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第八章 学力は四年生で決まる?(山浦駿)(11)

「で、山浦は偏差値50以上取らなくちゃいけなくなったのか?」
 翌週、塾に行ったとき、浜名君と清原君に家での一件を話したら、しばらく黙って聞いていた浜名君がそう呟いた。
「うん」
「だったら簡単じゃねえか。おまえいま偏差値いくつくらいだっけ?」
「45くらいだけど」
「じゃあ、あと5上げればいいってことだな」
「そんな簡単に言っちゃってさ……」
「なに言ってんだよ。あと5だったら、ワンチャンなんとかなるぜ」
「本当に?」
 浜名君はいつもとは違って真面目な顔をした。
「俺は簡単に言ってるわけじゃねえ。できると思ってるから言ってんだよ」
「浜名君にそう言ってもらえると、なんか心強いよ」
「バーカ、おまえがいまから鬼勉やるんだよ。俺たちも付き合ってやるから、覚悟しろ。な、清原」
 清原君が頷いてから、優しく言った。
「山浦君、一緒に頑張ろう。僕もわからないところがあったら、教えてあげるよ」
「よし、決まりだ」
 浜名君の言葉を合図に、僕らは公開模試に向けて、勉強の特訓を始めた。

 翌日から僕は次回の公開模試でいい点数を取るため、学校が終わったらすぐに塾に行って、浜名君と清原君と一緒に勉強するようになった。
 勉強を始める前、浜名君は切れ長の目を光らせて僕に言った。
「いいか、山浦。次の公開模試で偏差値を5上げるんだったら、きちんと戦略を立てなきゃならないんだ」
「戦略って、なに?」
「もちろん受験に向けて、自分の実力を上げていくのは長期的には重要だ。だが、今回の場合は短期決戦だ。実力を上げるのはもちろんだけど、ほかにも大切なことがある」
 僕は目をしばたたいた。
「それってどんなこと?」
 浜名君はにたりと笑った。
「ミスをしないことだ」
 あまりに当たり前の答えに、僕はひどくがっかりした。
「そんなこと?」
 浜名君が僕の表情を見咎めた。
「あっ、おまえ、当たり前のことだって顔をしたな?」
 あまりに図星だったので、僕はたじたじとなった。
「い、いや……そんなわけじゃ……」
「おまえ、テストで結果が出たら、いつもなにしてる?」
「な、なにって……点数と偏差値を見てるよ」
「そのあとは?」
「間違った問題を見て、正しい答えを確認してる」
「そのあとは?」
「そのあとって……まだすることあるの?」
「これからが大切なんだよ。前回の公開模試、まだネットにあんだろ。それを印刷して明日持ってこい」
「えー、点数や偏差値も?」
「それじゃねえよ。解答用紙だよ。印刷できるんだろ?」
「まあ」
「じゃあ、明日それを全部持ってこい」
「わかった」
 浜名君がなにをしようとしているのかはわからなかったけど、とても熱心な浜名君の様子に押されて、思わず僕は頷いた。

(続く)




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