壊”され,巨大な電流が流れることがある。

これがいわゆる,「落雷(対地放電)」である。

また,雲の中や,雲と雲の間などでも,同じように電流が流れることがある。これを「雲放電」という。

放電時には,一瞬のうちに大気を構成するさまざまな分子に含まれる電子が,エネルギーを受け取ったり,そのエネルギーを光として放出したりしている。これが,いわゆる「稲妻」として,私たちの目に見えているのだ。

そしてこのとき,積乱雲に蓄積されていた大量のエネルギーを得た空気は,その温度を急上昇させ,一気に膨張する。膨張した空気は,周囲の空気をさらに圧縮しながら進んでいく。この過程で,「衝撃波」が発生する。

実は,この衝撃波が光から遅れて私たちの耳に届くときに,雷特有のあの“ゴロゴロ”音として聞こえているのだ。

衝撃波は,落雷があった地点から離れれば離れるほど,周辺にある建物などの影響を受けて“形”を変えていく。自分のすぐ近くで落雷があった場合には,“ゴロゴロ”という音を聞く間も無く,爆発音が生じるのはそのためだ。

雷鳴が轟くたび,空気が震えるのは,実際に衝撃波という形を伴っているからだったのだ。

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ちなみに,2017年11月には,雷に関する面白い研究成果が発表された。

これは,京都大学白眉センターで特定准教授を勤めている,榎戸輝揚博士らの研究成果だ。

直接お話を伺ったわけではないので(めっちゃ話を聞きに行きたい),詳細は割愛するが,要するに,雷の雲の中で,「反粒子」の一つである「陽電子」が発生していたことを確かめたというのだ。

反粒子とは,簡単に言うと,いわゆる普通の物質を構成するさまざまな粒子と同じ質量を持つ“そっくり”な粒子でありながらも,電気的な性質が反対になっているものだ。

反粒子によってつくられた物質のことを,「反物質」という。

この世界は,いわゆる普通の物質でできている。しかし,高エネルギーの環境では,稀に反粒子が出現することがあるのだ。反粒子は,普通の粒子と衝突すると消滅してしまう(対消滅)。そのため,この世界に安定して存在し続けることは非常に難しい。

反物質の代表格とも言える「陽電子」は,アニメ,新世紀エヴァンゲリオンで有名なヤシマ作戦でも登場している。

日本全国から電力をかき集めて,主人公のシンジくんがぶっ放した「ポジトロンライフル」は,まさに陽電子を用いた兵器だ(仕組みは知らない)。

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雷というごくごく身近な現象一つとっても,まだまだ不思議なことはたくさんある。

連日のゲリラ豪雨と落雷に,ほとほと困り果てている人も多いだろうが,そんな時は,雷の不思議に注目してみると少しは気が紛れるかもしれない。


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