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第八章 学力は四年生で決まる?(山浦駿)(4)

 翌日、学校が終わってから、僕は塾に行った。
 宿題は結局間に合わなかった。六年生になって、宿題は増え、期日までに間に合わないことがほとんどになった。あんな量を一週間以内で解いてくるって方がおかしいと思えるくらいの量だ。
 それでも日進研は宿題が少ないくらいで、シグマに通っている同じクラスの嶋田君なんて、僕よりずっとできるのに宿題に追われている。話を聞いたら、日進研より宿題の量が多いらしい。よくあんな塾に通っていられるなと思う。
 今日みたいに宿題をできない日が続くと、きっと次回の懇談会で、ママが寺内先生から注意される。そうなったら少し厄介だ。僕は少しでも宿題をやっておこうと、「栄冠の翼」とノートを開いた。
「山浦君、今日は早いね」
 頭の上で声がしたので、見上げると、清原君が立っていた。塾で一番身長が高く、太っていて体重も重い。昔は単なる肥満児としか見えなかったのに、最近では心なしか少しほっそりした気がする。清原君は僕のノートを不思議そうに覗き込んだ。
「なにをやってるの?」
 彼なんて、万年ビリだったくせに、浜名君が転塾して以来、二人して成績を伸ばし、いまや偏差値は50以上、順位も教場内で10番以内に入るようになっている。寺内先生も二人にはすごく期待しているみたいで、応用クラスまであと一息って、だれかが言っていた。どうして清原君はこんなに成績を伸ばしているのに、僕はずっとこのままなんだろう。
「宿題が全然終わらないから、せめてできるところまでやって提出しようと思ってんだよ」
 清原君は苦笑しながら頷いた。
「たしかに宿題の量、すごく多くなったしね」
 僕は清原君に聞いてみた。
「清原君は宿題終わったの?」
「うん。このあいだ浜名君と一緒に終わらせたよ」
「あんなにたくさんの宿題を?」
「うん。一気にやると大変だから、時間のあるときに少しでもできるように工夫してやってるんだ。寺内先生もそう言ってたよね」
 たしかに六年生になって宿題が増えたとき、寺内先生はそう言っていた。
「そりゃそうだけどさ、時間のあるときなんて、なかなか作れないものさ」
 僕が言い訳のように言うと、清原君は頷いた。
「そうだね。だから浜名君と一緒に宮田君にどうしてるかって聞いてみたんだ」
 宮田くんなんて、偏差値70以上の宇宙人じゃないか。
「宮田君に? あんなできる人に聞いたって参考にならないよ」
 山浦君は僕の言葉に頷いた。
「僕も最初は思ったよ。でもね、浜名君が言うには、宮田君ができるようになるには、できるようになった原因があるんだって。だから、その宮田君の行動を聞いて、真似すればいいって言うんだよ」
「で、聞いたら、どうだったの?」
「宮田君は実に時間の使い方がうまかったよ。電車に乗っているときとか、食事前の十分とか、そういう少し時間が空いたときをうまく活用していた。一問でも二問でも解けるだけ解いておくんだって。そうすれば、一気に問題をやらなくて済むから、宿題も間に合わすことができるって」
「ふうん」
「宮田君は『最初の五分』って言ってた。どんなに疲れているときでも、とりあえず五分だけやってみよう。それできつかったらやめるし、まだまだ元気なら続ければいいって。そしていままでに、最初の五分をクリアして、本当に五分で終わらせたことなんてないんだって。だから最初の五分が大切だって言ってた」
「それで君と浜名君もそのやり方を真似したってこと?」
「うん、そうだよ。最初は半信半疑だったけど、偏差値70超えの宮田君が言うならって、真似したんだ」
 やっぱり勉強ができる人間ってのは、どこか違う。浜名君も清原君も、僕と違って勉強ができるべくしてできる人なんだ。そうでなければ、宮田君の行動なんて真似しようと思わないはずさ。だってレベルが違うじゃないか。
 なんだか、清原君に僕との格の違いを見せつけられたような気がして、なんとも惨めな気持ちになった。

(続く)



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