第八章 学力は四年生で決まる?(山浦駿)(10)
パパの顔色が明らかに変わった。
「君は俺が高卒だって馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿になんてしてないわ。あなたが駿の受験に否定的だから、駿にもあなたと同じ思いをさせていいのって、聞いてるの?」
パパは鼻で笑った。
「だれがそんなこと言ってんだよ。俺は駿がいま勉強に嫌気が差してるんじゃないかって言ってるんだよ」
「違うよ、パパ。僕は本当に勉強頑張るつもりなんだよ」
僕の言葉に、二人が同時の僕のほうを向いた。
「たしかに最初は中学受験に乗り気じゃなかったよ。でも、塾で頑張ってる友達を見て、僕も頑張ってみようって気になってるんだ。だから、パパにも最後まで応援して欲しい」
ママは顔をほころばせた。
「駿、よく言ってくれたわ」
それからママはパパのほうを向いた。
「あなたもこれでわかったでしょ。もうこれ以上邪魔をしないで」
パパはママに学歴コンプレックスを指摘されて、すっかり頭に血が上ったようだった。ママを挑発的な表情で睨んだ。
「じゃあ、わかったよ。駿がそこまで言うなら、俺もなにも言わないよ。ただし、次の公開模試で偏差値50以上取ったらだ。平均の偏差値50すら取れないんだったら、俺は今後駿の中学受験はいっさい認めない」
たまらずママが言った。
「あなた、日進研での偏差値50って、どれくらいのレベルなのか知ってるの? あなたの卒業した高校よりずっとレベルが高いのよ」
パパは顔をゆがめた。
「どうしてここで俺の高校の偏差値がとやかく言われなきゃならないんだ」
「あなたが駿の成績をとやかく言ってるからよ。『偏差値50すら』なって言葉が出るのはその証拠よ」
パパはふんと鼻を鳴らした。
「小学校のうちからお金使って塾に通ってんだ。それくらいは当然だ。その条件すらもクリアできないんだったら、お金のかかる中学受験なんてやめればいいんだよ」
「どうしてあなたはそんな極論ばかり言うの?」
パパは膨れ面のまま腕を組んで、顔をそむけた。
「俺はこれ以上妥協はしないぞ。駿だって、そこまで中学受験を続けたいなら、これくらいの条件はクリアできるだろ」
僕はパパの顔を見て言った。
「わかった。それでいいよ。次の公開模試で必ず50以上取ってみせるよ」
ママが不安げな顔で僕を見つめた。
「駿、そんなこと言って大丈夫?」
「うん。次の公開模試で僕が偏差値50以上取れば、パパだって認めてくれるんだから、僕頑張ってみる」
「でも……」
ママの言葉をパパが遮った。
「よく言った、駿。じゃあ、それで決まりな。駿が中学受験を続けるかどうかは、駿次第ってことだ。話はこれで終わり」
そう言い捨てると、パパはドスドスと足音を立てて、自分の部屋に戻って行った。
「本当に大丈夫なの?」
ママは不安そうな表情でそう言った。
(続く)
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