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文芸部部誌 1号

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Twitterで知り合った有志で作った、文芸部の部誌です。 皆の個性が爆発してる作品ばかりですので、宜しければ見て言って下さい。
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#一次創作

【小説】玉手箱

 少女は太平洋の中心にある島の小さな家に家族四人で暮らしていた。この島には二三軒のご近所しかおらず、少女と同年代の子供も居なかった。電子機器の類は無く、住民は皆漁で生計を立てていた。何も楽しみがないような小さな島であったが、少女は家族を深く愛し、幸福を感じていた。
そんなある日のことである。彼女が島のはずれでうろうろしていると、浜に打ちあがった大きな鉄の箱を見つけた。箱は剥げかけたカラフルなペンキ

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【小説】風船病

 受験に大失敗した私は、帰りのバスで白く染まる街を眺めていた。今までの行動を顧みるでもなく、ただ外を眺めていた。不思議なことに、街はモノクロにも極彩のようにも見えるのであった。そのように見えるのは、失敗した時のあっさりした放心からだろうか、それともこれから始まる浪人生活への緊張からくるものなのか。
 街はいつも通りの賑わいであった。街灯のイルミネーション、しんしんと降る粉雪、楽しそうに笑う子供たち

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【散文】異星人

【散文】異星人

 昔、私は広大な宇宙で、興味深い連中に出会った。
 彼らは一様に、吐き気を持っている。我慢する者もいれば、しないものもいる。それは物心ついたときからそこにあり、個体によっては程度が違う。ほとんどない者もいれば、日々苦しんでいる者もいる。治すための手段は人によって違う。治らない者も多く存在する。最先端の医療を持っていながらも、この吐き気は彼らにとって未だ最大の健康問題なのである。
 面白いのは、この

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勇者攫い

 何か、悪い夢を見ていた気がする。
 体の節々が痛い、と彼は思いながら、なんとか上体を起こす。見たことのない壁と天井。見覚えのない木のベット。はて、自分は今さっきまで何をしていただろう、と彼は考えたが、おかしいのである。何も思い出せないのだ。
 ふわり。どこからか甘い香りがして彼は目を上げた。嗅いだことのない匂いだが、美味しそうである。途端に、彼は空腹を感じた。
 カタン、という音。彼は目を上げる

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夢見病

 そう遠くない未来。
 世界は、原因不明な病に蝕まれていた。
 子どもに多くかかる病気で、自力で意識を取り戻した数少ない患者の証言から、その病は『夢見病』と名付けられた。
 その名の通り、ずっと、夢の中から目が覚まさなくなる病気であり、息はしているのに意識不明の重体といったところだった。
 夢の中では、自分が望んでいる幸せな夢をいつまでも見ることが出来るそうで、一見すると幸せな病のように見えた。

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天使の涙

 まるで針のようにそびえ立つ山脈がぐるりと町の周りを囲っていて、あまり外部からの人が寄り付かないそこには、いつしか、天使が棲みつくようになった。
 天使といっても、よく見る上半身裸の男の子の姿をしている訳でもなくて、かわいらしい小さな女の子の姿をしている訳ではなった。
 まるで、くじらを十倍にしたくらい大きく、その白い翼を広げれば町をあっという間に覆ってしまう程で、見た目は人の姿とほとんど変わらな

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