見出し画像

【連載小説】公民館職員 vol.33「ぜんざい」

進藤さんのご両親に会う。

それはとても勇気のいることだった。長沢さんという人の存在を否定してしまうような、そんな感情さえ抱いた。


でも、私がここで頑張らないと二人は幸せになれないんだ、そう自分に言い聞かせている。



「ただいま」

そこは進藤さんのスポーツカーとは裏腹に、純和風の木造の二階建てだった。

「おじゃまします……」

「あらあら、こんにちは!寒かったでしょう?さぁさぁ、こちらへどうぞ」

お母さんが案内してくれる。

少し腰が曲がった様子のお母さん。

使い込まれた床や棚。扉。ここにあるすべてのものが、今の進藤さんを造り出したものなんだ。

「散らかっててごめんなさいね。ほら、お父さん、お見えになったよ、佐藤さん!」

すると、奥のコタツに足を入れたまま、お父さんが言う。

「ようこそ、ようこそ!寒いでしょう?コタツに足をどうぞ!」

「ありがとうございます。お気遣いなく……」

二人とも70代くらいに見えた。そしてそれは間違いないだろう。


私はコタツに足をいれながら正座した。


「そんなにかしこまらないで!足を崩していいんだよ!」

お母さんがリンゴを剥いて持って来ながら言う。

「はい……」

私は少し足を崩した。


進藤さんも席につくと、紹介される。

「父さん、母さん、こちらが僕の彼女、佐藤ユキさん」

「佐藤です。よろしくお願いいたします。」

「こんなべっぴんさんを隠してたんだから、お前は。」

「べっぴんさんだなんて、とんでもないです」

「いやいや、賢そうな顔をしてるし、べっぴんさんだよ」


お正月の延長にあるような今の時期、なんとなくのんびりした雰囲気だ。

「そうだ!ぜんざいがあるから、食べていきなさい。お餅はいくつ?」

「いえ、お構い無く……」

「ユキ、よかったら食べてやって。母さん昨日からこのためにぜんざい作ってたんだ」

「じゃあ、お餅は2つでお願いします」

和やかに進んでいく。


ふと、お父さんが、

「お前たちはいつ結婚するんだ?」

と聞いてきた。

「早いほうが嬉しいわよねぇ、ユキさん」

核心をつく質問だ。さすがに言葉に詰まる。

「結婚は、もうしばらくしてから……な、ユキ?」

「は、はい、焦らずいこうかと……」

「だけどお前、いい歳してまだ独身って……子供のこともあるし、早いほうがいいんじゃないのか?」

「お母さんも、ユキさんなら大丈夫だと思うわ」

子供かぁ……確かに三十代半ばにさしかかろうとしている今、子供が欲しいならば早いにこしたことはない。

まさに、核心。


「僕たちは、僕たちのペースでいこうと思ってるから」

と、進藤さんがウィンクをして見せる。

「は、はい……私もゆっくりとお互いを知ってから……と思っているので……」

なんとか誤魔化せた。


そのあとは当たり障りのない会話をして、三時間くらい経つと、進藤さんが映画の時間に間に合わなくなる、と言って連れ出してくれた。

「じゃあ、またね、ユキさん!また遊びにおいでね!」

とお母さんが見送りしてくれた。



私はしばらく、黙っていた。ドトルーコーヒーでラテを飲みつつ、進藤さんと向き合っている。

「――あれでよかったんでしょうか」

「ん、充分だよ」

「本来なら長沢さんがあの場にいるはずだったんですよね……」

「うーん」

「なんだか、騙してるのってよくない気がするんです……」

「だけど、親父たちに同性愛を理解しろっていうのは無理だし」

「結婚、期待されてますよ?」

「それは僕がうまいこと、振られたことにするから」

でも私は納得できなかった。

そりゃ、同性愛なんて、誰かが傷つくような状況になることは理解している。だけど、こんな風に騙すのはよくないことだと、私は思った。

よろしければサポートをお願いします。 生きるための糧とします。 世帯年収が200万以下の生活をしています。 サポートしてもらったらコーラ買います!!コーラ好きなんです!! あと、お肉も買います。 生きていく・・・