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第八章 学力は四年生で決まる?(山浦駿)(7)

 翌週塾に行ったら、寺内先生に個室に呼ばれた。
 僕を席に座らせると、少し難しい顔をして寺内先生は切り出した。
「山浦君、最近宿題が途中までしかできてないよね?」
 先週もやってみたんだけど、わからない問題が多くて、ノートを提出したものの、結局ほとんどの問題ができなかった。
「すみません」
「いや、謝ることはないんだよ。ただ、このままだと君の力がつかないと思ってね。問題が難しいのかな?」
「はい。それもありますけど、問題に引っかかると、ずっと考えこんじゃうんですよね」
「なるほど、それで引っかかった問題を考えてるうちに、時間が足りなくなって、他の問題を考えてしまうと」
「はい」
 寺内先生は何度も頷くと僕に言った。
「じゃあ、こうしよう。五分考えてわからない問題は飛ばしていいよ。次に進もう。そしてとりあえず最後まで問題をやるんだ。そしてできた問題には○、できなくて解答を見てもわからない問題には×を、解答を見てわかった問題には△をつけるんだ。それならできるよね?」
「たぶん」
 寺内先生は身を乗り出して言った。
「じゃあ、次回からそうしよう。そして△の問題をできるようにするんだ。×の問題は解答を見てもわからなかった問題だから、とりあえず置いておこう。君の志望校はC大学附属だよね。だったらそのやり方でも十分だよ」
「わかりました」
 寺内先生はやっと顔をほころばせた。
「ところで先生。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんだい?」
「パパがSNSで見つけたらしいんですけど、四年生で学力が決まるって本当ですか?」
 寺内先生は僕がなにを言っているのか、わからないような表情で僕をまじまじと見つめた。
「SNSに塾の講師の方がいて、その人が言うには、中学受験の学力は四年生で決まる。四年生で偏差値45の子はいつまで経っても偏差値45だって。決して偏差値60にはならないんだって」
 寺内先生は身を引くと腕組みをして考え込んだ。
「やっぱりそのとおりなんですか?」
 僕が重ねて聞くと、寺内先生は首を振った。
「そんなことはないと思う。だって浜名君や清原君を見てごらん。彼らは五年生までは最下位だったのに、いまや応用クラスに行きそうな勢いだよ」
「パパが言うには、それは二人とも地頭がよくて、いままでやる気がなかったけど、六年生になって本気で勉強したからだそうです」
「だったら君もその可能性があるじゃないか」
「僕は頭が悪いから」
 寺内先生は少し強い調子で言った。
「君が頭が悪い? そんなことだれが言ったんだ?」
「だれも言ってません。ただ、浜名君や清原君を見てると、やっぱり僕とは頭のできが違うのかなあって思ってしまって」
 寺内先生は首を振った。
「四年生で学力が決まる? 僕にはそんなことはわからないけどね。でも先生がここでそんなことないよ、って言っても君は信じてくれないだろ?」
 僕は黙ったまま頷いた。
「じゃあ、山浦君にもう一つ宿題だ。来週までにその疑問に対する答えを聞かせてもらおう。なんで浜名君や清原君が成績を伸ばしたのか。山浦君自身でも考えてみるといいさ」
「はあ」
 なんとなく答えをはぐらかされたような気になって僕は生返事をした。
 浜名君や清原君がなんで成績を伸ばしたんだって? そんなこと、僕にわかるわけがない。

(続く)


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