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【連載小説】透明な彼女 vol.3「水族館」

ユイは俺の手を引っ張って早く、早く、と促す。

大丈夫、そんなにいそがなくても水族館は逃げやしないって。


水族館の入り口でキャラクターのメガトットと記念撮影。

通行者に頼んでシャッターを切って貰う。

これで二回目のプリクラ以外の写真を手に入れたことになる。



水族館は広かった。

小さな展示物で始まった水族館は一歩踏み出せば、そこは海の中だ。

俺たちは展示物があるたびに写真を撮った。

ユイがブイサインで写る。

ブイサイン以外はないのかと聞くと、

「それ以外はないねぇ」

と一言返って来る。


俺も数枚写真を撮ってもらった。

とはいえ、元々写真に写るのが苦手な俺は隠れ気味に写って、ユイからブーイングが出た。


巨大水槽ではジンベイザメが悠々と泳いでいた。他にも鰯とおぼしき魚の群れやかつおなど美味しそうな魚がもりだくさんだ。

あ、そうだ。

水族館で魚を見て旨そうだと思うのは日本人だけだって、知っていたかい?


ぐるりとまわって、巨大水槽の下部へやってくる。

上とは違う魚のラインナップで、楽しめた。

ここでもツーショットで写真を撮って貰う。



他の水槽にはスナメリやクジラもいた。

アシカやイルカはショー前のため、水槽にはいなかった。

出てきたところでラッコを拝見。

与えられたイカとおぼしきものを食べている。

食べながら一回転したりしてかわいらしい。


しかし、ユイの気持ちはすでにイルカショーへ移っていた。


「いい場所とらなきゃ」

とステージコーナーに行くと、すでに人だかりが出来ていた。


なんとか一列目に座るところをゲットして、俺は飲み物を買いに行った。


ユイはどうせ炭酸だろうと、コーラを買う。

俺は缶コーヒーにする。


席に戻ると、ちょうど始まる時間だった。

「間に合わないんじゃないかとひやひやしたよ」

とユイ。

俺は

「俺は誰かさんと違って遅れることはありません」

と言った。


ユイは遅刻魔で、俺はいつも待たされた。

ユイはプーッと膨れっ面になる。

その頬を俺はつついた。


いよいよイルカショーの始まりだ。

最初はアシカくんたちのボールを使ったショーがだ。

ユイは食い入るように見ている。

そんなに珍しいものかな?と俺は思いつつ、イルカのショーになった。


さすがにイルカは迫力が違う。輪くぐりやボールアタック、ボールを器用にたて泳ぎでトレーナーさんのところへ持っていったり、素晴らしい。

ユイはカメラを構えたまま固まっていた。


おれはユイからカメラを奪うと、イルカの技毎に写真をおさえていった。


もちろん、くちを開いたままのユイの写真も忘れずに撮った。


ユイはイルカショーに感激したらしく、終わってもそのまま座ってたたずんでいた。



「帰るよ」

俺の一声でユイは我に返った。



土産コーナーで色々悩む。

ストラップはこの前あげたばかりだし、ぬいぐるみは可愛いけど後で置き場がなくなるし……

というわけでお菓子にした。

できるだけ美味しいものを……と思っていると、イルカ型のサブレがあったので、それを土産にした。



帰り道は順調だった。

俺がコースを覚えたからね。

ユイはナビしたいとブーブー言ったが、最初に迷っていたことを踏まえ、おとなしくしていた。


水族館の横にはプールがあるようで、来年はそっちにも行ってみようという話になる。


帰りは鳥栖のジャンクション辺りで多少渋滞したが、意外にすんなり帰れた。

行きのあの苦労はなんだったかというほどに。


こうして俺たちは一枚ずつ思い出を重ねていた。

そのたびにアルバムの写真も増えていき、いつしかアルバムは二冊目に突入していた。


そんなある日のことだった。

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