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【映画備忘録】『バビロン』(2022)

サイレントからトーキーへ移り変わる時代のハリウッドを舞台にした群像劇。昔々ハリウッドという荒野に売れてる役者と売れてない役者とメキシコからきた青年がいました……という豪華絢爛で壮大なおとぎ話。

※この先はネタバレなのでご注意。

映画への愛と様式美

デイミアン・チャゼル監督の映画愛。すごく上手いし、わたしも1920年代〜1950年代のハリウッドにどっぷり浸かってしっかり楽しんだ。3時間はあっという間。でも好みかときかれるとと少し違った。それはたぶん、わたしが登場人物に主眼を置きがちな観客だからだ。作り手とキャラクターの距離が遠い。登場人物は、生身の人間というよりキャラクターっぽい。登場人物に感情移入しすぎないのはいいことだろうし、今回それはすごく効果的だったと思うのだけれど、まぁ、好みの問題。

登場人物の造形が型にはまりすぎているのだ。たとえば、サイレント時代を築き上げた名俳優はトーキーで落ちぶれて拳銃自殺をする。「はすっぱ」で売れた女優は酒とドラッグとギャンブルで身を持ち崩す。メキシコ人の若者はチャンスをつかみ成り上がるが、好きになった人を助けようとしてトラブルに巻き込まれる。肌の色が薄い黒人のトランペッターは差別を受け、映画業界から去る。セクシーさで売るアジア系の歌手は、アメリカで成功できずにヨーロッパへ渡る。脇役もそう。批評家は辛口で意地悪なマダムだし、金持ちは映画をバカにするし、子どもで金儲けしようという親父はいるし、売れない役者は少し頭が弱くて迂闊。

古典的な役割が与えられた登場人物たちは、古典的な運命をまっとうする。実際の人物をモデルにしているらしいけれど、ディティールが足りなくて「人間っぽさ」より「キャラクターっぽさ」が勝る。
しかし、古典的なキャラクターをわかりやすく動かし、既視感のある物語を語り直すことで、古き良き映画の美しさは際立ち、悲哀もわかりやすく色濃く感じられ、何より監督が愛する ”映画” という営みそのものが、巨大な存在として立ち現れる。

だいたい展開がわかっていても、決定的な瞬間を待って、待って、待って、「やっぱり〜〜〜!」と泣いたり笑ったりできるのは、様式美なんだろうな。

その他覚え書き

  • 乱痴気騒ぎの中踊るマーゴット・ロビーから目が離せない。こりゃあイットガールだ……。床に倒れて、立ち上がり煙草をすう、長回しのカメラワークが好き。

  • 女性の監督の役、すごく雰囲気ある方だな? と調べたらオリヴィア・ハミルトンって女優さんで『ラ・ラ・ランド』にも出ていた。監督と結婚しているそうな。

  • 音楽。狂騒の時代、という雰囲気で血が沸く。ほんのり「Another Day of Sun」を感じる。最後の映画史振り返りに『ラ・ラ・ランド』いれてよかったんやで? と思ったけど、音楽でその匂いを感じたからまぁいいか。

  • 『バビロン』におけるホラーとスリラーの要素を全カバーするという重責を担うギャング運営の俗悪映画地獄。こわい。

  • ダメ男のブラピ好きにオススメ。

  • ジョージ……


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