【連載小説】公民館職員 vol.34「おっさん、再来」
「……やっぱり騙せないですよ」
「え……?」
私は言葉に詰まりつつ続けた。
「長沢さんのためにもお二人が恋人同士だって、きちんと言うべきです」
「そうは言っても……」
「理解なんて最初からされるわけじゃない、でも二人で幸せになっていくところを見てもらえば、ご両親だって納得するはずですよ!」
「そうかなぁ……」
進藤さんは遠い目をした。
「だってこのままじゃ誰も幸せにならないんですよ?」
「そりゃそうだけど……」
「長沢さんのこと、本気で想ってるんですよね?!」
「そりゃもちろん!」
「じゃあ、お二人の関係を明かすべきです。私も同席しますから」
進藤さんは目を丸くして言う。
「ユキにそこまでさせれないよ!!」
「でも第三者がいたほうが話がしやすいでしょう?」
「そりゃそうだけど……いいの?」
「はい!もちろん」
進藤さんはしばらく考えていたけど、こう言った。
「瞬と話し合ってみるよ」
「はい!前向きに、ですよ!」
そのあとドトルーコーヒーを後にして私たちは少しドライブを楽しんで帰った。
家に帰るとすぐに携帯が鳴った。
この着信音は――
おっさんだ。
『今、こっちに戻っている。今夜食事に行きますか?』
――!!おっさん!!
私は2つ返事で返信をした。
おっさんと会えなくなって、もう10ヶ月が経っていた。
懐かしい中に、熱い気持ちがまたむくむくと顔を出す。
――そうだ、私はやっぱりおっさんが好きなんだ……!!
おっさんとの待ち合わせはいつもの喫茶店だ。
文庫本を持って店に入る。なんだか懐かしい気持ちになる。
おっさんは、いつものように遅れてくるだろう。
そんな私の読みは外れて、おっさんは先に店で待っていた。
「田尻さん!」
私はおっさんの名前を呼ぶと駆け寄った。
「ユキ、元気にしとったか?」
「全然元気ないよ!!」
「元気そうやな」
そう言うと二人で笑いあった。
「でも、どうして急に戻ってきたの?」
「正月休みだ。ずらして取ることになってん」
「前もって教えてくれてたらよかったのに」
「びっくりさせたろ思ってな」
ニヤリと笑うおっさんに、私は嬉しさを隠しきれなくなる。
「やっぱり田尻さんが一番だわー」
「おっ?一番ってことは誰かに恋でもしたか?」
「そうなんだよー。聞いてよー(泣)」
私たちは最初に行ったフレンチのお店へ足を運んだ。
散々愚痴を聞いてもらって、ずいぶんすっきりした私は、おっさんにこう言う。
「やっぱり田尻さんについていけばよかった」
「こんなおっさんに?」
「おっさんだからだよ!」
「お前はやっぱり変わっとんな」
夜は更けていった。
翌日は振替休日で休みだ。
今日は1日おっさんと居られる。
昼から映画を見に行く約束だ。
鼻歌まじりに準備していると、妹が来て言う。
「なんか最近やたら浮き沈み激しいけど、大丈夫なん?」
「そう?そうかな?気のせいじゃない?」
私は更に機嫌がよくなり、鼻歌はやがて歌へと変わっていった。
「待ったか?」
いつもの喫茶店でおっさんを待っていた。
今日は早めに来たから、文庫本も役に立った。
おっさんはいつものように前の席に座ると、お冷やを頼んだ。それすら懐かしい姿だ。
そこで電話が鳴った。
進藤さんからだった。
「ちょっとごめんね」
とおっさんに言うと、構わないよ、とジェスチャーで言われる。
『もしもし、ごめんね、今、大丈夫かな?』
『大丈夫ですよ!』
『瞬とも話し合って、やっぱりカミングアウトすることにしたよ』
『それはおめでとうございます!!』
『ユキのおかげで、一歩踏み出せる気がする。ところで、日程なんだけど、いつが空いてる?』
『うーん、今週は無理ですね、来週末ならなんとか……』
『じゃあ、詳しいことがわかったら、また連絡してくれる?』
『はい!それじゃ』
電話を切ってすぐにおっさんが言う。
「例のお兄ちゃんたちか?」
「うん、カミングアウトすることに決めたって」
「勇気ある一歩やな」
「うん!」
その日は一日中おっさんを引っ張り回した。
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