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第一章 ライバルの秘密(吉本蓮)(7)

 翌朝僕が目を覚ますと、宮田君は机に向かっていた。時刻を見ると六時半だった。
「宮田君早いね」
「いつもこの時間に起きてるからね。なんだか癖になっちゃって」
「もう勉強?」
「うん、朝の計算と漢字だよ。僕も始めたばっかりだから、蓮君も一緒にやろうよ」
 休日くらいゆっくり眠りたかったけど、宮田君に誘われたんじゃ、断るわけにもいかない。僕はベッドから起きだして、バッグを取り、計算と漢字のテキストを机の上に広げた。
「どっちが速くできるか競争したら面白いかもね」
「よし、やろう」
 計算は宮田君のほうが速かった。僕も計算には自信があったけど、宮田君にはなかなか勝てない。
「七時半から朝食だから、それまで昨日できなかった問題だけをもう一回やっておくよ」
「まだ勉強するの?」
「うん、僕は今日九時からサッカーの練習があるんだ。だからいまのうちにやれるところをやっておかないとね」
 宮田君は大した努力家だ。僕はつくづくそう思った。
 宮田君の勉強がやっと終わって、僕らはリビングに向かった。
「いつもはね。リビングで勉強するんだけど、昨日は蓮君が来るから、特別なお客様用の部屋を二人で占有できたんだよ」
 宮田君は歩きながらそう言った。
 リビングダイニングでは宮田君のお母さんが早々と起きて朝食の準備をしていた。
 テーブルに並べられていた料理を見て、僕はげんなりした。
 僕の嫌いな野菜ばかりだ。スクランブルエッグには嫌いなケチャップが乗っているし、僕はソーセージも嫌いだ。それに野菜ジュースがコップに注いである。野菜が苦手な僕が最も近づきたくない飲み物だ。
 宮田君は席に着くなりその野菜ジュースを一気に飲み干した。見ているだけで、僕は気分が悪くなった。
 お母さんは宮田君に言い聞かせるように言った。
「あなたの嫌いなブロッコリーもあるけど、ちゃんと食べなきゃだめよ」
「わかってるよ。ママ。でも蓮君の分がないけど、どうして?」
 宮田君、僕の分なんていいよ。どれもこれも僕が食べられないものばかりなんだから。
 宮田君のお母さんが宮田君に似た少しいたずらっぽい顔で笑った。
「蓮君はねえ、お母さんにちゃんと聞いておいたわよ」
 そう言って、コーンフレークの袋を見せた。僕の大好物のコーンフレークだ。
「蓮君はこれにオートミールを混ぜて、豆乳を入れて食べるのが好きなんでしょ?」
「は、はい。そうなんです」
 声が弾んでいるのが自分でもわかった。助かった。
 隣で宮田君が苦笑した。
「蓮君、ずるい、って言おうとしたけど、コーンフレークなら僕のほうがいいや」
 とりあえず僕は朝食で嫌いなものを食べさせられずにほっとした。
 食事が終わると、宮田君は僕に言った。
「今日はいまからサッカーの練習があるんだ。僕の練習のあいだ、蓮君はどうする? 練習は一時間だけど」
「面白そうだから、宮田君の練習でも見てるよ」
 それから僕たちは近くのグラウンド場に向かった。ほどなくしてグラウンドに着いた。
 知らない子が宮田君に尊敬のまなざしを向ける。
「宮田君おはよう。このあいだのシュート凄かったね」
 それから後ろにいる僕を見て訊ねた。
「あれ? その人は? 新メンバー?」
 無遠慮な視線に、僕は意味もなく緊張した。
「町田君、違うよ。僕の友達。練習を見たいんだって」
 スポーツが得意な人に対して、僕はどうしても引け目を感じてしまう。知らない子が去ったあと、僕はほっとした。
 やがてサッカーの練習が始まった。
 サッカーを知らない僕でも、宮田君が他の子達とレベルが違うことはすぐにわかった。宮田君がボールをさばいている姿は、本当にほれぼれするくらいカッコよかった。なにより、ボールを追っている宮田君は楽しそうで生き生きしていた。
 でも、僕はちょっと落ち込み始めていた。こんなになんでもできる宮田君に僕ごときが勝てるわけなんてないじゃないか。僕は真剣にそう思い始めていた。
 着替えが終わった宮田君が、僕の元に戻ってきた。
「いまから、一緒に塾で自習しない?」
 一瞬僕は自分の耳を疑った。え? 自習だって。
「なんの自習をするの?」
「今週やったところだよ。できなかった問題をやったあと、もう一度教科書を読みながら、ノートを作りたいんだ」
 ここまで勉強しておいて、宮田君はまだやるのかと、なかばあきれ、なかば感心した。

(続く)


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