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第六章 ムカつくやつ(村上葵)(17)

「すごーい、村上さんトップだって?」
 翌週の育成テストが終わったあと、三輪さんがやってきた。
「育成テストだし、今回はたまたまよかっただけだから」
「いままではその『たまたま』もなかったのよ。宮田君でもなく、蓮君でもなく、村上さんだなんて、快挙よ」
 隣にいた白石さんも嬉しそうに微笑んだ。
「同じ女子として嬉しいよね。なんだか私も力をもらったみたい」
 二人が言ってくれるのを聞きながら、私は転塾して本当によかったと、心から思った。
「やっぱり村上さんはすごいよね」
 蓮がこちらを向いてニコニコしながら、そう言った。
「宮田君、僕たちの強烈なライバル出現だね」
 隣にいた宮田君も苦笑しながら「そうだね」と言った。
 三輪さんが蓮と私を交互に見てから言った。
「なんかさあ、蓮君ってさあ、村上さんにやたらと絡むよね。いままでは宮田君、宮田君だったくせに、ちょこちょこ村上さんとの会話に入ってくるよね」
「え、えっ? そんなこと……」
 三輪さんが蓮の顔をじろじろと見つめた。
「まさか、蓮君……」
 蓮がうろたえたような表情をした。
「な、なに?」
「あなた、村上さんのこと好きなんでしょ?」
「えっ?」
 蓮はみるみるうちに真っ赤な顔になった。
「やっぱり、図星だ」
 三輪さんが決めつけるように言うと、白石さんが楽しそうに笑った。つられて隣にいる宮田君も愉快そうに笑った。
「ひどいじゃない、蓮君。私っていう彼女がいるのに」
 三輪さんの言葉に、蓮はますます狼狽した。
「ぼ、僕は三輪さんと、つ、付き合ってなんか、ないよ」
「ひどい、蓮君」
 三輪さんが顔を押さえて泣きまねをした。
「ああ、三輪さん……」
 あまりにも蓮があわてふためくので、面白くなって私も言った。
「駄目じゃない、蓮君。大切な彼女の三輪さんを泣かせたら」
「はい、蓮君。秒で姫にフラれた」
 後ろから江藤の声がした。
「あのねえ、みんなで僕をからかうのはやめてよ」
 蓮が泣きそうな声を出すと、教室中が笑いに包まれた。
 きっと塾が問題なんじゃない。そこにいる人たちが重要なんだ。そして私の入った日進研のこの教場は、素敵だと思う。
 そう思ったときに、先生が入ってきて、春のさわやかな風が吹いてきた。

(了)



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