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第八章 学力は四年生で決まる?(山浦駿)(5)

 その日、塾から帰ってくると、パパとママがまた言い争いをしていた。しかもいつもはママに言い負かされるパパが一歩も引こうとしていない。
「だから言っただろ。SNSに塾の先生が書いてあったんだって。子供の学力は四年生で決まるって。だから、塾の甘言に騙されちゃ駄目だって」
「あなた、その書き込みをした人に会ったことがあるの?」
「SNSだからあるわけないだろ。でも、フォロワーが十万人もいるアカウントなんだぜ。言ってることが嘘なら、そんなにフォロワーが増えるわけないだろ」
 どうやらパパは中学受験のSNSを覗き込みに行って、その主張を見かけたらしい。
「他の人はなんて言ってたの?」
「反論してるやつはいたさ。そんなことがわかるわけがないって言ってた。しかしだな、反論してる人間はほとんどが中受生の父親か母親のどちらかだ。つまり、その塾講師が言ってることを信じたくないのさ」
 そう言うと、パパは得意げにママの顔を見やった。
「で、あなたはなにがいいたいわけ?」
「駿を見ろよ。四年生のときには偏差値45くらい。そして六年生になったいまも偏差値は45をうろうろしてるだろ。つまりなにも変わっていないというわけだ」
 なんだかパパは僕の成績がちっとも上がらないのを喜んでいるように見える。僕は非難めいた表情を作ってパパを睨んだ。
 パパはそんな僕の心境にはいっさい関心がないようで、得意げにママを見つめていた。
「で、駿の成績がこのままだから、なんだって言うの?」
 ママはわかっていてあえてとぼけているようだった。
「決まってるじゃないか。これ以上塾に通わせたって、駿の成績はこれ以上上がらないってことだ。だったら無駄な努力をして偏差値50にも満たないような中学を受験させても、金の無駄遣いだろ」
「あなたはネットの情報を妄信するの?」
「別に妄信はしてないさ。ネットのやり取りを見て、俺が出した結論さ。どう見ても、その塾講師に分があったようだったからな。つまり、俺たちの子じゃ、この先も大して勉強はできないってことさ。だったら無駄な努力をするんじゃなくて、お金は有意義に使おうじゃないか」
 ママは冷ややかな目でパパを見つめた。
「キャバクラに使うってこと?」
 パパは顔をしかめた。
「嫌味を言うなよ。二十万円あったら、かなり豪勢な旅行ができるじゃないか。百歩譲って塾はやめなくていい。ただ、夏期講習はボリ過ぎだって言ってんだよ。俺ら完全に塾にとって、いいお客さんになってんじゃん。ある程度自分の限界を知ることは、無駄な努力をしなくてよくなるってことだ。目を覚まそうぜ」
 それからパパは僕のほうを見た。
「な? 駿も毎日毎日勉強で、いい加減嫌気が差してるだろ。これで夏休みまで塾だったら、たまらないよな?」
 たしかに僕だって、塾の宿題に追われる日々はいやだし、できる人たちに能力の違いを見せつけられて、落ち込むのはいやだ。でも、このままだったら、僕の人生なんて先が見えているじゃないか。
「僕は……」

(続く)



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